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一から学ぶ ほつまつたえ講座 第163回 [2024.6.27]

第二九巻 タケヒト ヤマト打ちの文 (5)

著者:おあずけ2号 (駒形一登)
著者HP:ホツマツタエ解読ガイド https://gejirin.com

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 神武天皇-1-5

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 たけひとやまとうちのあや (その5)
 タケヒト ヤマト打ちの文 https://gejirin.com/hotuma29.html
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 ねつきゆみはり しきひこお ききすにめせと あにはこす
 またやるやたの からすなき
 あまかみのみこ なんちめす いさわいさわそ ゑしききき
 いとうなすかみ をゑぬとき あたからすとて ゆみひけは

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 十一月七日 シキヒコを 雉子に召せど 兄は来ず
 また遣る八尺の カラス鳴き
 「天尊の御子 汝 召す いさわいさわぞ」 兄シキ聞き
 「慈愛なす尊 瘁えぬ時 仇 枯らす」 とて 弓引けば

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■十一月七日 (ねつきゆみはり)
陰暦の11月は シモツキ、ネツキ、ネシモ と呼ばれます。 ▶ゆみはり(弓張)


■シキヒコ (磯城彦)
「大和国シキ県の県主」 です。 ▶シキ県 ▶ヒコ(彦)
例によって兄/弟 の2人がおり、兄の方は 兄シキ(ゑしき) あるいは シキタケル と呼ばれ、
弟の方は 弟シキ(おとしき) と呼ばれます。


雉子 (きぎす・きじ)

■召す (めす)
君のお召しに応じて御前に詣でることは、「服従・恭順」 の表明です。
応じない場合は 「敵対」 の意思表明とみなされます。


八尺のカラス (やたのからす)

■天尊の御子/和尊の御子 (あまかみのみこ)
アマカミは アメノカミ(天の尊 or 和の尊) の換言で、「中央政府の君」 を意味します。
ここでは アマカミは 御祖天君(=ウガヤフキアワセズ)を指し、“御子” はタケヒトを指します。


■いさわ (▽勇)
イサフの名詞形で、イサフは イサム(勇む) の変態です。
「勢いの鋭いさま・勢力の大きいさま・強力なさま」 を意味します。


兄シキ (ゑしき)

■慈愛なす尊 (いとうなすかみ)
「慈愛を世にめぐらす尊」 という意で、和つ君和照らす日月 などの換言です。
これもやはり 「中央政府の君」 を意味します。 ▶慈愛(いとう)


■瘁えぬ (をゑぬ)
ヲユ(瘁ゆ)+ヌ(=なり) で、ヲユは 「曲る・逸れる・外れる・衰える・腐る」 などが原義。
ヌは 断定を表す “ナリ” の短縮形です。


■仇枯らす (あだからす)/仇ガラス (あだがらす)
「仇は滅ぼす」 の意ですが、アダガラス(仇烏) の意をかけててます。 ▶仇

 

【概意】
11月7日に使者をしてシキの県主を召せども、兄は来ず。
あらためて遣る八尺のカラスが鳴いて、「天尊の御子が汝を召す。強いぞ強いぞ。」 
兄シギはそれを聞いて、「慈愛なす尊も衰えたる時、仇は枯らすぞ。<仇ガラスめ>」
とて弓を引けば、



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 おとかやにゆき きみめすそ いさわいさわと からすなく
 おとしきおちて かたちかえ かみのいとうに われおそる
 ゑゑなんちとて はもりあえ ままにいたりて
 わかあには あたすともふす

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 弟が屋に行き 「君 召すぞ いさわいさわ」 と カラス鳴く
 弟シキ怖ぢて 容変え 「尊の慈愛に 我 畏る」
 「ええ汝」 とて はもりあえ 随に到りて
 「我が兄は 仇す」 と申す

―――――――――――――――――――――――――――――

■弟シキ (おとしき)
「大和国シキ県の県主」 の 兄/弟 2人のうちの弟の方です。
兄シキ(ゑしき)に対して、弟シキ(おとしき) と呼ばれます。


容 (かたち)
ここでは 「表情・顔色・態度」 などをいいます。


■ええ汝 (ゑゑなんぢ)
「良い汝・汝はえらい・汝はかしこい・汝は優秀」 などの意です。

 ヱヱは ヱユの名詞形で、ヱユは ヲユ(老ゆ・▽熟ゆ)の変態です。
 「上にあるさま・進んでいるさま・熟したさま・すぐれるさま」 などの意を表します。
 今風に言えば イイ・エエ (良い・善い) です。


■はもりあふ
「煽って勢いづける・おだて上げる・ほめそやす」 などの意に解釈しています。

 ハモル+アフ の連結で、ハモルは ハフル(溢る)の変態、
 アフは アフル(煽る)の母動詞と考えています。


■随に (ままに)
おだてて調子にのせるという 「思わくのままに・作戦通りに」 という意です。 ▶まま


仇す (あだす)

 

【概意】
弟の屋に行き、「君召すぞ、強い強い」 とカラスは鳴く。
弟シキは怖気づいて顔色を変え、「御上の慈愛を我は畏れる」 と。
「汝はえらい」 とおだて上げれば、おだてるままに御前に詣で、
「我が兄は敵対するだろう」 と申す。



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 ときにきみ とえはみないふ
 とにさとし をしえてもこぬ のちうつも よしと
 たかくら おとしきと やりてしめせと うけかはす

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 時に君 問えば 皆言ふ
 「経に諭し 教えても来ぬ 後打つも 良し」 と
 タカクラ・弟シキと 遣りて示せど 肯わず

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■タカクラ
タカクラシタ の略です。


■経/弟に諭す (とにさとす)
ト(経)タテ(経)と同じで、「道理・すじ道・法」 などをいいます。
ですから 「道理を説いて諭す」 という意です。
また 「弟に諭させる」 の意を掛けているかもしれません。


肯ふ (うけがふ)
ウク(受く)+カフ(▽交ふ) の連結で、「受け入れる」 の意です。

 

【概意】
時に君が問えば、皆が言う。
「道理に諭し、教えても来ぬなら、その後に打つも良し」 と。
タカクラと弟シキを遣って示せど受け入れず。



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 みちをみかうつ おしさかと うつひこかうつ おんなさか
 ゑしきのにける くろさかに はさみてうては たけるとも
 ふつくきれとも なかすねか たたかいつよく あたられす

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 ミチヲミが打つ オシサカと ウツヒコが打つ オンナサカ
 兄シキの逃げる クロサカに 挟みて撃てば タケルども
 悉く斬れども ナガスネが 戦い強く 当たられず

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ミチヲミ・ミチオミ

■オシサカ (押境)
オシ(押し)+サカ(境) で、「ミチヲミが攻めた区画」 の意と考えます。
現在の 奈良県桜井市忍阪(おつさか) にその名が残り、近隣には
忍坂(おしさか)坐生根神社、舒明天皇押坂(おさか)内陵 などがあります。

 日本書紀は男坂(おさか)と記し、ここに男軍を置いたとします。


ウツヒコ
シイネツヒコの元の名です。


■オンナサカ (女境)
“押し” の男と、それと対になる、“引き” の女 ということで、(これは 天のアワ歌 の話です)
オシサカの対として オンナサカと名づけたのではないかと考えています。
オンナは オウナ(女)の音便です。

 これは現在の 奈良県桜井市岩坂(いわさか) ではないかと考えています。
 イワ(▽忌)は ヲヱ(汚穢)の変態で、メ(陰・女)に通じるためです。
 日本書紀は 女坂(めさか) と記し、ここに女軍を置いたとします。


■クロサカ (黒境)
クロ(黒)は クル(暮る)の名詞形で、「下げ・落ち・衰え・沈み・没」 などが原義です。
ですから 「敵軍を沈めた区画」 という意ではないかと考えます。

 これは現在の 奈良県桜井市黒崎(くろさき) をいうものと考えます。
 日本書紀は墨坂(すみさか)と記し、ここに “熾し炭” を置いたとします。


タケル (建・梟帥・▽長)

■当たられず (あたられず)
「当たるを得ず・当たることができない」 という意と思います。
“当たる” は ここでは 「匹敵する・張り合う・対抗する」 などの意です。

 あたる【当たる・中る】〈広辞苑〉
 ・(勢いが)匹敵する。はりあう。

 

【概意】
ミチヲミが攻めるオシサカと、ウツヒコが攻めるオンナサカ。
逃げる兄シキの軍をクロサカにて挟み打てば、タケルどもはことごとく斬れども、
ナガスネが戦い強く 張り合えず。



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 ときにたちまち ひさめふる こかねうのとり とひきたり
 ゆはすにとまる そのひかり てりかかやけは
 なかすねか たたかひやめて きみにいふ

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 時にたちまち 甚雨降る 黄金鵜の鳥 飛び来たり
 弓弭に留まる その光 照り輝けば
 ナガスネが 戦ひ止めて 君に言ふ

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たちまち (忽ち)

甚雨・大雨 (ひさめ)
ヒス(▽秀す)+アメ(雨) の短縮で、ヒスは ヒドシ(酷し)の母動詞 ヒヅ(秀づ)の変態です。
ですから 「ひどい雨・甚だしい雨」 です。なお 日本書紀は “氷雨” と記しています。


■黄金鵜の鳥 (こがねうのとり)
「黄金色の鵜」 です。 ▶鵜(う)

 日本書紀は 金鵄(きんし) と記します。


弓弭 (ゆはず)

 

【概意】
時に忽然と激しい雨が降り、黄金の鵜の鳥が飛び来たりて弓弭にとまる。
その光が照り輝けば、ナガスネが戦いをやめて君(タケヒト)に言う。



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 むかしあまてる かみのみこ いわふねにのり あまくたり
 あすかにてらす にきはやひ いとみかしやお きさきとし
 うむみこのなも うましまち わかきみはこれ にきはやひ
 あまてるかみの かんたから とくさおさつく あにほかに
 かみのみまこと いつはりて くにうははんや これいかん

―――――――――――――――――――――――――――――
 「昔 和照る 尊の御子 イワ船に乗り 天下り
 アスカに照らす ニギハヤヒ 妹ミカシヤを 后とし
 生む御子の名も ウマシマチ 我が君はこれ ニギハヤヒ
 アマテル神の 尊宝 十種を授く あに他に
 神の御孫と いつわりて 国 奪はんや これ如何ん」

―――――――――――――――――――――――――――――

■和照る尊の御子 (あまてるかみのみこ)
このアマテルカミは 「和して照らす御上」 の意で、「和つ君・和つ日月」 の換言です。
この場合は オシホミミ を指します。つまり “和照らしますオシホミミ” です。
“御子” は クシタマホノアカリ(斎名テルヒコ) を指します。

 和照らします オシホミミ 御子はクシタマ ホノアカリ 斎名テルヒコ 下さんと 〈ホ20-1〉


イワ船 (いわふね:▽斎船・▽祝船)

 和のイワ船 大空を 駆けり巡りて この里の 名をも “空みつ和国” 〈ホ20-3〉


■天下る (あまくだる)
天(=都)から地方に行く」 という意です。当時の都はヒタカミの タカノコフ でした。
ですからテルヒコがヒタカミの都から大和国に下ったことをいいます。


■アスカに照らす (あすかにてらす)
アスカの宮を中心(都)として八方を照らし恵む」 という意です。


ニギハヤヒ
テルヒコの帰天後、アスカ朝廷には代嗣がいなかったため、アマテルは
ムメヒト
の長男クニテルに、ニギハヤヒ の名を賜ってアスカ朝廷を継がせます。

 告げ聞きて 母の嘆きは 「嗣も無や」
 神の教えは 「ハラ宮の 
クニテルを嗣 和照らす “ニギハヤヒ君”」 〈ホ27ー2〉

 アマテル─┐
      ├オシホミミ┐
 セオリツ姫┘     ├┬クシタマホノアカリ(斎名テルヒコ)
            ││
 タカキネ──チチ姫──┘└ニニキネ ┌──────ホノアカリ(斎名ムメヒト・2代ハラ皇君)
               ├───┼ホノススミ   │
 カグツミ───マウラ───アシツ姫 └ヒコホオデミ  ├─┬クニテル(ニギハヤヒ)
                            │ └タケテル
 ソサノヲ──オホナムチ──クシヒコ──コモリ───タマネ姫
                           (2女)

ここの書き方では、和照る尊の御子=ニギハヤヒ と思って当然です。
今日クシタマホノアカリとニギハヤヒは同一人として扱われていますが、
それはホツマツタヱのこの記述に最大の原因があると考えています。


妹ミカシヤ (いとみかしや)

ウマシマチ

 ニニキネ─ホノアカリ┐
           ├┬─────クニテル(ニギハヤヒ)
 コモリ──タマネ姫─┘└タケテル   │
                    ├ウマシマチ
 タカキネ─フトタマ─??┬ナガスネヒコ │
            └─────ミカシヤ姫


■アマテル神の尊宝十種 (あまてるかみのかんたからとくさ)
アマテルがテルヒコに授けた 十種宝 です。
テルヒコは父オシホミミより譲られた 三種宝 の他に、この十種宝を得ています。

・ここにト祖の 天つ神 十種宝を 授けます 奥つ鏡と 辺つ鏡 ムラクモ剣
 ウナル珠 霊還し珠 チタル珠 道明かし珠
 折霊領巾 蝕霊締む領巾 コノハ領巾 この十種なり 〈ホ20ー1〉
さきに三種の 宝物 御子オシヒトに 賜ひしは 兄御孫 得て 〈ホ24-1〉

テルヒコの帰天後、アスカ朝廷を継いだニギハヤヒは、この十種宝を譲り受けます。

 喪に入りて 領庭村の 陵 成す 後に十種の 譲り受け 〈ホ27ー2〉


あに (豈)

 

【概意】
「昔 和照る尊の御子(=テルヒコ)は、イワ船に乗って天下り、アスカの宮に照らす。
<その後を継ぐ> ニギハヤヒは我が妹ミカシヤを后とし、生む御子の名もウマシマチ。
我が君はこれニギハヤヒ。アマテル神の十種宝を授かる。
なにゆえ他の者がアマテル神の子孫といつわって国を奪わんとするや。これいかに。」



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 ときにすへらき こたえいふ なんちかきみも まことなら
 しるしあらんそ なかすねか きみのゆきより ははやてお
 あめにしめせは かんをして
 またすへらきも かちゆきの いたすははやの かんをして
 なかすねひこに しめさしむ すすまぬいくさ まもりいる

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 時に統君 応え言ふ 「汝が君も 真なら
 璽あらんぞ」 ナガスネが 君の靫より ハハ矢璽を
 天に示せば 尊璽
 また統君も 歩靫の 出すハハ矢の 尊璽
 ナガスネヒコに 示さしむ 進まぬ軍 守り居る

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璽 (しるし)
「知るすべ・あかし・証明・証拠」 を意味します。ヲシテ(押手・璽) の換言です。
この場合は 和君の璽(あまきみのに) をいいます。


靫 (ゆき)
ユク(▽結く)の名詞形で、「束ねる物・収納具・容器」 を意味しますが、
特に 「矢を入れて携帯する筒」 をいいます。


■ハハ矢璽 (ははやて)
「和君/皇君の携帯用の身分証明」 で、「白いハハ矢」 をこれに用います。 ▶皇君 ▶ハハ矢
テ(▽璽・手)は ヲシテ(押手) の略です。ですから 白矢の璽(しらやのをして) とも呼ばれます。


■天に示す (あめにしめす)
アメ(天・▽上)は ここでは 「御上」 を意味し、タケヒトを指します。


■尊璽 (かんをして)
「尊きしるし」 の意で、「真正の璽」 を意味します。
カンは カミ(上・尊・神)の音便です。辞書は “神璽” と当てます。


歩靫 (かちゆき)
上述の “靫” の、より正確な表現です。


■ハハ矢の尊璽 (ははやのかんをして)
ハハ矢璽(ははやて) の換言です。

 

【概意】
時に統君は応えて言う、「汝の君も真なら 璽があろうぞ」
ナガスネが君の靫よりハハ矢璽を御上に示せば、まさに真正の璽。
また統君も歩靫からハハ矢の尊璽を出し、ナガスネヒコに示させる。
両軍とも進撃せず見守る。



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 ねんころおしる にきはやひ わかなかすねか うまれつき
 あめつちわかぬ かたくなお きりてもろひき まつろえは
 きみはもとより くにてるの まめおうつしみ

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 懇ろを知る ニギハヤヒ 「我がナガスネが 生れ付き
 天地分かぬ 頑を」 斬りて諸引き 服えば
 君は本より クニテルの 忠を映し見

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■懇ろ (ねんごろ)

■天地分かぬ頑 (あめつちわかぬかたくな)
「上と下を区別しない頭の固さ・珠と石を見分けられない堅物」 というような意味です。

 ★頑 (かたくな)
 カタ(固・堅)+クナ の同義語連結で、クナは クニ(地)の変態です。
 「凝り固まるさま」 が原義です。


服ふ (まつろふ・まつらふ)

クニテル
ニギハヤヒの斎名です。


忠 (まめ)

 

【概意】
君(タケヒト)の態度に真心のこもるさまを見たニギハヤヒは、
「我がナガスネの生れ付き、天地をも分かぬ堅物を」 と、ナガスネを斬り、
諸を率いて服従すれば、君はその行動にクニテルの心底の忠を映し見て、



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 いはわれの こやにへおねり としこえて
 こせのほふりや そふとへと ゐのほふりらも
 つちくもの あみはるものお みなころす

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 イハワレの 籠屋に方を練り
 年越えて コセのホフリや ソフトベと ヰノホフリらも
 土蜘蛛の 網張る者を みな殺す

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イハワレ (磐余)

■籠屋 (こや)
「こもる屋」 の意と考えます。君が入る仮屋をいうのでしょう。 ▶仮屋


■方 (へ)
ユクヘ(行方) の ヘ(方) と同じで、「方法・方策・やり方」 を意味します。


■コセのホフリ
カダキ別司 の換言です。日本書紀には 居勢祝 と記されます。

 ★コセ (巨勢・居勢・古瀬・御所)
 クズ(葛・国栖) の変態で、葛城(かつらぎ・かつき・かだき) の換言です。
 
 ★ホフリ・ハフリ (▽侍り)
 ハベル(侍る) の名詞形 ハベリ(侍り) の変態です。
 「侍る者・守る者」 を意味し、「モノノベ・臣・守・司・主・長」 などの換言です。


■ソフトベ (添戸畔・層富戸畔) ■ソフ (添・層富)
ソフは “添郡・層富郡” をいい、これは カスガ県 の換言です。 ▶トベ

 ★添・層富 (そふ)
 ソフ(添ふ・沿ふ) の名詞形で、「合わすさま・和すさま・調和するさま」 を意味し、
 カスガ(▽和直・春日) の換言です。


■ヰノホフリ
ヰノは ユヒノ(結野) の短縮で、これは ヨシノ(吉野) の換言と考えます。
ですから ヰヒカリイワワケ 同様、吉野峰の縁 の県の一つだと思います。
その県主が ヰノホフリ で、日本書紀には 猪祝 と記されます。


土蜘蛛 (つちぐも)
ツチ(土・地)クモ(雲・▽隈) で、天の恵みを翳らす 「地の雲・世の隈」 という意を、
同音の昆虫の名で表しているものと考えています。
また蜘蛛は網を張りますから、御上に逆らって 「地に縄張りするもの」 の意もあるように思います。

 

【概意】
磐余の籠屋に方策を練り、年を越してから
<敵対する> コセのホフリや、ソフトベ、ヰノホフリらも、
土蜘蛛の網張る者をみな殺す。



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 たかおはりへか せひひくて あしなかくもの おおちから
 いわきおふりて よせつけす
 たかのみやもる うものぬし くしみかたまに みことのり 
 ものぬしかかえ くすあみお ゆひかふらせて ややころす

―――――――――――――――――――――――――――――
 高尾張侍が 背低くて 足長蜘蛛の 大力
 忌気を振りて 寄せ付けず
 タガの宮守る ウモノヌシ クシミカタマに 御言宣
 モノヌシ考え 葛網を 結ひ 被らせて やや殺す

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■高尾張侍 (たかおはりべ)
カツラギ(葛城) を縄張りとする侍」 という意ですが、 ▶侍(べ)
この場合は正規の守ではなく、「葛城に網を張る土蜘蛛」 をいいます。

 ★高尾張 (たかおはり)
 カツラギ(葛城) の換言です。

  後代、尾張連(おはりむらじ) が 尾張国(現在の愛知県) を治めるようになりますが、
  尾張連の起源は “高尾張” であるといいます。しかしそれはこの土蜘蛛ではなく、
  葛城の正規の領主である カツテ・ツルギネ の末裔を指します。
 
 ★高尾 (たかお) ★高丘 (たかおか)
 タカ(高)+オ(峰・丘) で、両語とも 「高み・上」 が原義。カツラ(桂・鬘) の換言です。

 ★張 (はり)
 「縄張り」 の意で、「区分・区画・領土」 を意味し、アガタ(県)キ(▽限・城) の換言です。


■忌気を振る (いわきおふる)
「汚穢の気を放つ・妖気/毒気をふりまく」 などの意です。 ▶イワ(▽忌) ▶気
忌を蹴散らす”  “忌を蹴散く”  “阿汚放つ” などともいいます。


タガの宮 (たがのみや)
この時点での国家首都です。


■ウモノヌシ
オオモノヌシ と同じです。 ▶おお/うほ/を/う


クシミカタマ
オオモノヌシのクシミカタマは、タガの皇君(=ヰツセ)の “代殿” として、
タガの宮に残り、タケヒトとヰツセの留守中、ずっと国家の大政を執り続け、
中央政府の行政機能をなんとか存続させています。


考ふ (かがふ・かんがふ)

■葛網 (くずあみ)
「葛の蔓で編んだ網」 です。
クズ(葛)は カツラギ(葛城)の別名ですから、“葛の網” を以って
葛城に巣食うタカオハリ侍を一網打尽にする まじないの種(=モノザネ) としたわけです。

 

【概意】
タカオハリの侍は 背が低くて大力の足長蜘蛛。
汚穢の気を放って寄せ付けぬため、タガの宮を守るオオモノヌシの
クシミカタマに対策を御言宣。
モノヌシは考えて、葛網を結い、それを被らせてようやく殺す。

 

本日は以上です。それではまた!

 

 

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