※29文〜40文は、地名については原義と異なると思われる場合でも、現在一般に使用されている漢字で表記しています。
【原文カタカナ訳】 【語義考察】 【漢字読み下し】
ヒホコキタルスマイノアヤ ひほこきたるすまいのあや ヒボコ来る スマイの文
トキアスス ムモヤソコトシ ときあすす むもやそことし 時アスズ 六百八十九年 ネヤヱハル ムツキツアトハ ねやゑはる むつきつあとは ネヤヱ春 一月ツアトは (1日がツアト) ヲミヱミコ イムナヰソサチ をみゑみこ いむなゐそさち ヲミヱ 皇子 斎名ヰソサチ (1月2日) トシヨソフ アマツヒツキオ としよそふ あまつひつきお 歳四十二 和つ日月を ウケツキテ イクメイリヒコ うけつきて いくめいりひこ 受け継ぎて イクメイリヒコ アマキミト カサリオタミニ あまきみと かさりおたみに 天君と 飾りを民に オカマシム おかましむ 拝ましむ (ハラの法)
キミウマレツキ きみうまれつき 君 生れ付き タタナオク ココロホツマニ たたなおく こころほつまに ただ直く 心ほつまに オコリナク ユメノシルシニ おこりなく ゆめのしるしに 驕り無く 夢の徴に (夢占いにより代嗣御子となる) ミヨノハツ みよのはつ 御代の初
アキアニオクレ あきあにおくれ 秋天に遅れ フユオサメ ふゆおさめ 冬 納め (10月11日に先帝の骸を葬る)
ハハイマナソコ ははいまなそこ 母いま七十九 (ミマキ姫) ミウエトシ オオハハコトシ みうえとし おおははことし 御上とし 大母 今年 (御上后) (イカシコメ) モモヤソコ ももやそこ 百八十九
フトシキサラキ ふとしきさらき 二年二月 (アスズ690年) サホヒメオ ウチミヤニタツ さほひめお うちみやにたつ サホ姫を 内宮に立つ (ヒコヰマス娘) (他動詞)
ニイミヤコ ウツスマキムキ にいみやこ うつすまきむき 新都 移す纏向 タマキミヤ たまきみや 珠城宮
シハスウムミコ しはすうむみこ 十二月生む御子 ホンツワケ アエモノイワス ほんつわけ あえものいわす ホンツワケ あえもの言わず
ミマナヨリ ソナカシチシテ みまなより そなかしちして 任那より ソナカシチして ミツキアケ ハツミヨイワフ みつきあけ はつみよいわふ 貢上げ 初御代祝ふ ヲヲンミキ タマヒタマモノ ををんみき たまひたまもの 大御酒 賜ひ 賜物 ヰツイロノ カツミネニシキ ゐついろの かつみねにしき 五色の かづみね錦 アヤモモハ ミマナノキミニ あやももは みまなのきみに 綾 百機 任那の君に (ツノガアラシト) タマワリテ シホノリヒコカ たまわりて しほのりひこか 賜わりて シホノリヒコが ノホリタテ クニニオクレハ のほりたて くににおくれは 幟立て 国に送れば ミチヒラク みちひらく 道開く (国交)
ミホハモロスケ みほはもろすけ 三年一月 モロスケ (アスズ691年) トミニメス とみにめす 臣に召す
ムカシヒホコカ むかしひほこか 昔 ヒボコが ミヤケモノ ハホソアシタカ みやけもの はほそあしたか 土産物 "ハホソ" "アシタカ" ウカカタマ イツシコカタナ うかかたま いつしこかたな "ウカが珠" "イヅシ小刀" イツシホコ ヒカカミクマノ いつしほこ ひかかみくまの "イヅシ矛" "ひ鏡" "くまの ヒモロケス イテアサノタチ ひもろけす いてあさのたち 胙据" "イデアサの太刀" コノヤクサ タシマニオサム このやくさ たしまにおさむ この八種 但馬に収む (出石神社)
ミツカキノ ミソコヒホコハ みつかきの みそこひほこは ミヅカキの 三十九年ヒボコは (崇神天皇) (アスズ659年) ハリマヨリ イタルシシアワ はりまより いたるししあわ 播磨より 到る宍粟 ソノトキニ オオトモヌシト そのときに おおともぬしと その時に オオトモヌシと (タタネコ孫) ナカオイチ ハリマニヤリテ なかおいち はりまにやりて ナガオイチ 播磨に遣りて トハシムル イワクシラキノ とはしむる いわくしらきの 問はしむる 曰く 「新羅の キミノアコ ナハアメヒホコ きみのあこ なはあめひほこ 君の上子 名はアメヒボコ オトチコニ クニオユツリテ おとちこに くにおゆつりて 弟チコに 国を譲りて ヤツカレハ ヒシリノキミニ やつかれは ひしりのきみに 僕は 聖の君に マツロイヌ まつろいぬ 服いぬ」 (=服ふなり)
ツカイカエリテ つかいかえりて 使 帰りて コレオツク ヨリテハリマノ これおつく よりてはりまの これを告ぐ よりて 「播磨の イテサムラ アワチシシアワ いてさむら あわちししあわ イデサ村 淡路・宍粟 ママニオレ ヒホコモフサク ままにおれ ひほこもふさく ままに居れ」 ヒホコ申さく スムトコロ ユルシタマハハ すむところ ゆるしたまはは 「住む所 許し給はば メクリミン めくりみん 巡り見ん」
キミユルサレハ きみゆるされは 君 許されば アメヒホコ ウチカワノホリ あめひほこ うちかわのほり アメヒボコ 宇治川上り アワウミノ アナムラニスム あわうみの あなむらにすむ アワ海の 端村に住む マタサラニ ワカサメクリテ またさらに わかさめくりて またさらに 若狭巡りて スムタシマ すむたしま 住む但馬
トモスエヒトハ ともすえひとは 伴末人は ハサマタニ ノコシイスシマ はさまたに のこしいすしま 間処に 残し 出嶋 フトミミカ マタオオメトリ ふとみみか またおおめとり フトミミが マタオを娶り アメヒホコ モロスケオウム あめひほこ もろすけおうむ アメヒホコ モロスケを生む モロスケハ ヒナラキオウム もろすけは ひならきおうむ モロスケは ヒナラギを生む ヒナラキハ キヨヒコオウム ひならきは きよひこおうむ ヒナラギは キヨヒコを生む キヨヒコハ タシマモリウム きよひこは たしまもりうむ キヨヒコは タジマモリ生む
ヨホナツキ ツウヱハヲナヱ よほなつき つうゑはをなゑ 四年九月 ツウヱはヲナヱ (アスズ692年) (1日がツウヱ) (23日) サホヒコカ キサキニトフハ さほひこか きさきにとふは サホヒコが 后に問ふは (サホ姫) アニトヲト イツレアツキソ あにとをと いつれあつきそ 「兄と夫 いづれ厚きぞ」 (大事) キサキツヒ アニトコタフニ きさきつひ あにとこたふに 后つひ 「兄」 と答ふに アツラウル あつらうる 誂うる
ナンチイロモテ なんちいろもて 「汝 色もて ツカユレト イロオトロイテ つかゆれと いろおとろいて 仕ゆれど 色 衰いて メクミサル アニナカカラン めくみさる あになかからん 恵み去る あに永からん ネカハクハ ワレトナンチト ねかはくは われとなんちと 願はくは 我と汝と ミヨフマハ ヤスキマクラヤ みよふまは やすきまくらや 世 踏まば 安き枕や タモタンソ キミオシイセヨ たもたんそ きみおしいせよ 保たんぞ 君を弑せよ ワカタメト わかためと 我がため」 と
ヒホカタナモテ ひほかたなもて 秘刀持て サツクトキ アニカココロネ さつくとき あにかこころね 授く時 兄が心根 イサメオモ キカヌオシレハ いさめおも きかぬおしれは 諌めおも 効かぬを知れば 諫めようも サホヒメノ ナカコワナナキ さほひめの なかこわななき サホ姫の 中子わななき ヒモカタナ センカタナクモ ひもかたな せんかたなくも 秘刀 せん方無くも ソテウチニ カクシイサメノ そてうちに かくしいさめの 袖内に 隠し "諌めの (=禊) セミナツキ せみなつき せみな月" (上鈴693年)
ハツヒスヘラキ はつひすへらき 初日 皇 ミユキシテ クメタカミヤニ みゆきして くめたかみやに 御幸して 来目高宮に ヒサマクラ キサキオモエハ ひさまくら きさきおもえは 膝枕 后 「思えば コノトキト ナンタナカルル このときと なんたなかるる この時」 と 涙流るる キミノカホ キミユメサメテ きみのかほ きみゆめさめて 君の顔 君 夢覚めて ノタマフハ イマワカユメニ のたまふは いまわかゆめに 宣給ふは 「今 我が夢に イロオロチ クヒニマトエテ いろおろち くひにまとえて 色蛇 首に纏えて サホノアメ オモテヌラスハ さほのあめ おもてぬらすは 騒の雨」 「面 濡らすは [サホ姫] ナニノサカ なにのさか 何の清汚」
キサキコタエテ きさきこたえて 后 応えて <胸に> カクシヱス フシマロヒツツ かくしゑす ふしまろひつつ 隠し得ず 臥し転びつつ アカラサマ キミノメクミモ あからさま きみのめくみも あからさま 「君の恵みも ソムキヱス ツクレハアニオ そむきゑす つくれはあにお 背き得ず 告ぐれば兄を ホロホセリ ツケサルトキハ ほろほせり つけさるときは 滅ぼせり 告げざる時は カタムケン オソレカナシミ かたむけん おそれかなしみ 傾けん 恐れ悲しみ <治世を> チノナンタ ちのなんた 血の涙」
アニカアツラエ あにかあつらえ 「兄が誂え ココナリト キミカヒルネノ ここなりと きみかひるねの ここなりと 君が昼寝の ヒサマクラ モシヤクルエル ひさまくら もしやくるえる 膝枕 もしや狂える (「狂ふ」の連体形) モノアラハ タマサカニエル ものあらは たまさかにえる 者あらば たまさかに得る イサオシト オモエハナンタ いさおしと おもえはなんた 功と 思えば涙 フクソテニ アフレテミカオ ふくそてに あふれてみかお 拭く袖に あふれて御顔 ウルホセリ ユメハカナラス うるほせり ゆめはかならす 潤せり 夢は必ず コノコタエ オロチハコレト このこたえ おろちはこれと この応え 蛇はこれ」 と
ヒモカタナ タセハスヘラキ ひもかたな たせはすへらき 秘刀 出せば皇 ミコトノリ チカカタニアル みことのり ちかかたにある 御言宣 近方にある ヤツナタオ メシテサホヒコ やつなたお めしてさほひこ ヤツナダを 召してサホヒコ ウタシムル うたしむる 討たしむる
トキニサホヒコ ときにさほひこ 時にサホヒコ イナキナシ カタクフセキテ いなきなし かたくふせきて 否垣成し 堅く防ぎて クタリヱス キサキカナシミ くたりゑす きさきかなしみ 降り得ず 后 悲しみ ワレタトヒ ヨニアルトテモ われたとひ よにあるとても 「我たとひ 世にあるとても シムカレテ ナニオモシロト しむかれて なにおもしろと シム枯れて 何おもしろ」 と ミコイタキ イナキニイレハ みこいたき いなきにいれは 御子抱き 否垣に入れば (ホンツワケ) ミコトノリ キサキトミコオ みことのり きさきとみこお 御言宣 「后と御子を タスヘシト アレトイタサス たすへしと あれといたさす 出すべし」 と あれど出さず
ヤツナタカ ヒセメニナセハ やつなたか ひせめになせは ヤツナダが 火攻めになせば キサキマツ ミコイタカセテ きさきまつ みこいたかせて 后まず 御子抱かせて <臣をして> シロオコエ キミニモフサク しろおこえ きみにもふさく 城を越え 君に申さく (否垣) <させ> アニカツミ ノカレンタメニ あにかつみ のかれんために 「兄が罪 逃れんために ワレイレト トモニツミアル われいれと ともにつみある 我 入れど 共に罪ある コトオシル タトヒマカレト ことおしる たとひまかれと ことを知る たとひ罷れど ミメクミオ ワスラテノチノ みめくみお わすらてのちの 御恵みを 忘らで 後の (忘れず) サタメニハ タニハチウシノ さためには たにはちうしの 定めには タニハチウシの (サホ姫の義兄弟) メオモカナ めおもかな 姫をもがな」
キミカユルシノ きみかゆるしの 君が許しの アルトキニ ホノホオコリテ あるときに ほのほおこりて ある時に 炎 熾りて シロクツル モロヒトサレハ しろくつる もろひとされは 城 崩る 諸人更れば サホヒコト キサキモマカル さほひこと きさきもまかる サホヒコと 后も罷る ヤツナタカ イサオシホメテ やつなたか いさおしほめて ヤツナダが 功 褒めて タマフナハ タケヒムケヒコ たまふなは たけひむけひこ 賜ふ名は タケヒムケヒコ (武火向彦)
ナホフツキ ハヒコモツミノ なほふつき はひこもつみの 七年七月 初日 コモツミの (アスズ695年) (開花天皇の子) コノツツキ タルネカカハヰ このつつき たるねかかはゐ 子のツツキ タルネがカバヰ ツキヒメオ タツキサキトノ つきひめお たつきさきとの ツキ姫を 立つ后 妹の カクヤヒメ ナルウチメヰカ かくやひめ なるうちめゐか カグヤ姫 なる内侍 五日 コトホキシ ハツタナハタノ ことほきし はつたなはたの 寿し 果つ棚機の カミマツリ かみまつり 神祭
アルトミキミニ あるとみきみに ある臣 君に モフサクハ タエマクエハヤ もふさくは たえまくえはや 申さくは 「當麻クエハヤ オオチカラ チカネオノハシ おおちから ちかねおのはし 大力 地金を延ばし ツノオサク カナユミツクリ つのおさく かなゆみつくり 角を割く 金弓造り トコカタリ コレオフミハル とこかたり これおふみはる 常語り "これを踏み張る ワカチカラ ヨニクラヘント わかちから よにくらへんと 我が力 余に競べんと モトムレト ナクテマカルヤ もとむれと なくてまかるや 求むれど 無くて罷るや" ヒタナケク ひたなけく ひた嘆く」
キミモロニトフ きみもろにとふ 君 諸に問ふ クエハヤニ クラフルチカラ くえはやに くらふるちから 「クエハヤに 競ぶる力 アランオヤ モフサクノミノ あらんおや もふさくのみの あらんをや」 申さく 「ノミの (ウカツクヌの子) スクネナリ ナカオイチシテ すくねなり なかおいちして スクネなり」 ナガオイチして コレオメス ノミノスクネモ これおめす のみのすくねも これを召す ノミのスクネも ヨロコヘハ アスクラヘント よろこへは あすくらへんと 喜べば 「明日競べん」 と ミコトノリ みことのり 御言宣
チカラクラフル ちからくらふる 力競ぶる カミノノリ スマイノサトニ かみののり すまいのさとに 上の法 争いの里に ハニワナシ タエマハキヨリ はにわなし たえまはきより 埴地 成し タエマは東より (土俵) ノミハツニ アヒタチフメハ のみはつに あひたちふめは ノミは西に 合ひ立ち踏めば (攻む) ノミツヨク クエハヤカワキ のみつよく くえはやかわき ノミ強く クエハヤが脇 フミテマタ コシフミコロス ふみてまた こしふみころす 踏みてまた 腰踏み殺す
トキニキミ ウチハオアケテ ときにきみ うちはおあけて 時に君 団扇を上げて (軍配) トヨマセハ トミモヨロコヒ とよませは とみもよろこひ 響動ませば 臣も喜び クエハヤカ カナユミオヨヒ くえはやか かなゆみおよひ クエハヤが 金弓および タエマクニ ノミニタマワリ たえまくに のみにたまわり 當麻国 ノミに賜わり イエハツマ ツキナシノミハ いえはつま つきなしのみは 言えば妻 「付き無しの身は ユミトリソコレ ゆみとりそこれ 弓取ぞこれ」
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