⇦前の講座          目次           次の講座⇨ 

 

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

一から学ぶ ほつまつたえ講座 第53回 [2023.9.29]

第十巻 カシマ直ち 連り鯛の文 (5)

著者:おあずけ2号 (駒形一登)
著者HP:ホツマツタエ解読ガイド https://gejirin.com

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 かしまたちつりたいのあや (その5)
 カシマ直ち 連り鯛の文 https://gejirin.com/hotuma10.html
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

―――――――――――――――――――――――――――――
 またひとり ありといふまに あらはるる たけみなかたそ
 ちひきいわ ささけてたれか わかくにお
 しのひしのひに おとさんや いてわかちから くらへんと

―――――――――――――――――――――――――――――
 「まだ一人あり」 と言う間に 現わるる タケミナカタぞ
 千引岩 捧げて 「誰か 我が国を 忍び忍びに 脅さんや
 出で我が力 比べん」 と

――――――――――――――――――――――――――――

■タケミナカタ
オホナムチには181人の子があったとされますが、ホツマに登場するのは5人だけで、
その内の1人です。古事記には 建御名方神 と記されます。

 オホナムチ 生え画内で 楽しむる 百八十一人 子に満つるかな  〈ホ9-6〉

  ソサノヲ┐      
      ├──オホナムチ──┐┌─クシヒコ
  イナタ姫┘ (オオモノヌシ) ││(コトシロヌシ)
                ├┤
  アマテル┐         │├─タカコ
      ├──タケコ────┘├─タカヒコネ
  ハヤコ─┘          ├─タケミナカタ
                 ├─シマツウシ
                 └─ 他176名


■千引岩 (ちびきいわ)
「千人でようやく引けるほどの巨大な岩」 をいいます。
タケミナカタ も怪力を誇っていたようですが、この時は相手が悪すぎました。
万引きの岩 を投げる タケミカツチ ですから。


■捧ぐ (ささぐ)
サス(差す)アグ(上ぐ) の連結 “サシアグ” の短縮形です。
サスは “傘をさす” のそれで、両語とも 「上げる・高める」 が原義です。
「献上する・奉納する」 の意に使われる場合が多いのですが、ここでは 「持ち上げる」 の意です。


■忍び忍びに (しのびしのびに)
シノブ(忍ぶ) は、「内にひそめる・内に抑える・外に出さない」 などの意です。
ですから 「ひそやかに・隠れて・裏でコソコソ」 等の意となります。

 ★忍ぶ・偲ぶ (しのぶ) ★忍び・偲び (しのび)
 シナブ(匿ぶ)・シナフ(撓ふ)シナブ(萎ぶ) などの変態で、
 「離す・そらす・曲げる・外す・隠す」、また 「脱落する・垂れ下がる」 などが原義です。

 しなぶ【匿ぶ】〈広辞苑〉
 かくす。つつむ。しなむ。

 

【概意】
「まだ一人いる」 と、言う間に現われるタケミナカタであった。
千引岩を持ち上げて 「誰か我が国を裏でコソコソ脅そうとするか。
出できて、我が力と比べようぞ」 と、



―――――――――――――――――――――――――――――
 とるてもいわの みかつちか とらへてなくる あしかひの
 おそれてにくる しなのうみ すわといふとき かしこみて
 われおたすけよ このところ ほかえはゆかし そむかしと
 いえはたすけて たちかえり

―――――――――――――――――――――――――――――
 取る手も岩の ミカツチが 捕へて投ぐる アシカヒの
 恐れて逃ぐる シナの海 「すわ」 と言ふ時 畏見て
 「我を助けよ この所 他へは行かじ 背かじ」 と
 言えば助けて 立ち帰り

―――――――――――――――――――――――――――――

■取る手も岩 (とるてもいわ)
タケミナカタが持ち上げた千引岩を、奪い取るミカツチの手も
また岩のようであったということです。

 ★岩・巌・磐 (いわ) ★石 (いし)
 イワ(岩) は イフ(▽結ふ) の名詞形で、イフ は ユフ(結ふ) の変態です。
 ウビコ(泥塊:溶岩) が冷えて 「結んだもの・凝り固まったもの」 が原義です。
 イシ(石) は イス(▽結す) の名詞形で、これも原義は同じです。


■アシカヒの (▽葦萱の・葦牙の)
“シナ” にかかる 枕詞 と考えます。(辞書 は “葦牙” と当て、“足” にかかると説明)

 アシカヒ(▽葦萱) は チガヤ(茅萱) の換言で、屋根を覆う材として用いられました。
 “屋根” は 「家屋の一番高い場所」 です。そして シナの国 (=信濃国) は 国家の中で
 もっとも平均標高の高い国です。
 そのため アシカヒ(▽葦萱) は 国家の屋根=シナの国 にかかると考えています。
 また アシカヒ は アチ(阿智) や カヒ(甲斐) の地名となったとも考えています。

 アシ(葦) は アス(填す) の名詞形、カヒ は カフ/カウ(高・甲)、カヤ(萱) などの変態。
 いずれも 「高いさま・高地・栄えるさま・繁茂」 などが原義です。


■シナの海 (しなのうみ)
「高所の海」 という原義で、諏訪湖 を指します。 ▶シナ
諏訪湖の水面の標高は759メートルです。


すわ
これは今に言う “さあ” で、「促し・勢い付け」 の詞です。
そしてもちろん スワ(諏訪) に語呂合わせしています。

 ★すわ (諏訪)
 岨(そわ・そば) の変態で、「そびえ立つ所・そそり立つ所」 を意味します。


■畏見る (かしこみる)
カシコ(恐・畏・賢)+ミル(見る) で、「尊敬/畏怖の念を抱く」 という意です。
カシコマル(畏まる)オソレイル(恐れ入る) などと同義です。
後世は カシコム(畏む) という動詞に変形しています。

 カシコ は カシグ(炊ぐ) の名詞形で、相手を 「上げる・高める・敬う・尊ぶ」 などの意ですが、
 これは裏返せば、自分が 「下がる・低まる・退く・おじけづく」 という意にもなります。


■行かじ (ゆかじ) ■背かじ (そむかじ)
ジ は 否定の ズ の推量・意志形で、マジ と同じです。
マジ は現代語に言う マイ で、この場合は 「行くまい」 「背くまい」 という意になります。


立ち帰る (たちかえる)

 

【概意】
<持ち上げた千引岩を> 奪い取る手も岩のような ミカツチがその岩を投げて、
恐れたタケミナカタは 葦萱の シナの海(=諏訪湖) へと逃げるも、
<追い詰めて> 「さあ!どうする」 と言う時、タケミナカタはかしこまって
「我を助けよ。この所の他へは行くまい、背くまい」 と言えば助けて、
ただちにイヅモへもどり、


 これにより タケミナカタ は シナの国 に土着し、その知行者となります。
 前の知行者はどうしたのか? という疑問が湧いてきますが、おそらく
 前任者はいなかったのでしょう。シナの国の立地・自然環境は非常に厳しいため
 住む人も少なく、まだ国としての体をなしていなかったと考えています。
 以後、タケミナカタが 諏訪湖畔 を拠点として開拓してゆくのです。
 タケ(▽高・丈・長)+ミナ(▽峰)+カタ(方) は 「高峰の区画」 を意味し、
 シナの国、スワ(諏訪) の換言です。


  諏訪大社 (すわたいしゃ)
  信濃国諏訪郡。長野県の諏訪湖周辺に4宮。
   上社本宮(かみしゃほんみや) 長野県諏訪市中洲宮山1。
   上社前宮(かみしゃまえみや) 長野県茅野市宮川2030。
   下社秋宮(しもしゃあきみや) 長野県諏訪郡下諏訪町193。
   下社春宮(しもしゃはるみや) 長野県諏訪郡下諏訪町5828。
  現在の祭神:建御名方神
  ・諏訪大社の古名は 南方刀美神社(みなかたとみのかみのやしろ:峰方臣の神の社)。



―――――――――――――――――――――――――――――
 とえはことふる おほなむち そのこのままお ふたかみえ
 わかこさりにき われもさる いまわれさらは 
 たれかまた あえてなれなん ものあらし
 わかくさなきの このほこに ならしたまえと いひてさる

―――――――――――――――――――――――――――――
 問えば応ふる オホナムチ その子のままを 二尊へ
 「我が子 退りにき 我も退る いま我退らば
 誰かまた あえて平れなん 者あらじ
 我がクサナギの この矛に 平し給え」 と 言ひて退る

―――――――――――――――――――――――――――――

■応ふる (ことふる)
コタフ(応ふ・答ふ) の変態 “コトフ” の連体形で、コタエル(応える・答える) と同じです。

 コタフ/コトフは 「往き来させる・回す・伝える・返す」 などが原義で、
 コトフ の名詞形が コトバ(言葉)、また コトフル の変態が コトワル(断る) です。


■その子のまま (そのこのまま)
「タケミカタナの言う通り」 という意です。 ▶まま (儘・任・随)


■二尊 (ふたかみ)
この 二尊 は 「タケミカツチとフツヌシ」 を指します。


■退りにき (さりにき)
これは 「退りにければ」の略形です。 ▶さる(▽退る)
この ‘き’ の使い方は “〜じゃ・〜じゃ・〜じゃけん” など 方言に多く残ります。
サル(▽退る) は、ここでは ヒク(退く)・シリゾク(退く) の意です。


■平れなん (なれなん)
ナル(▽和る・▽平る・慣る・馴る) は 「やわす・馴染む・懐く・平らに収まる」
などが原義で、この場合は 「まつろう・平伏する・服従する」 などの意です。
ナン は ナ(否定のヌの未然形)+ン(意志/推量) で、「〜しようとしない」 の意を表し、
ナレナン は 「服従しようとしない」 という意味になります。


■あらじ
これも ジ は 否定の ズ の推量・意志形で、マジ と同じです。
この場合は 「あるまじ・あるべきでない・あってはならない」などの意を表します。


■クサナギ (▽曲和ぎ・草薙)
クサ(▽曲)+ナギ(和ぎ・凪) で、「曲りの直し」 を意味します。
クサ は クセ(曲) の変態。ナギ は 「やわし・治め・調和・直し」 などの意。
草薙 (草を薙ぎ払うこと) を モノザネ とする場合もあります。

 ここに言う “クサナギの矛” は、有名な 草薙剣 とは別物です。


平す・均す (ならす)
ナル(▽平る・▽和る・慣る・馴る) の他動詞形で、
「やわす・収(治)める・調える・直す・平定する」 などの意です。

 

【概意】
「我が子が退いたからには 我も退く。
今 我が退いて、また誰か、あえて従おうとしない者があってはならぬゆえ、
我が クサナギの この矛に平し給え」 と言いて退る。



―――――――――――――――――――――――――――――
 さかふはきりつ まつらふは ほめてもろかみ ひきいつつ
 あめにかえれは こふのとの まつりおとりて みことのり

―――――――――――――――――――――――――――――
 逆ふは斬りつ 服ふは 褒めて 諸守 率いつつ
 天に返れば 代の殿 政を執りて 御言宣

―――――――――――――――――――――――――――――

逆ふ (さかふ)
ここでは名詞形で、「逆らう者」 という意です。


■斬りつ (きりつ)
ツ は ツツ の短略で、今の接続助詞 “テ” と同じ。
ですから “斬りつ” は 現代語の “斬りつつ・斬って” と同義です。

 ツツ は ツヅル(綴る)・ツヅク(続く) の母動詞 “ツツ” の名詞形で、
 「合わせ・結び・つなぎ」 などが原義。
 それを 「〜して、なおかつ・〜しながら」 の意の接続詞としています。


■服ふ (まつらふ・まつろふ)
ここでは名詞形で、「服従する者」 を意味します。
 
 ★服ふ (まつらふ・まつろふ:動詞)
 マツル(纏る)+アフ/オフ(合ふ) の短縮で、両語とも 「合う・付く・まとう・まとまる」
 などが原義。「付き添う・まとい付く・付き従う・服従する」 などの意を表します。
 マツワル(纏わる)マトワル(纏わる)マトマル(纏まる) などの変態です。


諸守 (もろかみ)
この場合は、オホナムチの配下として 「イヅモの国を治めていた諸役人」 をいいます。


天 (あめ)

代の殿 (かふ/かう/こふのとの)
7代タカミムスビのタカキネが、病弱の国君オシホミミに代わり、
中央の政を執るために就いた臨時の役職です。

 

【概意】
逆らう者は斬りつつ、従う者は褒めて、諸守を率いつつ
中央政府に帰って報告すれば、<君に代り> 代の殿が政を執って御言宣。



―――――――――――――――――――――――――――――
 なんちふつぬし あわうわの とふるみちひき さかんなり
 またみかつちは かしまたち いつおあらはす もののへの
 なんたやわらに もとすより たまふかんへは かしまかみ

―――――――――――――――――――――――――――――
 「汝フツヌシ アワウワの 通る導き 盛んなり」
 「またミカツチは 曲染 直ち 稜威を現す モノノベの
 灘 柔らに 戻すより 賜ふ尊部は “カシマ尊”」

―――――――――――――――――――――――――――――

■アワウワの通る (あわうわのとふる)
「混沌・混乱に 秩序が通る」 という意です。 ▶アワウワ (▽泡泥)


盛ん (さかん)
サカリ(盛り) の音便で、サカリ は サク(咲く)+カル(上る) の短縮 “サカル” の名詞形です。
両語とも 「高まる・勢いづく・栄える・優れる」 が原義で、サクラ(桜)・サカエ(栄え) の変態。


曲染 (かしま) ■直つ (たつ)
「さかしま・よこしまを直す/正す」 という意です。


■稜威を現すモノノベ (いつおあらはすもののべ)
イツ(稜威・厳)は 「勢いの鋭いさま・厳しさ・気概・意地・憤慨」 などをいいます。
ですからここでは 「憤慨をあらわにするモノノベ」 という意となります。

 モノノベ は 公務員・役人 をいいますが、モノノベの主が オオモノヌシ です。
 ですからすべての モノノベ は、オホナムチの部下であるのです。
 またオホナムチは ホヒ親子アメワカヒコ が、靡いて寝返るほどに人望が
 ありました。そうした親ぶんが失脚させられたわけですから、モノノベたちが
 憤慨をあらわにするのも無理のないことでしょう。


■灘・▽難 (なんだ)
ナダ(灘) の音便です。「高ぶり・険しさ・激しさ」 などを意味します。
本当は 「難」 の意ですが、これには ナダ の読みが無いので、やむなく “灘” を当て字しています。


和ら・柔ら (やわら)
「中和・調和するさま・極端に偏らない状態」 をいい、ヤスラ(安ら) の換言です。
“和らに戻す” は、憤慨するモノノベの激昂を和らげて、「穏やか・平穏」 に戻すという意です。

 ヤワ(▽和・柔)+ラ で、ラ は アル(在る) の名詞形、「ありさま・状態・位置」 を表します。
 ヤワ は ヤフ の名詞形で、ヤフ は アフ(合ふ・和ふ)、ユフ(結ふ) などの変態です。


■尊部 (かんべ)
カミナ(尊名) と同じです。 「称え名・称号」 をいいます。
ベ(侍・部) は 「付くもの・添うもの」 を表し、この場合は 「名」 の換言です。

 ★侍・綜 (へ・べ)
 ヘル(綜る)ヘス(圧す) などの名詞形で、
 「合わせ・添え・付き・ガイド・ガード」 などが原義です。


■カシマ尊 (かしまかみ)
タケミカツチ に賜った尊名です。
この カシマ は “カシマ直ち” の カシマ(▽曲染) とは意味が違い、
“和らに戻す” ことを表すものです。

 ★カシマ (▽和染・▽和親)
 カス(和す)+シム(染む・締む・▽親) の短縮 “カシム” の名詞形で、
 両語とも 「合わす・和す・調和する・なじませる・なだめる」 などの意です。

 

【概意】
「汝フツヌシの 混沌に秩序が通るその導きはみごとなり。」
「またミカツチは曲りを正し、憤慨をあらわにするモノノベの
高ぶりを平穏に戻すにより、“カシマ尊” の尊名を賜う。」



―――――――――――――――――――――――――――――
 ときにまつらふ おほなむち ももやそかみお ひきゐきて
 まめもひかけの なんたあり たかみむすひの たたしゑた
 ことわりあれは みことのり たまふあそへの あかるみや

―――――――――――――――――――――――――――――
 時に服ふ オホナムチ 「百八十守を 率い来て
 忠も日陰の 灘あり」 タカミムスビの 正し枝
 理あれば 御言宣 賜ふアソベの “アカル宮”

―――――――――――――――――――――――――――――

■百八十守 (ももやそかみ)
オホナムチの子供たちをいいます。
180という数は、シナの国に逃れた タケミナカタ を除いた子供の数です。

 オホナムチ 生え画内で 楽しむる 百八十一人 子に満つるかな 〈ホ9-6〉


忠 (まめ)

■日陰の灘 (ひかげのなんだ)
「人知れぬ困難・陰の努力奮闘」 という意に取っています。

 ★なんだ
 ナダ の音便で、「難」  「傾」  「涙」 の 3種の意味があります。


■正し枝 (ただしゑだ)
「公正のための言い訳・不公平を排除する言い分」 という意です。
タダス(正す・直す) は 「まっすぐにする・片寄りをなくす・不公平をなくす」 が原義。
ヱダ(枝) は 「分け・訳」 の意で、この場合は 「言い訳言い分」 をいいます。

 
 ★枝 (ゑだ・えだ・ゑ)
 ヱツ(▽回つ・▽越つ) の名詞形で、ヱツ は オツ(復つ) の変態。
 「回転・あらため・更新・再生・繰り返し」 などが原義で、
 「母体から新たに生まれるもの・派生・新派・子孫」 などを意味します。


理 (ことわり)

■アソベ (彼辺)
アソ(彼)+ベ(辺) で、アソ は アソコ(彼処・彼所) の アソ です。
「遠く離れる所・辺鄙・辺境」 を意味する地名で、辺境とは 具体的には
ヒスミの国 (=津軽) をいいます。 ▶ヒスミ

 青森県の岩木山周辺は古くから アソベ(阿曽部)の森 と呼ばれています。


■アカル宮 (あかるみや)
アカル(散る・分る)ミヤ(宮) で、アカル は 「離れる・隔たる・外れる」 などが原義。
「辺境の宮/都」 という意で、アソベ と同義です。


御言宣 (みことのり)
これは 国君オシホミミ による御言宣だと思います。
さすがに知行地を付与するというような重大な決定は、
代の殿の独断ではできないのでしょう。

 

【概意】
時に服従したオホナムチについて、
「180人の守を率い来て、忠も人知れぬ奮闘あり」 と、タカミムスビの公平な言い訳。
理あれば オシホミミ君は御言宣。アソベのアカル宮をオホナムチに賜う。

 
 タケミナカタの場合と同じく、北端の地である津軽はまだ国として成立しておらず、
 中央政府の統治が及んでいないのでしょう。そこにイヅモ国を繁栄させた実績を持つ
 オホナムチを知行者として送り込めば、あわよくば津軽は第二のイヅモになるかも …
 という中央政府の期待が透けて見えるような気がします。そしてオオナムチは
 みごとにそれを成し遂げるのです。



―――――――――――――――――――――――――――――
 あふゆおうくる おほなむち あかるあそへの うもとみや
 つくるちひろの かけはしや ももやそぬゐの しらたてに
 うつしくにたま おほなむち つかるうもとの かみとなる
 ほひのみことお もとまつり

―――――――――――――――――――――――――――――
 天振ゆを受くる オホナムチ あかるアソベの ウモト宮
 造る千尋の 掛橋や 百八十縫の 標立に
 現し地尊 オホナムチ ツカルウモトの 守となる
 ホヒの尊を 元纏り

―――――――――――――――――――――――――――――

■天振ゆ (あふゆ)
ア(天) は アメ(天) の略で、ここでは「中央政府・御上・皇」をいいます。
フユ(振ゆ) は 「恵み・施し」 の換言。ですから 「御上の恵み」 という意となります。


あかる (散る・分る) ■アソベ (彼辺)

■ウモト (▽埋没) ■ウモト宮 (うもとみや:▽埋没宮)
ウモト は ウム(埋む)モツ(▽没つ) の短縮 “ウモツ” の名詞形で、
「(日が) 埋没状態にある方角=」 を意味し、ヒスミ(日済) の換言と考えます。
よって ウモト宮 は 「ヒスミ国の宮/都」 の意で、アカル宮 の換言です。

 ムツ(陸奥) も モツ(没) の変態かと思案中です。

 
■千尋の掛橋 (ちひろのかけはし)
「広さ2000畳の掛橋」 です。

 ヒロ(尋) は 「両手を左右にひろげた時の両手先の間の距離」 で、
 1尋=約1.8m とありますが、もとは面積の単位だったと考えています。
 つまり 1尋=1間平方=1.8m×1.8m=2畳、千尋=2000畳 です。

 カケハシ は 「掛け合わせ」 という意で、「隔たる2カ所に掛けて結ぶもの」 をいい、
 ただの ハシ(橋) との違いはありません。


■百八十縫の標立 (ももやそぬゐのしらたて)
“百八十縫” は オホナムチの 「180人の子らが縫ったこと」 をいい、
シラタテ(▽標立) は 「知らせるために立てるもの」 の意。
つまり 「ウモト宮を示す標識 (旗・幟)」 をいうのではないかと考えます。

 日本書紀は “百八十縫の白楯” と記していますが、“楯” ではないと思います。
 ホツマには防具の 「楯」 については何も書かれてなくて、
 剣(太刀)を 敵の攻めを遮断するための武具として位置づけています (23アヤ)。
 つまり タチ(太刀) を タテ(楯) とするため、楯は使わなかったと考えています。


■現し地尊 (うつしくにたま)
「下界の尊者・物質的繁栄の偉人」 などの意で、オホナムチの称え名です。
記紀には 宇都志国玉神/顕国玉神 と記されます。 ▶現し国

 岩木山神社 (いわきやまじんじゃ)
 青森県弘前市百沢字寺沢27。  
 現在の祭神:顕国玉神 (うつしくにたまのかみ)
 ・岩木山(625m) の南東麓に鎮座。岩木山は古く 「アソベ の森」 と呼ばれた。


■ツガル (▽尽離る・津軽)
ツク(尽く)カル(離る) の短縮で、「至って離れる・極めて隔たる」 などの意です。
これが名詞化した地名が ツガル(津軽) で、やはり 「辺鄙・辺境」 を意味します。
ですからこれも アソベアカルウモト などの換言です。


ホヒの尊 (ほひのみこと)
アマテルの長男で、尊(みこと) はアマテルの御子に対する敬称です。
カシマ直ち の勅使の1人目としてイヅモに派遣されますが、
オホナムチになびいてイヅモに居着きます。


■元纏り (もとまつり)
「元の国を纏る者」 という意です。 ▶纏る
元の国とは 「オホナムチの元の国」 という意で、イヅモの国 を指します。

 ホヒ は モチコ の生んだ男子で、根国とサホコチタル(イヅモの旧名)を平定し、
 その最初の知行者となった、アワナキ の血筋を受け継ぐ唯一の皇子です。
 それゆえオホナムチが去った後の、イヅモ国の後継者に任じられたものと考えます。

 
 ウビチニ┬ツノクヰ─オモタル  ┌ココリ姫
     │            │
     └アメヨロヅ┬アワナキ─┼イサナキ───アマテル      
           │      │        ┃
           └サクナキ  │ ??????? ┌─モチコ──ホヒ
                  │  ┃──┤  ┃
                  └クラキネ └─ハヤコ──タケコ・タキコ・タナコ
                     ┃──┐
                   サシミメ  └─クラコ
                           ┃
            トヨケ───カンサヒ───アメオシヒ


 ★元・本・基・原・旧・故 (もと)
 モドル(戻る) の母動詞 “モツ” の名詞形で、「回る・巡る・還る・回帰する」 などが原義です。
 ですから 「回って返る所・回帰する所・前にいた所・出発点・原点」 などを意味します。
 “もっと”  “また” も同源で、「あらためて・さらに・くりかえして」 の意を表します。

 

【概意】
御上の恵みを受けるオホナムチ。あかるアソベ (遠き辺鄙) の “ウモト宮”。
千尋の掛橋や百八十縫の標旗を造り、地上の尊者オホナムチは 最北端の守となる。
ホヒの尊を元国イヅモの守となす。


 ところで日本書紀の第九段一書(二)に、次のような記述があります。

 ❝ 汝が住むべき 天日隅宮 は今つくりまつらむこと、即ち 千尋の栲縄 を以て、
 結ひて百八十紐にせむ。 (中略) また天安河に 打橋 つくらむ。
 また 百八十縫の白楯 つくらむ。また汝が祭祀を主らむは 天穂日命 これなりと。❞

 ここに言う 天日隅宮 (あめのひすみのみや) は、現在は 出雲大社 を指すと
 考えられていますが、実は ヒスミの国 (=津軽) の ウモト宮 であるようです。

 

本日は以上です。それではまた!

 

⇦前の講座          目次           次の講座⇨