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一から学ぶ ほつまつたえ講座 第156回 [2024.6.4]

第二八巻 君臣 遺し宣りの文 (6)

著者:おあずけ2号 (駒形一登)
著者HP:ホツマツタエ解読ガイド https://gejirin.com

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 きみとみのこしのりのあや (その6)
 君臣 遺し宣りの文 https://gejirin.com/hotuma28.html
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 たなこひめ いふきとみやに うむみこの ゑはいよつひこ
 とさつひこ うさつひここれ をんともに ゆきてつくしの
 うさにすむ ははもうさにて かみとなる
 いつくしまみや いとうかみ よきおしるなそ

―――――――――――――――――――――――――――――
 タナコ姫 イブキト宮に 生む御子の 兄はイヨツヒコ
 トサツヒコ ウサツヒコ これ御供に 行きてツクシの
 ウサに住む 母もウサにて 神となる
 イツクシマ宮 “イトウ神” 善きを知る名ぞ

―――――――――――――――――――――――――――――

タナコ姫 (たなこひめ)

■イブキト宮 (いぶきとみや)
コトシロが館” の別名です。


■イヨツヒコ (伊予つ彦) ■トサツヒコ (土佐つ彦) ■ウサツヒコ (宇佐つ彦)
イブキヌシとタナコ姫に生れた3男子で、
それぞれの名は 伊予、土佐、宇佐の知行者であることを表します。

           ┌ヒルコ
 トヨケ──イザナミ┐├アマテル────タナコ  ┌イヨツヒコ
          ├┼ツキヨミ──┐  ├───┼トサツヒコ
 アワナギ─イザナギ┘└ソサノヲ  ├イブキヌシ └ウサツヒコ
                  │
 サクナギ─イヨツヒコ─イヨツ姫──┘


■これ御供に行きて (これをんともにゆきて)
“これ” は ウサツヒコ(宇佐つ彦)を指します。
“御供” は 「御祖天君の九州巡幸の御供」 をいいます。 ▶御祖天君
ウサツヒコは天君の御供で九州に行くと、そのまま宇佐の県主に任じられたようです。

 天君は ツクシに御幸 ムロツより オカメに召して ウドの浜 カゴシマ宮に 〈ホ27ー6〉


■母もウサにて神となる (ははもうさにてかみとなる)
「母のタナコ姫も宇佐の地にて帰天した」 ということです。
おそらくウサツヒコに付いて行ったのでしょう。

 
■イツクシマ宮 (いつくしまみや:厳島宮)
タナコ姫の神霊を纏った宮の名で、現在の 厳島神社 です。
タナコ姫はイチキシマ姫(市寸島比売命・市杵嶋姫命)・イツクシマ神(厳島神)と贈り名されます。
イツクシマは イツクシム(慈しむ)の名詞形です。

 ウサで亡くなったのに安芸に纏られるというのは変ですが、当時のウサの県の領地は海を越えて、
 安芸の地にまで及んでいました。例えばニニキネは、安芸の禿げ山の植林を、ウサの地守である
 アカツチに命じています。〈ホ25〉つまりこの時点で安芸はまだ国として成立していないのです。

  天君 笑みて 「嘆くな」 と アカツチ守に これ教え 檜・杉の種を 植えさしむ 〈ホ25-1〉

 厳島神社 (いつくしまじんじゃ)
 広島県廿日市市宮島町1-1。 
 現在の祭神:市杵島姫命、田心姫命、湍津姫命


■イトウ神 (いとうかみ:▽慈愛神)
「いとおしむ神・いつくしみの神・慈愛の神」 などの意で、上記の “イツクシマ” の換言です。
ただし “イトウ神” はタナコ1人に捧げられた贈り名ではなく、
タケコ・タキコ・タナコの三つ子姉妹
に贈られた名です。 ▶贈り名

 ★イトウ (▽慈愛・▽愛う)
 イトオシム(愛おしむ)の “イトオ” の変態で、「愛おしみ・慈しみ・慈愛・慈善」 を意味します。
 ウツクシミ(慈愛)という語が辞書にあるので、イトウには “慈愛” と当て字したいと思います。

  うつくしみ【慈愛】〈広辞苑〉
  うつくしむこと。いつくしみ。源明石「深き御―大八洲にあまねく」


■善きを知る名ぞ (よきおしるなぞ)
ヨキ(善き)は イトウ(▽慈愛)の換言で、「愛おしみ・慈しみ・慈愛・慈善」 をいいます。
「イトウ神とは 慈愛を知る神という意味の名ぞ」 という意味です。

 ★善し・良し・好し・佳し (よし)
 ヨス(寄す)+シ(▽如・▽然) の短縮で、
 「(心を)寄せる如し・愛する如し・いつくしむ如し」 などが原義です。

 

【概意】
タナコ姫がイブキト宮に生む御子の、兄はイヨツヒコ、トサツヒコ、ウサツヒコ。
ウサツヒコはこれ御祖天君の御供に行きて、九州のウサに住む。
母タナコ姫もウサにて神となる。イツクシマ宮に纏り、“慈愛神” の名を贈る。慈愛を知る名ぞ。



―――――――――――――――――――――――――――――
 おろちなる はちにみつから さすらひて いとうおしれは
 おおなむち ひひめおめとる 
 このしまつ みつひめまつる そとかはま
 いとうやすかた かみのみけ はむうとうあり

―――――――――――――――――――――――――――――
 折霊なる 恥に自ら さすらひて 慈愛を知れば
 オオナムチ 一姫を娶る
 子のシマツ 三姫纏る 外ヶ浜
 イトウヤスカタ 神の御供 蝕むウトウあり

―――――――――――――――――――――――――――――

■折霊なる恥 (おろちなるはぢ)
「自分たち(3姉妹)の母ハヤコが 折霊に完全支配された恥」 をいいます。 ▶ハヤコ ▶折霊
“恥” というのは、折霊を招き寄せる原因は ハヤコの妬みの心にあるからです。 ▶同類相求む

 さすらなす 二さすら姫 憤り ヒカハに怒り 成る折霊 〈ホ7ー4〉


■自らさすらふ (みづからさすらふ)
「3姉妹が自主的に皇女の立場を棄てて宮を出た」 ことをいいます。 ▶さすらふ

 セオリツ姫によって、モチコとハヤコは九州のアカツチ宮(=ウサ宮)に預けられますが、
 3姉妹も母ハヤコと共に行きます。モチコとハヤコは怒り、3姉妹を置き去りにしてヒカワに向い、
 そこで折霊と化します。報告を受けたセオリツ姫は、トヨ姫 (筑紫のムナカタの娘) を遣わして、
 3姉妹を養育させますが、その後3姉妹は母が折霊となったことを恥じて、自らの意志で宮を出て、
 皇女の立場を捨て世間に身を置いたようです。

 日に向つ姫 宣給ふは 「汝ら姉妹が 御気冷えて ツクシに遣れば 噤み居れ … …
 三姫子も 共に下りて 養しませ」 … … 筑紫アカツチ これを受け ウサの宮居を
 改めて モチコ・ハヤコは 新局 置けば怒りて 養しせず 内に告ぐれば
 「トヨ姫に 養し纏らし」 〈ホ7ー3〉


■慈愛を知る (いとうおしる)
皇族の立場を離れて世間を経験するうち、世の酸いも甘いも噛み分けて、
人を愛し慈しむことを知った、ということでしょうか。
イトウ(▽慈愛)は アマテルが常に説いた “御祖の心” を表す言葉であるように思います。


■一姫 (ひひめ)
三つ子の3姉妹の長女で、斎名はタケコ、後の オキツシマ姫 です。 ▶タケコ
初代オオモノヌシのオオナムチは、タケコを娶りクシヒコらを生みます。
(オオナムチは他にも180人の子がいましたが、タケコ1人が生んだとは思えません)


シマツ・シマツウシ (▽下末大人・島津氏)
これもオオナムチの子です。
オオナムチは “カシマタチ” により、出雲からヒスミ国(津軽)へ国替えとなりますが、
オオナムチの後を受けてヒスミ国の治めを継いだのが、シマツのようです。

  ソサノヲ┐      
      ├──オホナムチ──┐┌─クシヒコ(2代モノヌシ)
  イナタ姫┘ (初代モノヌシ) │├─タカコ
                ├┤
  アマテル┐         │├─タカヒコネ
      ├──タケコ────┘├─タケミナカタ
  ハヤコ─┘          ├─シマツウシ
                 └─他176名


■三姫纏る外ヶ浜 (みつひめまつるそとがはま)
「3姉妹の神霊を纏った外ヶ浜」 という意です。 ▶纏る
“外ヶ浜” は 辞書によると 「津軽半島の陸奥湾沿岸の古称」 とあります。 ▶外ヶ浜

  
■イトウヤスカタ神 (いとうやすかたかみ)
シマツが外ヶ浜に纏った 「3姉妹の神霊の名」 です。
イトウは 「慈愛」、ヤスカタ(安方・安潟)は 「低湿地・沼地」 を意味します。
ですから 「沼地に纏られた慈愛の神」 という意です。この神を纏った場所が後の善知鳥神社です。

 善知鳥神社 (うとうじんじゃ)
 青森県青森市安方2-7-18。 
 現在の祭神:多紀理毘売命市寸嶋比売命多岐都比売命
 ・境内の “善知鳥沼” は 昔は “安潟” と呼ばれ、荒川・入内川が流れ込む
  周囲20〜24Km もある湖沼だった。

 ヤスカタには実はもう一つ別の意味があり、それが低湿地/沼地に纏られる理由を
 説明するのですが、それについてはもう少し後に述べます。


■蝕むウトウ (はむうとう)
ハムは 「むしばむ・けがす」 の意に解して “蝕む” と当て字しています。
ウトウは ウトフの名詞形で、ウトフは ウトム(疎む)イトフ(厭ふ)の変態です。
ですから 「遠ざけたいもの・忌まわしきもの」 が原義です。それが何であるかは次段で判ります。

 善知鳥神社の “善知鳥” を “うとう” と読むことからもわかるように、
 後世 イトウ(▽愛う)と ウトウ(▽疎う) は混同されたようです。
 “善知” の当て字は、さきの “イトウ神 善きを知る名ぞ” という文言が
 根拠になっていることは明白です。

 

【概意】
母が折霊となる恥に、自ら身分を棄てて世にさすらい、慈愛を知れば、
オオナムチは一姫を娶る。子のシマツは3姉妹の神霊を纏る外ヶ浜。
そのイトウヤスカタ神の御供を蝕む 忌まわしきものあり。



―――――――――――――――――――――――――――――
 こかしらの おろちかはめは
 しまつうし ははきりふれは にけいたり
 こしのほらあな ほりぬけて しなのにてれは これおつく 
 いせのとかくし はせかえり なんちはおそる これいかん

―――――――――――――――――――――――――――――
 九頭の蛇が蝕めば
 シマツウシ 蝕霊 切り振れば 逃げ至り
 越の洞穴 掘り抜けて シナノに出れば これを告ぐ
 イセのトガクシ 馳せ帰り 「汝は恐る これ如何ん」

―――――――――――――――――――――――――――――

■九頭の蛇 (こかしらのおろち)
少し後に明らかになりますが、これは 「モチコの転生した姿」 です。 ▶モチコ
ヤマタノオロチ(=折霊に支配されたモチコとハヤコ)は、 ▶ヤマタノオロチ
ヒカワでソサノヲに斬られますが、激しい遺恨により 霊の緒が乱れて、
人には転生できず、モチコは 九頭の蛇(へび) に生まれ変わったようです。

 “九頭の蛇” は後には 九頭龍神 とも呼ばれるようになります。


蝕霊 (はは・ははち)
“九頭の蛇” に憑依している 「邪霊」 をいいます。九頭の蛇に転生しても
なお消えぬモチコの怨念は、またもや邪霊を引き寄せ、それに憑依されています。


■切り振る (きりふる)
これは フリキル(振り切る) と同じです。
つまり シマツウシが 「“九頭の蛇” に憑依している “蝕霊” を切り離した」 ということです。
シマツの祖父ソサノヲも、ヒカワのヤマタノオロチに対して同じこと (蝕霊が汚離き) をしています。

 眠る蛇を 寸に斬る 蝕霊が汚離きに 剣あり “ハハムラクモ” の 名にしあふ 〈ホ9-2〉


■逃げ至る (にげいたる)
“蝕霊” から 「逃げきる・逃げ果(おお)せる」 という意味です。
こうして九頭の蛇は 蝕霊の支配から解放されます。


■越の洞穴 (こしのほらあな)
「越国の洞穴」 という意ですが、これについては伝説が残っています。 ▶越国

 『帰雁記異本』によると、福井県大野市持穴に白馬洞(はくばどう)という鍾乳洞があり、
 この洞を持つゆえに “持穴(もちあな)村” と呼ばれると言うのですが、“もちあな” は
 「モチコの穴」 の意ではないかと思います。この村は 九頭龍川 の源流付近にあるのです。


トガクシ (▽咎薬・戸隠)
イサワの宮でアマテルに仕えていた臣で、信州戸隠の領主です。
かつてカモヒト(ウガヤフキアワセズ)がタガに都を移して即位した時、
アマテルの御使人(=勅使)として神言宣を伝えた人物です。

 御位成りて イセに告ぐ アマテル神の 御言宣 トガクシをして 〈ホ27ー4〉

 とがくし (▽咎薬)
 トガ(咎)クシ(▽薬) で、「咎の改め・罪のつぐない・曲りの直し」 などが原義です。
 クモクシイワクス などの同義語です。

 

【概意】
九頭の蛇がイトウヤスカタ神の御供を蝕む時、
シマツウシが蛇に憑く蝕霊を切り離せば、蛇は蝕霊から逃げきり、
越の洞穴を掘り抜けてシナ野に出れば、これを領主に告ぐ。
イセにいるトガクシは急いで領地に帰って様子をうかがうと、
「汝は恐れている。これはどういうことか。」



―――――――――――――――――――――――――――――
 こたえてむかし ふたおろち ひめにうまれて きみめせは
 もちはみこうみ すけとなる はやはひめうみ うちつほね
 うちせおりつか みきさきに なるおもちこか ころさんと
 ねためははやは きみおしゐ おときみこえと あらはれて
 ともにさすらふ

―――――――――――――――――――――――――――――
 応えて 「昔 二折霊 姫に生まれて 君 召せば
 モチは御子生み 典侍となる ハヤは姫生み 内局
 内セオリツが 御后に なるをモチコが “殺さん” と
 妬めば ハヤは 君を誣い 弟君 媚えど 露れて
 共にさすらふ」

―――――――――――――――――――――――――――――

■二折霊 (ふたおろち)
「モチコとハヤコとして世に生れる邪霊」 をいいます。
ここでは、世に生れてから折霊に取り憑かれたのではなく、
生れる以前から折霊だったものとして描かれています。


典侍 (すけ) ■内局 (うちつぼね)
基本的に、つぼね(=后)は子を生むと昇格しますが、
典侍に昇格するためには男子を生む必要があります。その男子が 代嗣御子 に選ばれると、
その母は 御后(=内宮) に昇格します。 ▶アマテルの后と御子


■内セオリツが御后になる (うちせおりつがみきさきになる)
「内局のセオリツ姫が 御后(=内宮) に昇る」 という意です。
これは、セオリツ姫がオシホミミを生んで典侍となり、
さらにオシホミミが代嗣御子(=皇太子)に選出されたことを意味します。


■誣ふ・誣ゆ (しふ・しゆ)
シル(痴る)の変態で、「離れる/離す・逸れる/逸らす・曲る/曲げる」 などが原義です。
この場合は 「背く・裏切る」 などの意です。


■弟君媚ふ (おとぎみこふ)
“弟君” はアマテルの弟の ソサノヲ です。コフには “媚ふ” を当てましたが、
“乞ふ”  “恋ふ” も原義は同じで、「心を寄せる」 という意です。

 大内の 折々宿る 北の局 … … 下がり嘆けば ソサノヲが 湛えかねてぞ
 剣持ち 行くをハヤコが 押し止め 「功 成らば 天が下」 〈ホ7-3〉


さすらふ (▽摩散ふ・流離ふ)
ここでは モチコとハヤコが、イサワの大内宮から九州のアカツチ宮に追放され、さらに、
アカツチ宮から逃亡してヒカワに向かった」 ことをいいます。 ▶アカツチ宮 ▶ヒカワ

 汝ら姉妹が 御気冷えて ツクシに遣れば 噤み下れ … … 筑紫アカツチ これを受け
 ウサの宮居を 改めて モチコ・ハヤコは 新局
 置けば怒りて 養しせず … …
 さすらなす 二さすら姫 憤り ヒカハに怒り 成る折霊  〈ホ7-3〉

 

【概意】
九頭の蛇は応えて、
「むかし2折霊が姫に生まれて、<ワカヒト> 君が召せば、
モチは御子 <タナヒト> を生んで典侍となる。
ハヤは <タケコ・タキコ・タナコ> の姫を生んで内局。
内局のセオリツが御后になるを、モチコは 「殺してやる] と妬み、
ハヤは君を裏切って弟君に寄れど、露見して2人は共にさすらう。



―――――――――――――――――――――――――――――
 あかつちか めおおときみに ちなむおは
 はやかおろちに かみころす 
 おとあしなつか めおこゑは ななひめまては かみくらふ

―――――――――――――――――――――――――――――
 「アカツチが 姫を弟君に 因むをば
 ハヤが折霊に 噛み殺す
 弟アシナツが 姫を乞えば 七姫までは 噛み食らふ」

―――――――――――――――――――――――――――――

■アカツチが姫 (あかつちがめ)
九州のウサの県(後の豊国)を治めるアカツチの娘で、
ハヤスフ姫・ハヤスヒ姫」 といいます。


■弟君に因む (おとぎみにちなむ)
ソサノヲがハヤスフ姫に求婚したことをいいます。しかしこの縁談は結局うまくゆかず、
それがソサノヲをモチコ・ハヤコのいる北の局に出入りさせることにつながります。 ▶因む

 アカツチが ハヤスフ姫と 聞し召し 雉を飛ばせて 父に請ふ
 「アカツチ宮に とつがん」 と 言えど和なく 大内の 折々宿る 
北の局 〈ホ7ー3〉


■ハヤが折霊に噛み殺す (はやがおろちにかみころす)
「ハヤコが折霊により噛み殺す・ハヤコが邪霊をして噛み殺す」 という意です。
“噛み殺す” は、イソラ/折霊が 「子種・孕み子を噛む」 のと同じ理屈だと思います。

 ・おろか女が 妬むイソラの 金杖に  子種打たれて 流れゆく 〈ホ16-6〉
 ・群れて鱗の 
折霊 生す  玉島の隙 窺ひて 子壺に入りて 孕み子を  噛み砕くゆえ 〈ホ16-6〉
 ・妬み煩ふ 胸の火が  
折霊と生りて 子種噛む 〈ホ16-6〉

 ハヤスフ姫” の名は このことを表したものです。
 ハヤ(=ハヤコ)+スフ(窄ふ) で、「ハヤコがしぼめた姫」 という意です。


■弟アシナツ (おとあしなつ)
アカツチの 「弟のアシナツチ」 です。 ▶アシナツチ

 ソサノヲは “交わる去る” の判決を受けて、サホコチタル国に向かいます。
 そこのサタの地(=ヒカワ)を治める粗長がアシナツチでした。 ▶粗長
 その8人の姫の内、イナタ姫以外の7姫はヤマタノオロチの犠牲となっています。 ▶イナタ姫

 サタの粗長 アシナツチ 添のテニツキ 八姫生めど 生ひ立ちかぬる 悲しさは … …
 中に八岐の 蛇 居て ハハやカガチの 人身供と ツツガせらるる 七娘 〈ホ9ー1〉

 

【概意】
アカツチの姫が弟君に因むを恨めば、ハヤが折霊をして噛み殺す。
弟アシナヅの姫を弟君が乞えば、7姫までは噛み食らう。



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 ときにそさのを これおきり みおやすかたと まつるゆえ
 またやますみの めとうまれ いもとおねたむ つみのとり

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 「時にソサノヲ これを斬り 身をヤスカタと 纏るゆえ
 またヤマズミの 姫と生まれ 妹を妬む 罪の踊り」

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■ソサノヲこれを斬る (そさのをこれおきる)
“これ” は ヤマタノオロチ を指します。「邪霊に完全支配されたモチコとハヤコ」 を
オロチ(蛇)に喩えた呼び名ですが、ここでは特に 「ハヤコ」 のことをいうようです。

 八岐頭の 蛇 来て 八槽の酒を 飲み酔いて 眠る蛇を 寸に斬る 〈ホ9-2〉


■ヤスカタ (▽和形・▽結形) ■ヤスカタ神 (やすかたかみ)
これは ヤス(▽和す・▽結す)+カタ(形) で、「形を結ぶもの」 が原義です。
「死者の面影を結ぶ物品・死者を思い出す遺品」 をいい、これはつまり 「形見] の換言です。 ▶形見

本来は死者の亡骸を土に還し、神霊を天に還すことが “喪纏り” ですが、
亡骸が見つからない時には、形見(遺品)で代用して喪纏りを行います。 ▶喪纏り
その場合その形見(遺品)を 「ヤスカタ神」 と呼びます。

 ヤスカタ神 (形見の神) は、本当の人の神霊とは区別して、
 低くて湿った場所 (沼地) に纏るのがならわしだったようです。
 イトウヤスカタ神 (タケコ・タキコ・タナコの神霊) を沼地に纏ったのは、
 この3姫が ハヤコの忘れ形見 (=置き去りにされた子) だからだと考えています。 ▶忘れ形見


■身をヤスカタと纏る (みおやすかたとまつる) ■連り天引きの纏り (つがりあびきのまつり)
“身” は 「ヤマタノオロチの死体=ハヤコの亡骸」 をいいます。
”ヤスカタと纏る” は 「ヤスカタ神(=形見の神)となして喪纏りを行う」 という意です。

 この場合は、ハヤコの霊を天に還すことが喪纏りの目的ではなく、それに連ねて
 その縁者 (犠牲になったハヤスフ姫やアシナツの7姫の神霊) を天に還すのが狙いです。
 これを “連り天引きの纏り(つがりあひきのまつり)” といいます。

 櫛と帯 得れば嘆きて 姫のため “連り天引きの纏り” なす これソサノヲの オロチをば
 “
連りヤスカタ神” となし ハヤスヒ姫も アシナツチ 七姫纏る ためし以て 〈ホ39〉

 つがる【連る・鎖る・綴る】〈広辞苑〉
 1.つらなりつづく。つながる。まといつく。
 2.つながるようにする。つらねつづける。まといつける。かがる。


■ヤマズミの姫と生る (やまずみのめとうまる)
“ヤマズミ” は 3代オオヤマズミの マウラ、“姫” は アシツ姫の姉の イワナガ です。

 ヤスカタ神として纏られたハヤコの霊(=魂と魄)は、天の陽元と陰元に還り、
 再び人に転生しますが、それがイワナガだというのです。


 アマテル─┐
      ├オシホミミ┐
 セオリツ姫┘     ├┬クシタマホノアカリ
            ││
 タカキネ──チチ姫──┘└ニニキネ  ┌ホノアカリ(斎名:ムメヒト)
                ├───┼ホノススミ(斎名:サクラギ)
 カグツミ───マウラ──┬アシツ姫  └ヒコホオデミ(斎名:ウツキネ)
             │
             └イワナガ


■罪の踊り (つみのとり)
このトリは オドリ(踊り)と同じで、「回り/回し・回転・繰り返し」 などが原義です。
ここでは 「回って繰り返すこと」 を意味します。
ですから 「罪の繰り返し・カルマの再生」 という意味です。

 妹アシツ姫がニニキネに召されて身籠ったことを妬んだイワナガと母は
 他枕の噂を流して2人の仲を裂こうとします。

 母・姉 恨み 下侍して 妹 陥さん 他枕 ついにいつわり 〈ホ24ー5〉

 

【概意】
時にソサノヲはこれを斬り、その亡骸をヤスカタ神として纏ったため、
再びヤマズミの姫に生れて妹を妬む。罪の繰り返し。


 ソサノヲが ハヤコの亡骸をヤスカタ神として “連り天引きの纏り” を行ったため、
 ハヤコの魂・魄は天に還り、再び人間として生れたということです。
 ですからこの纏りは一種の “霊還し” だと言えます。姉のモチコの方はこの纏りを
 受けなかったのでしょう。そのため人ではなく、九頭の蛇 に転生したというわけです。



―――――――――――――――――――――――――――――
 またもちおろち せおりつお かまんかまんと
 もゐそよほ ゑそしらたつの たけにまつ
 いまかみとなる むなしさよ

―――――――――――――――――――――――――――――
 「またモチオロチ セオリツを 噛まん噛まんと
 百五十万年 “蝦夷白竜の 岳” に待つ
 今 神となる 虚しさよ」

―――――――――――――――――――――――――――――

■モチオロチ (もちおろち:モチ折霊/モチ蛇)
モチコの遺恨が引き寄せた折霊が、取り憑いて支配している 「九頭の蛇」 です。
しかしこの時点では折霊は切り離されていて、支配されていた頃の自分を回想しての言葉です。


■蝦夷白竜の岳 (ゑぞしらたつのたけ)
ヱゾ(蝦夷)は ヱス(▽穢す)の名詞形で、「離れるさま・それるさま・外れるさま」
を原義とし、「辺鄙・辺境」 を意味します。具体的な場所は時代によって変化しますが、
ここでは 「津軽以北の地域」 を指すものと思います。

シラ(精・白)+タツ(竜)は 「精(しら)げられた龍・昇華した龍・満ちて化けた龍」 を意味し、
これは 「九頭の蛇・九頭龍」 の換言と考えます。
タケ(岳・嶽)は タカ(高)の変態で、「高み・山・峰」 をいいます。

 “蝦夷白竜の岳” の場所については ほとんど手掛かりがありませんが、北海道小樽の高島・赤岩地区に
 白龍伝説が伝わり、そのうちの一つは、アイヌ尊長の娘が恋に破れ、身を投じて、ついに白龍になり、
 海を荒れさせて、赤岩沖を船で通る和人の女の命を奪うというものです。



【概意】
またモチオロチは “セオリツを殺す、必ず殺す” と
150万年 蝦夷白竜の岳で機会を待つも、
セオリツは今は神となり、この世にはおらぬという虚しさよ。」



―――――――――――――――――――――――――――――――
 とかくしいわく なんちいま ひみのほのほお たつへしそ
 わかみけはみて したにおれ さかみおもれは つみきえて
 またひとなると をおきれは よろのをたうの やまそはこさき

―――――――――――――――――――――――――――――――
 トガクシ曰く 「汝 今 日三の炎を 絶つべしぞ
 我が御供食みて 下に降れ 清霊を守れば 罪消えて
 また人生る」 と 緒を切れば 撚の緒絶うの 山ぞハゴサキ

―――――――――――――――――――――――――――――――

■日三の炎 (ひみのほのほ)
邪霊の干渉を受ける者が患うという 「1日3度の発作的な発熱・熱狂」 をいい、
ホノホ(炎)ミノホ(三の火)オコリビ(瘧火)病める炎 などとも呼ばれます。

 人を妬めば 日に三度 炎 食らひて 身も痩する 〈ホ16-6〉


■清霊 (さがみ)
サガ+ミ(霊) で、このサガは スガ(清・▽直・▽健)の変態です。
ですから 「直ぐな霊・清い心」 という意味です。


■緒を切る (をおきる)
“緒” は “霊の緒” の略です。 ▶霊の緒
「霊の緒を切って地上生命を絶つ」 という意味で、“霊断ち” と同じです。


■撚の緒絶う (よろのをたう)
ヨロは ヨル(撚る・縒る)の名詞形で、「よれ・よじれ」 を意味します。
ヲタウは ヲタフ(緒絶ふ)の名詞形で、ヲタエ(緒絶え)の変態、「霊の緒の切断」 を意味します。
ですから 「よじれて乱れた霊の緒の切断」 という意です。

 こうしてトガクシは、九頭の蛇の乱れた霊の緒を切って、魂と魄を陽元と陰元に還し、
 モチコの霊に刻まれた罪・咎を癒します。それゆえに トガクシ(咎薬) なのでしょう。

 おだえ緒絶え】ヲ‥ 〈広辞苑〉
 緒がきれること。


■ハゴサキ (▽接裂き)
ヲタウ(緒絶う)の換言で、トガクシが 「九頭の蛇の霊の緒を切った山の名」 と考えます。
ハゴサキ山は おそらく 戸隠山/九頭龍山 の古名でしょう。

 ハゴは ハグ(接ぐ)の名詞形で、「つなぎ・結び」 を意味し、これは ヲ(緒) の換言。
 サキ(裂き・割き) は 「断絶・切断」 です。

 戸隠神社 (とがくしじんじゃ)
 長野県長野市戸隠3690。 
 現在の祭神:【九頭龍社】九頭龍大神

 

【概意】
トガクシ曰く、
「汝は今こそ “日三の炎” を絶つべしぞ。我が御供を食みて下に低まれ。
清霊を守れば、罪は消えてまた人に生れる」 と、霊の緒を切れば、
よじれた緒を絶つ山ぞ “ハゴサキ”。

 

本日は以上です。それではまた!

 

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