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一から学ぶ ほつまつたえ講座 第5回 [2023.7.12]
第一巻 東西の名と蝕虫去る文 (5)
著者:おあずけ2号 (駒形一登)
著者HP:ホツマツタエ解読ガイド https://gejirin.com
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きつのなとほむしさるあや (その5)
東西の名と蝕虫去る文 https://gejirin.com/hotuma01.html
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たまつのをしか あちひこお みれはこかるる わかひめの
わかのうたよみ うたみそめ おもひかねてそ すすむるお
ついとりみれは
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タマツの御使 アチヒコを 見れば焦るる 沸姫の
沸の歌 詠み 歌見染め 思ひ兼ねてぞ 進むるを
つい取り見れば
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■御使 (をしか)・御使人 (をしかど)
シカ(使)
の尊敬語で、「君・神の代理の者・君・神が遣わす使者」
をいいます。
サオシカ(▽差使) とも呼ばれます。
“タマツの御使” は 「タマツ宮に遣わされた君の使者」
という意味です。
★シカ (使・▽如)・シカド (使人・▽如人)
シカ は シク(如く)
の名詞形で、「如くの者・代りの者・代理」 が原義です。
ですから “使” は意訳した当て字です。
■沸姫 (わかひめ) ■沸の歌 (わかのうた)
この ワカ は ワク(沸く) の名詞形です。やはり ワカ姫
のことを指しますが、
“見れば焦るる”
とあるため、「アチヒコを見て恋い焦がれ、心を沸き立たすワカ姫」
という意味で “沸姫” と当て字しています。
同様に “沸の歌” は、「沸き立つ思いを綴る歌」
という意味です。
■歌見 (うたみ)
「歌を書き付ける札」 のことです。
歌札(うたふだ)・染札(そめふだ)・歌得(うたゑ)
などとも呼ばれます。
■思ひ兼ねて (おもひかねて)
“思ふ” は 「心に留める」 という意で、“兼ねて” は
「できなくて」 という意です。
ですから “思ひ兼ねて” は 「心に留めておけなくて」
という意味になります。 ▶思ひ兼ぬ
そしてこの言葉が、アチヒコの別名 オモイカネ(思兼命)
の由来で、
ワカ姫を 「思い兼ねさせた者」
という意味です。アチヒコという名も、
「ワカ姫が “あちち” になった臣」
という意味と考えます。
★彦 (ひこ)
ヒク(引く) の名詞形で、「民を導く者・民を率いる者」
を意味し、「臣・守・司」 の別称です。
【概意】
タマツ宮への使者アチヒコを見て、恋い焦がれたワカ姫(沸姫)は、
ワカの歌(沸の歌)を詠んで歌札に書き留める。
募る思いはもはや心に留めて置けず、その歌札をアチヒコに進めるを、
アチヒコがつい取り見れば ・・・
―――――――――――――――――――――――――――――
きしいこそ つまおみきわに
ことのねの とこにわきみお まつそこいしき
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紀州こそ 妻を身際に
琴の音(事の根)の 床(融)に我君を 待つぞ恋しき
―――――――――――――――――――――――――――――
■紀州こそ (きしいこそ)
コソ は コス(越す・遣す)
の名詞形で、ここでは 「来訪・派遣」 を意味します。
ですから 「紀州へのおこし」 という意です。 ▶きしい
■妻 (つま)
「添・伴・連れ・対」
が原義で、男女どちらに対しても用います。
■身際 (みぎわ)
みぎわ【身際】‥ギハ 〈広辞苑〉
身のあたり。身体のきわ。
■ことのねのとこ (琴の音の床/事の根の融)
2つの意味を重ねています。一つは 琴の音の床 で、
これは 「自分が弾く琴の音が聞こえる寝床」
という意味です。
もう一つは 事の根の融
で、「物事の起源である融合」 という意味です。
陰陽和合
を意味しますが、この場合は 「男女の性交」 をいいます。
トコ(▽融) は トク(溶く・融く) の名詞形で、トケ(溶け・融け) と同じです。
■我君 (わきみ)
今風に言えば 「主人・夫」 です。
【概意】
紀州へのおこしは 妻(自分)を身際に置いてもらい
琴の音の床に/事の根の融に 主人を待つことを 恋しく思わせる
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おもえらく はしかけなくて むすふやは これかえさんと
かえらねは ことのはなくて まちたまえ のちかえさんと
もちかえり たかまにいたり もろにとふ
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思えらく 橋 架けなくて 結ぶ和 これ返さんと
返らねば 言の葉なくて 「待ち給え 後 返さん」 と
持ち帰り タカマに到り 諸に問ふ
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■思えらく (おもえらく)
これは “思ふ” の連体形 “思える” の ク語法
と呼ばれるものです。
ク語法とは 動詞や助動詞の末尾に “く”
を付けて名詞化する方法です。
“思えらく” は 「思えるごとく(は)」
という意味になります。
■橋 (はし)
「合わせ・はさみ」 などが原義で、ここでは
「仲介・仲人」 の意に使われています。
“橋架けなくて” は 「仲人を立てずに」
という意味です。
ハシ(橋) は ハス の名詞形で、ハス は ハサム(挟む・挿む)
の母動詞です。
ですから 「間にはさむもの」 を意味します。それゆえ
ハシ(箸) も同源です。
■結ぶ和 (むすぶやは)
ヤハ/ヤワ(和) は アワ(和)
の変態です。
ここでは 「男女の和を結ぶこと・男女の縁を結ぶこと」
をいいます。
■タカマ (高天)
タカミ(高み)
の変態で、「高み・頂き・中心」 などが原義です。
この場合は 「都・中央政府」 を意味し、特に
君と重臣たちの会議場 をいいます。
この時代のタカマは イサワの宮
です。
【概意】
アチヒコが思うには、仲人も立てずに結ぶ縁。
これに返歌しようとしてもできず、言葉に詰まって、
「待ってくだされ。後ほどお返しする」 と持ち帰り、
都に着いて皆に問う。
―――――――――――――――――――――――――――――
かなさきいわく このうたは かえことならぬ まわりうた
われもみゆきの ふねにあり かせはけしくて なみたつお
うちかえさしと まわりうたよむ
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カナサキ曰く 「この歌は 返言ならぬ 回り歌
我も御幸の 船にあり 風激しくて 波立つを
うち反さじと 回り歌詠む
―――――――――――――――――――――――――――――
■回り歌 (まわりうた)
上から読んでも下から読んでも同じ歌をいいます。終点がまた始点となるため、
折り返して巡回する歌というわけです。閉回路内で循環する自己完結の歌であるため、
外部からのちょっかいを受け付けません。ゆえに返言不能の歌です。
後世は カイブン(回文・廻文)
と呼ばれています。
【概意】
カナサキ曰く、この歌は返言不可な回り歌である。
我も御幸の船に同乗していた時、風は激しく波も高いので、
船を転覆させまいと回り歌を詠んだ。
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なかきよの とおのねふりの みなめさめ
なみのりふねの おとのよきかな
とうたえは かせやみふねは こころよく あわにつくなり
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『長き夜の 絶の眠りの みな目覚め
波乗り船の 復の良きかな』
と歌えば 風止み 船は 快く アワに着くなり
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■絶の眠り (とおのねぶり)
トオ は タエ(絶え) の変態と考え、「とだえとだえの眠り」
の意に解釈しています。
絶(たえ) と 遠(とお) は どちらも 「離れ・別れ・隔たり」
を表し、語源は同一です。
■復 (おと)
オツ(復つ)
の名詞形で、「往き来・往復・反復・復活・再来」
などを意味し、
この場合は 船の 「揺れ」 をいいます。
■アワ・アハ (和/阿波)
これは地名ですが、近江を表す アワ(▽和) と 四国を表す
アワ(阿波) があり、
この場合はどちらか判断できません。船で行くのだから
阿波 と思いたいところですが、
当時は船で淀川をさかのぼって琵琶湖まで行けたのです。
【概意】
長き夜の とだえとだえの眠りから みな目覚め
高波に漂う船の 揺れの良きかな
と歌えば 風は止み、船は快くアワに着くなり。
正月の縁起物の 宝船
を描いた図に、よくこの歌が書き添えられました。
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わかひめの うたもみやひお かえさしと
もふせはきみの みことのり
かなさきかふね のりうけて めをとなるなり
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ワカ姫の 歌もミヤビを 反さじ」 と
申せば君の 御言宣
「カナサキが船 乗り受けて 夫婦なるなり」
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■ミヤビ
ミユ(見ゆ)+ヤフ(▽和ふ・▽結ふ) の同義語短縮 “ミヤフ”
の名詞形で、
「合わせ・結び・調和・同調・協調・協和」
などが原義です。多くの意味に使われますが、
ここでは ワカ姫の心の 「アチヒコへの結び付き・縛り」
をいいます。
■反さじ (かえさじ)
カエス(反す・返す)+ジ で、‘ジ’
は 否定の ‘ズ’ の推量・意志形で、‘マジ’
と同じです。
この場合は 「くつがえすまい・曲げるまい」 の意です。
■君 (きみ)
アマテル君を指します。
■御言宣 (みことのり)
言宣(ことのり) の尊敬語で、辞書は “詔・勅”
と宛てますが、
本講座では より原義に近い、“御言宣”
を採用しています。
「皇またはそれに準ずる人の仰せ」 をいいます。
★宣り・宣 (のり) ★宣る・告る (のる)
ノル は ナル(鳴る)
の変態で、「行き来させる・めぐらす・鳴り響かす・知らせる・伝える」
などが原義。その名詞形が ノリ(宣) です。
■船 (ふね)
ここでは 「渡し」 を意味し、「中継・仲介・仲人」
を表します。
ですから ハシ(橋)
と同じですが、波乗り船の話題だったので、
それにシャレて “船” を持ってきたと考えます。
【概意】
ワカ姫の歌も <回り歌ゆえに>、その縛りをくつがえすまい」
と申せば、
君の御言宣、「カナサキの船 (渡し)
を乗り受けて夫婦となるべし。」
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やすかわの したてるひめと あめはれて
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ヤスカワの シタテル姫と 陽陰晴れて
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■ヤスカワ (▽和側・▽和郷) ■ヤス国 (やすくに) ■ヤス
(▽和)
「中央部・中央の国」 を意味します。
初めは 中国(なかくに)
の換言でしたが、後には特に アワ国(=近江)
を表すものとなり、
現在も 野洲
の地名に残ります。他文献には “天の安河”
と記されます。
★ヤス (▽和す) ★ヤス (▽和・安:名詞形)
ヨス(寄す)
などの変態で、「合う/合わす」
が原義です。そのまま名詞にもなり、
「合い/合わせ・間・中・中央・中心」
などを意味します。
★川・河 / 皮 / 側 (かわ・がわ・かは・がは)
カル(離る)
の変態 カフ(▽離ふ) の名詞形で、「分け・分けるもの」
が原義です。
川・河 は 「地を分ける水の溝」 であり、皮 は
「内と外を分けるもの」、
側 は 「分けられた場所・区分・区画」 をいい、ガウ(郷)
と同じです。
■シタテル姫・仕立てる姫 (したてるひめ)
皇太子を 「仕立てる姫」 という意味で、ワカ姫
の別名です。
シタテル(仕立てる)
は ソダテル(育てる) の変態です。
他文献では 下照姫・下照媛
などと記されます。
アマテル君はムカツ姫により オシホミミ
という皇太子を生みます。この皇太子は
ヤスカワ(=近江) の タガ(多賀)
に住みますが、若年であり、また虚弱な生れ付きのため、
夫婦となった アチヒコ(=オモイカネ) と ワカ姫が
御子守(みこもり) としてタガに行き、
皇太子を守り育てます。
■陽陰晴る・陽陰治る (あめはる)
アメ(陽陰) は アワ(陽陰)
と同じです。“晴る” は 「治る」 の意です。
よって “陽陰晴る” は
「陽と陰が治まる・陽陰が調和する」
というのが原義です。
ホツマでは 汚穢 (けがれ・曲り)
の根本原因は、陽陰の不調和と考えられており、
この不調和が直って治まることを “陽陰晴る”
といいます。
それゆえ 「調って治まる」 とか 「汚穢が祓われる」
の意に使われます。
また 陽陰の調和 ということから
「男女が和合する・結婚する」 の意にも使われます。
この場合は両方で、「ワカ姫の汚穢が祓われ、アチヒコと結婚したこと」
をいいます。
ワカ姫の汚穢とは何か?それは後のアヤで語られます。
【概意】
ヤスカワの皇太子を仕立てる姫として結婚し、汚穢も祓われて。
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そのおしくさは ぬはたまの はなはほのほの からすはの
あかきはひのて ひあふきの いたもてつくる あふきして
くにもりをさむ をしゑくさ
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その押草は 射干玉の 花はほのぼの 明らす花の
赤きは日の出 ヒアフギの 板もて造る 扇して
国守り治む 教え種
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■射干玉の花 (ぬばたまのはな)
これはつまり後出の 「ヒアフギ の花」
の換言です。 ▶射干玉
ヒアフギ は 今は “檜扇・桧扇”
と当て字されます。
■ほのぼの明らす花 (ほのぼのからすば)
「ほのぼのと赤くなる花・曙の空のように赤くなる花」
という意で、 ▶ほのぼの
射干玉の花=ヒアフギの花 の説明です。 ▶画像
★花・木 (はな) ★葉 (は) ★菜 (な)
ハナ は ハヌ(跳ぬ・刎ぬ・撥ぬ)
の名詞形で、「放つもの・出るもの・生えるもの」
が原義です。
ハナ の略形が ハ(葉・歯・派) であり、また ナ(菜)
です。
木も 「地から放つもの」 なので、よく “ハナ”
と呼ばれます。
■ヒアフギ (日扇/桧木)
この ヒアフギ は二又使用です。
1つは 「日扇」 の意で、「日の出に似た赤い花を咲かせ、葉が扇状に生える植物」
の ヒアフギ
です。
もう1つは 「放(ひ)の扇ぎ(あふぎ)」
の意で、これは ヒノキ(檜・桧)
をいいます。
ヒ(放) は ヒル(放る)
の名詞形で、ヘ(屁) の変態。「放ち・匂い/香り」
を意味します。
ですから ヒアフギ/ヒノキ は 「香りを扇ぐ木」
が原義です。
■扇して (あふぎして)
“して” の シ は、スル(為る)
の連用形で、スル は 「合わす」 が原義です。
ここでは 「扇を合せて・扇を添えて・扇を以ちて」
などの意となります。
ヒノキの板で造った扇、これもまた ヒアフギ
と呼ばれます。
■教え種 (をしゑぐさ)
「教えの一種・教えのネタ・教えの品」 などの意です。
【概意】
ワカ姫の押草とは、ほのかに赤くなる射干玉の花で、
その赤さは日の出のようだから、ヒアフギ(日扇)
ともいう。
それを ヒアフギ(ヒノキの板で造る扇)
に添えて、国を守り治む教えの品となる。
ところでどうして日扇の花なのでしょうか?
日扇の花 は
日の出のように赤いのですが、花が終ると今度は真っ黒な
種 (射干玉)
を結びます。これは日の出と闇夜という、日・月 (太陽・太陰)
の
循環を象徴する植物です。先ほども書きましたが、蝕虫も含めて汚穢の
発生の根本は、陽陰の不調和によると考えられていました。そのゆえに
日扇をその不調和を直す モノザネ
としたものと思われます。
また何故に桧の扇なのでしょうか?
ヒノキは芳香を放つ木ですが、「放つ」 は 「払う」
と同義ですから、ヒノキに汚穢を払う
効果を期待したのだと思います。また扇は あおぐ道具
ですから、火をあおいで火勢を
強めるように、衰えた稲をあおいで勢いづける効果を期待したのでしょう。
押草の扇 は
現在もその痕跡を残しています。少し紹介します。
【田扇】たおうぎ 〈大辞泉〉
三重県伊勢市楠部で、5月下旬の伊勢神宮御田植え祭りに用いるうちわ。
これで田をあおいで害虫を追い払うまじないとし、また、家の柱にかけて
安産のお守りとする。
【那智の扇祭】〈神名備HPより抜粋引用〉
一般に 「那智の火祭」
といわれています。もとは旧暦六月十四日の神事で、
正式には 「扇会式例祭」 または 「扇祭」
といいます。早朝礼殿の前に神輿を
飾り立て、神輿の下部に ひおうぎ の花を飾りつけます。その後に
御田植式が行われます。
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からすあふきは そふはなり
ひあふきのはは みなはらふ あわのよそやそ
またみそふ みちなわすれそ
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明らす扇は 十二葉なり
桧扇の羽は 穢祓ふ アワの四十八ぞ
またミソフ 道な忘れそ
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■明らす扇 (からすあふぎ)
「日の出のような花を咲かせ、葉が扇状に生える植物」
という意で、
日扇(ひあふぎ・ひおうぎ)、明らす花(からすば)
の別名です。
後世は、誤解されたようで “烏扇”
と当て字されています。
■桧扇 (ひあふぎ)
これは 「桧の板で造った扇」
をいいます。これで扇ぐと芳香を放ちます。
■穢 (みな)
「曲り・逸れ・外れ・不調/異常・けがれ・病」
などをいいます。
★ミナ・メ・ミ (▽穢・▽鄙・陰・水)
ミナ は ヒナ(鄙)
の変態で、〈ミ・ヒ・イ・ヰ は相互によく入れ替わる〉
「(下・隅・末に)
離れるさま・それるさま・外れるさま」 などが原義です。
これは “けがれ” の原義と同じであるため、“穢”
と当てています。
また メ・ミ とも呼ばれますが、これもやはり 陰の、下に降る性質
によります。
メ(穢) は メ(陰) と同源であり、ミ(穢) は ミ(水)
と同源です。
■アワの四十八 (あわのよそや)
「アワの神の48」 という意で、アワの神 とは アワ歌
48音の別名です。
この48神が備われば万能となります。なぜなら万物万象はことごとく
この48音から出来ているわけですから。この48という数は今後
いろんな所でお目にかかることになります。
■ミソフ道 (みそふみち:▽禊ふ道/三十二道)
「穢を祓って調える道・曲りを直す道」 をいいます。
ミソフ(▽禊ふ) の モノザネ が、ミソフ(三十二)
という数です。それゆえ
ワカ姫が蝕虫を祓ったワカの歌は、1字余りの32音
だったというわけです。
★ミソフ (▽禊ふ)
ミス(見す)+ソフ(添ふ・沿ふ) の同義語短縮で、
「合わせ調える・調えて直す・癒やして治める」
などの意です。
■な忘れそ (なわすれそ)
「な」+「動詞の連用形」+「そ」
の形は、ゆるやかに禁止する意を表します。
ここでは 「忘れないでくれよ・忘れてくれるなよ」
などの意となります。
【概意】
明らす扇 (=日扇) の葉は12枚である。
桧扇 (ヒノキ製の扇) の羽は、穢を祓うアワの神の48枚ぞ。
また 禊ふ道 (三十二道) を忘れるなよ。
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はなきねは ゐなにつつるお あねにとふ
あねのこたえは あわのふし
またとふはらひ みそふなり
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ハナキネは 五七に綴るを 姉に問ふ
姉の答えは 「陽陰の節」
また問ふ 「祓ひ 三十二なり」
―――――――――――――――――――――――――――――
■ハナキネ
ソサノヲ の斎名です。
記紀 には スサノオ(須佐之男/素戔嗚尊)
と記されます。
★斎名 (いみな・ゐみな・いむな・ゐむな)
「斎む名・大切な名」 という意味で、「本名・実名」
をいいます。
誕生時に付されるとは限らず、また
途中で変更される場合もあります。
ホツマ・ミカサにおいては、非常に重要な人物のみ斎名が公表されてます。
■五七に綴る (ゐなにつづる)
「言葉を5音と7音に区分して連ねる」
という意で、いわゆる 五七調
です。
理由は不明ですが 最後は 7+7 で締めますので、
ワカの歌 の場合は、5+7+5+7+7=31音 になります。
■姉 (あね)
ワカ姫
を指します。ワカ姫は ソサノヲ の姉なのでした。
■陽陰の節 (あわのふし・あめのふし)
「陽と陰 (日と月)
の区切り・周期・リズム」 という意です。
ここでは、ワカの歌を 5+7+5+7+7 の31音に綴るのは、
「日と月の周期を考慮してのことだ」 という意味です。
★節 (ふし) ★房・総 (ふさ)
フス(付す)
の名詞形で、「付き・添い・集まり」 を原義とし、
「ひとかたまり・囲み・他と接する所・分け目・際・限」
などの意を表します。
フサ(房・総) は フシ(節) の変態です。
■祓ひ・祓 (はらひ)
ハラフ(祓ふ)
の名詞形で、「合わせ・調え・直し・癒やし・清め」
などが原義です。
【概意】
ハナキネは ワカの歌を 5・7 に連ねる理由を姉に問う。
姉の答えは、「陽陰の節を考えてのことぞ。」
また問う、「しかし祓いの歌は32音ではないか。」
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いまみそひとは このをしゑ
あめのめくりの みむそゐゑ よつみつわけて みそひなり
つきはおくれて みそたらす まことみそひそ
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今 三十一とは この教え
天の回りの 三六十五回 四つ・三つ分けて 三十一なり
月は遅れて 三十足らず まこと三十一ぞ
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■今 (いま)
「改まるさま・改めるさま・新たにするさま」
などが原義で、
ここでは副詞的に 「改めて・そうして・さて・なお」
などの意になります。
■天の回り (あまのめぐり・あまめぐり)
この “天” は 御天道様
の意で、「太陽の日周運動」 をいいます。
“天の回りの三六十五回” とは 「御天道様が365回転して1年になる」
という意です。
■月は遅れて (つきはおくれて)
現代の知識では、惑星や月の動きは
その他の天体とは別なので、
“遅れる”
という言い方はしませんが、ホツマの思想においては、
月が遅れる理由があります。
天地創造の時、軽い陽は “先”
に上昇して天となり、重い陰は “後” に
下降して地となります。その後、陽の核が日となり、陰の核が月に
凝ります。ですから重くて鈍い月が遅れるのは、充分納得できる話です。
陰陽分かれ 陽まず上りて 天となり 陰は後下り 地泥の 〈ホ16-2〉
【概意】
さて31とは、太陽の回りの 1年365回を4つに分け、
それをまた3つに分けると 31日となるいう意味ぞ。
月は遅れて30日に足らぬが、まことは31日ぞ。
―――――――――――――――――――――――――――――
しかれとも あとさきかかり みそふかも
あるまうかかふ おゑものお はらふはうたの こゑあまる
―――――――――――――――――――――――――――――
しかれども 後前かかり 三十二日も
離る間うかがふ 汚穢モノを 祓ふは歌の 声余
―――――――――――――――――――――――――――――
■しかれども
(然れども)
シク(如く)+あれども
の短縮です。
■後先かかり (あとさきかかり)
アトサキ(後先)
は、「陰陽・月日」の換言です。
“後先かかり” は 運動周期が異なる
「月と日が掛り合って・月と日の関わりから」
などの意になります。
■三十二日 (みそふか)
太陽暦
と 太陰暦
のずれを調整するために、ひと月の日数を増減する処置が行われ、
その結果、32日となる月があることをいうと考えられます。
■離る間 (あるま)
アル(離る)
は 「離れる・分れる・別れる・ばらばらになる」
などの意です。
ここでは 暦が 日月の実際の運行に 「一致しない期間」
をいうと考えます。
■汚穢モノ (おゑもの)
汚穢は 「よごれ・けがれ」
をいいますが、「曲り・逸れ・外れ」 などが原義です。
モノ は 「見えないけれども存在する何か」
をいう代名詞で、「霊」 を意味します。
ですから “汚穢モノ”
とは「曲り逸れた霊・邪霊・悪霊」の類をいいます。
粗モノ(あれもの)、鬼モノ(おにもの)、鬼神(おにかみ)、曲つ霊(まがつひ)
などとも呼ばれます。
★物・者・モノ (もの)
モヌ(▽模ぬ) の名詞形で、モヌ は マヌ(真似)
の変態です。ですから “モノ” は
「〜のような存在・〜に近い存在・〜みたいな存在・〜もどき」
などが原義です。
【概意】
そうではあるが、運動周期が異なる月と日の関わりから、32日となる場合もある。
その日月の運行と暦が一致しない間をうかがう邪霊を、祓うのは歌の声の余りぞ。
―――――――――――――――――――――――――――――
しきしまのゑに ひとうまれ みそひかにかす
めはみそふ うたのかつもて わにこたふ
これしきしまの わかのみちかな
―――――――――――――――――――――――――――――
直州の上に 人生まれ 三十一日に活す
穢は禊ふ 歌の数以て 曲に応ふ
これ直州の 和の道かな
―――――――――――――――――――――――――――――
■直州 (しきしま)
シキ(直) は 「まっすぐ・曲り/偏りのないさま」
を意味しますが、これは視点を
少し変えると 「中和・調和するさま」
ということですから、ヤマト(和) と同義です。
シマ(州) は シメ(締め)
の変態で、「限り・区切り・区分・区画」 を意味します。
よって “直州” は「調和の区画・やまと(和)の国」
という意となります。
辞書は 敷島・磯城島
と当て字し、“敷島の”
は 「やまと」 にかかる枕詞です。
★ヤマト (和・大和・倭)
ヤマト は ヤマツ という動詞の名詞形で、ヤマツ は ヤワス(和す)
の変態です。
「和合・調和」
を原義とし、「合・間・和・収・内・中」
などの意を表します。
■三十一日に活す (みそひかにかす)
「31回の日(=陽)に活を得る」 という意です。
カス(活す・▽上す) は 「上げる・勢いづける・栄す」
などの意です。
“人生まれ三十一日に活す”、これが 「生活」
の意味でしょうか。
カ(日) は アカ(明) の略で、この アカ は アゲ(上げ) の変態です。
■穢 (め) ■ミソフ
(禊ふ/三十二)
メ(穢・陰) は 「曲り・逸れ・外れ・けがれ・異常・病」
などをいいます。
これを直すことが “禊ふ” で、その モノザネ
が “三十二音の歌” です。
■曲 (わ)
「曲り・けがれ・異常」 を意味します。
穢(みな・め・ゑ)、汚穢(をゑ)
などの換言です。
■和の道 (わかのみち)
「やわしの道・直し調える道・調和の道」
という意です。 ▶ワカ (▽和)
辞書には 敷島の道
という言葉があり、「和歌の道」 と説明されています。
【概意】
和の国の上に人が生まれ、31回の日(陽)に活を得、穢は直し調える。
歌の数を以て曲に応える、これ和の国のやわしの道かな。
本日は以上です。それではまた!