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一から学ぶ ほつまつたえ講座 第168回 [2024.7.17]
第三一巻 直り神 ミワ神の文 (1)
著者:おあずけ2号 (駒形一登)
著者HP:ホツマツタエ解読ガイド https://gejirin.com
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神武天皇ー3-1
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なおりかみみわかみのあや (その1)
直り神 ミワ神の文 https://gejirin.com/hotuma31.html
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なおりかみみわかみのあや
かしはらの やほをやゑあき すへしかと たかくらしたか
ややかえり つけもふさくは とみむかし みことおうけて
とくにより つくしみそふも やまかけも めくりをさめて
―――――――――――――――――――――――――――――
直り神 ミワ神の文
橿原の 八年ヲヤヱ秋 統使人 タカクラシタが
やや帰り 告げ申さくは 「臣 昔 御言を受けて
外国より ツクシ三十二も 山陰も 巡り治めて
―――――――――――――――――――――――――――――
■直り神 (なおりかみ) ■ミワ神 (みわかみ)
本文中で説明します。
■橿原の八年ヲヤヱ (かしはらのやほをやゑ)
「橿原を都とする皇(=タケヒト)の御代の8年目」、つまり
「神武8年」 で、
ヲヤヱはその年の 干支
です。これは 「上鈴65年」 に相当します。 ▶橿原 ▶上鈴
■統使人 (すべしかど)
「国家を統べる皇の代理人・国家統一勅使」
という意の、新設の官職と思われます。
ホツマには “スベシカド”
という名の他には何も説明がないため、不詳ではありますが、
ナガスネヒコによって乱された国家の統治システムを回復するために、
特に設けられた臨時の官職ではないかと考えています。 ▶統 ▶使人
■タカクラシタ・タカクラ
夢の告げに従って、地平けの剣 “フツの神霊”
をタケヒトに奉った人物です。
その後はタケヒトの臣として平定軍に加わっています。
・タカクラシタに 夢の告げ
… … 「ミカツチの “フツの神霊” を 蔵に置く」 〈ホ29-3〉
・「教えても来ぬ 後打つも 良し」 と タカクラ・弟シキと 遣りて示せど 〈ホ29-5〉
■外国・外つ国
(とくに・とつくに)
ト(外)+ツ(=の)+クニ(地・国) で、「内の国・畿内」
に対して、
「外の地/国・地方の地/国」 をいいます。また
「日本国外・海外」 の意にも使われます。
【概意】
直り神 ミワ神の文
橿原の8年ヲヤヱの秋、統使人のタカクラシタがようやく帰って告げ申すには、
「臣は昔 御言を受けて、外国より九州32県も、山陰も巡り治めて、
―――――――――――――――――――――――――――――
こしうしろ やひこやまへに つちくもか ふたわるゆゑに
ほこもちひ ゐたひたたかひ みなころし ふそよをさむと
くにすへゑ ささくれはきみ たかくらお
きのくにつこの おおむらし
―――――――――――――――――――――――――――――
越後 ヤヒコ山辺に 土蜘蛛が ふたわるゆえに
矛用ひ 五度戦ひ みな殺し 二十四治む」 と
国統絵 捧ぐれば 君 タカクラを
紀の国造の “皇連”
―――――――――――――――――――――――――――――
■越後 (こしうしろ)
「越のうしろの方・越国の下(しも)側」
という意で、後の越後、今の 「新潟県」 です。 ▶越国
■ヤヒコ山 (やひこやま:弥彦山)
順序は前後しますが、“ヤヒコ”
の名は、タケヒトがタカクラシタに賜った
「やひこかみ」 の尊名に由来すると考えられます。
■土蜘蛛 (つちぐも)
■ふたわる
フツ(▽付つ)+タフ(▽留ふ)+アル(在る) の同義語短縮で、
「付いて留まる・居着く・差し障る」 などの意です。
■二十四 (ふそよ)
24県で構成される、四国(しこく) の換言です。
■国統絵 (くにすべゑ)
「平定して統べ治めた国々を描いた地図」
をいうのでしょう。
■皇連・大連 (おおむらじ)
「皇の補佐官」 という意で、タカクラシタの 統使人
としての功績を称えて
授けた世襲称号だと思います。今の国史に言う 「大連」
の元祖です。 ▶大連
これ以降 ホツマの中で ムラジ(連)
と呼ばれるのは、
タカクラシタの後裔である オハリムラジ(尾張連)
のみです。
【概意】
越後のヤヒコ山辺に土蜘蛛が差し障るため、武力により5度戦って全滅させ、
また四国24県を統べ治めたる」
と、国家統治図を捧げれば、
君はタカクラを紀の国造となし、さらに “皇連”
の称号を授く。
―――――――――――――――――――――――――――――
ふそとしさみと こしうしろ はつほをさめす またむかふ
たかくらしたは たちぬかす みなまつろえは みことのり
たかくらほめて くにもりと をしてたまわる やひこかみ
なかくすむゆゑ いもとむこ あめのみちねお くにつこと
きのたちたまふ
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二十年サミト 越後 果つ穂納めず また向ふ
タカクラシタは 太刀抜かず みな服えば 御言宣
タカクラ褒めて 地守と ヲシテ賜わる “ヤヒコ尊”
永く住むゆえ 妹婿 アメノミチネを 国造と
紀の館 賜ふ
―――――――――――――――――――――――――――――
■二十年サミト (ふそとしさみと)
この年の記述は矛盾があります。
神武元年がサナトですので、神武20年はサヤヱのはずです。 ▶干支
こうした食い違いは、今後もけっこう頻繁に出てきます。
■果つ穂納めず (はつほをさめず)
「収穫を年貢として上納しない」 ということです。 ▶はつほ
この場合の “納む” は 通常 “おさむ” と表しますので、“をさむ” は誤写かもしれません。
■地守 (くにもり・くにかみ)
「地方の行政区の知行者」 をいい、この場合は クニツコ(国造)
の換言です。
つまり 「越後の国造」 に任命されたということです。
“タカクラでなくては越後は治まらぬ”
と判断されたのかもしれません。
■ヤヒコ尊 (やひこかみ)
タケヒトが タカクラシタ
に賜った尊名です。
ヤヒコは イヤ(礼)+ヒコ(彦)
の短縮で、イヤは ウヤ(敬)・ウワ(上) などの変態、
ヒコ(彦)は 「臣」 の換言です。ですから
「尊敬の臣・礼賛の臣」 というような意と考えています。
彌彦神社・伊夜比古神社
(やひこじんじゃ・いやひこじんじゃ)
越後国蒲原郡。新潟県西蒲原郡弥彦村弥彦2887-2。
現在の祭神:天香山命 (あめのかごやまのみこと)
<筆者注> 天香山命は タカクラシタの父の カゴヤマ(=タクリ)
のことですが、
この父子は混同されており、天香山命はタカクラシタを指します。
■アメノミチネ (天道根命)
タカクラシタが越後国造として現地に赴任するに伴い、
タカクラの妹婿のアメノミチネに紀の国造を引き継ぐということです。
ムラクモ(=アメフタヱ)の兄の
アマノミチネ
と同名ですが別人で、紀氏の祖とされます。
天道根命─知名曽命─比古麻命─蔭佐奈朝命─鬼刀弥命─┐ │ ┌────────────────────────┘ │ └荒川戸畔命─久志多麻命─大名草比古命─宇遅比古命┐ │ ┌────────────────────────┘ │ └舟木命 〈丹生直家系図〉
■紀の館 (きのたち)
「紀の国を治める政庁」 をいい、これはかつて紀の国の クニカケ(国懸)
とされた
太陽の前宮 / 日の前宮
と同一です。 ▶館
現在は 日前国懸神宮
となっていますが、摂社にはアメノミチネ(天道根命)も祀られます。
喜び返す 紀州国 太陽の前宮 タマツ宮 造れば安む 太陽宮を 国懸となす 〈ホ1-4〉
【概意】
神武20年サミト(正しくはサヤヱ)、越後が収穫を上納せず、タカクラシタはまた向かう。
武力を用いることなくみな服従すれば、御言宣。
タカクラを褒めて越後の地守となし “ヤヒコ尊”
の名を賜る。
永く <越後に> 住むゆえ、妹婿のアメノミチネを <紀の>
国造となし、紀の館を賜う。
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ふそよとし きみよつきなし
くめかこの いすきよりひめ おしもめに めせはきさきに
とかめられ ゆりひめとなり とのいせす
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二十四年 君 代嗣なし
クメが子の イスキヨリ姫 乙下侍に 召せば后に
咎められ ユリ姫となり 殿居せず
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■クメ
大和平定の褒賞として “クメの所”
を賜ったミチヲミをいいます。
ミチヲミは 望みのままに ツキサカと クメの所を 賜ふなり 〈ホ30ー3〉
■イスキヨリ姫 (いすきよりひめ)
クメ(=ミチヲミ)の娘であるこの姫は、伊須気余理比売
と古事記に記されますが、
タケヒトの内宮(=正妃)である タタラヰソズズ姫
の別名とみなされています。
■后 (きさき)
内宮(=正妃)の タタラヰソズズ姫
を指します。
■咎む (とがむ)
■ユリ姫・サユリ姫 (ゆりひめ・さゆりひめ)
イスキヨリ姫 の別名です。“サユリ姫”
とも呼ばれます。
タケヒトが “さゆりの花見” で見初めたからでしょう (後出)。
■殿居せず (とのいせず)
乙下侍でありながら 「皇宮の局に入らない」
という意です。 ▶殿居
【概意】
神武24年、君代嗣なし。
クメの子のイスキヨリ姫を乙下侍に召せば、
后に反対され、ユリ姫となり殿居せず。
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きさきはらみて あくるなつ
かんやゐみみの みこおうむ いみないほひと
ふそむとし まつりみゆきの やすたれに
かぬかわみみの みこうみて いみなやすきね
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后 孕みて 明くる夏
カンヤヰミミの 御子を生む 斎名イホヒト
二十六年 祭り御幸の ヤスタレに
カヌカワミミの 御子生みて 斎名ヤスキネ
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■カンヤヰミミ・カンヤヰ御子 (かんやゐみこ) ■イホヒト
タケヒトと内宮タタラヰソスズ姫に生まれた最初の男子で、
記紀には 神八井耳命
と記されます。斎名はイホヒトです。
タケヒトには、九州時代に アヒラツ姫
が生んだ タギシミミ
という長男がいます。
カン(神)+ヤヰ+ミミ(御実)
で、ヤヰは ヤフの名詞形、ヤフは イヤフ(礼ぶ)
の母動詞です。
ですから 「神を敬う御子」
という意ですが、この由来はアヤのかなり後の方で示されます。
■祭り御幸 (まつりみゆき)
「神を祭るための御幸」 ということです。 ▶御幸
■ヤスタレ
ヤスカワ(和側・和郷)の換言で、「ヤスの辺り・近江周辺」
を意味すると考えます。
タレは アタリ(辺り)の
“タリ” の変態です。
■カヌカワミミ・カヌナカワミミ・ヌナカワ尊 (ぬなかわみこと) ■ヤスキネ
内宮タタラヰソスズ姫が生んだ2番目の男子で、斎名はヤスキネです。
記紀には 神沼河耳命 /
神渟名川耳尊 と記されます。
アヒラツ姫 ├───────1.タギシミミ カンヤマトイハワレヒコ (斎名:タケヒト) ├───────2.カンヤヰミミ (斎名:イホヒト) ├───────3.カヌカワミミ (斎名:ヤスキネ) タタラヰソスズ姫
カヌ(兼ぬ)+ナ(=の)+カワ(側・郷)+ミミ(御実)
で、“カヌナカワ” は ヤスカワの換言です。
ですから 「ヤスカワ/ヤスタレで生まれる御子」
という意です。
【概意】
御后のヰソスズ姫は孕んで、明くる夏にカンヤヰミミの御子を生む。斎名はイホヒト。
また26年には、祭り御幸のヤスタレでカヌカワミミの御子を生むて、斎名はヤスキネ。
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さみゑなつ やひこのほりて をかむとき あめのさかつき
かすいたる すへらきとわく むかしゑす いまのむいかん
そのこたえ わかくにさむく つねのめは おのつとすけり
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サミヱ夏 ヤヒコ上りて 拝む時 天の杯
数 至る 皇 問わく 「昔 得ず 今飲む 如何ん」
その応え 「我が国寒く 常 飲めば おのづと好けり」
―――――――――――――――――――――――――――――
■サミヱ
上鈴87年、神武30年に相当します。 ▶干支
■ヤヒコ
タケヒトが
越後の国造に任じたタカクラシタに賜った尊名です。
■天の杯 (あめのさかづき)
「天(御上・皇)から下される御酒・天皇よりの賜杯」
です。 ▶天
■数至る (かずいたる)
「数がすごいことになる」 ということです。
■好けり (すけり)
「好くなり」 の短縮形です。
【概意】
サミヱの夏、ヤヒコが上京して拝謁する時、皇の賜杯が数至る。
皇は問いて、「昔はいけなかったのに、今は飲むのはどうしてだ?」
その応え、「我が国寒く、寒さしのぎに常々飲めば、おのずと好けり。」
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きみゑみて なんちはみきに わかやきつ
さかなにたまふ おしもめそ
なそなのをとに はたちめと こしにとつきて をめおうむ
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君 笑みて
「汝は酒に 若やぎつ 肴に賜ふ 乙下侍ぞ」
七十七の男に 二十女と 越にとつぎて 男女を生む
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■肴 (さかな)
■乙下侍 (おしもめ)
これは イスキヨリ姫=ユリ姫
を指します。
つまりここでヤヒコの妻として下されるわけですが、
その込み入ったいきさつについては次節で語られます。
【概意】
君は笑みて、「汝は酒に若やぎたれば、肴に賜う乙下侍ぞ。」
77歳の男に20歳の女が 越にとつぎて男女を生む。
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さきにさゆりの はなみとて きみのみゆきは さゆかわに
ひとよいねます くめかやの いすきよりひめ かしはてに
みけすすむれは すめらきは これおめさんと つけのみうたに
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さきにサユリの 花見とて 君の御幸は サユ郷に
一夜寝ねます クメが家の イスキヨリ姫 膳出に
御食進むれば 皇は これを召さんと 告げの御歌に
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■サユリ (小百合)・サユ・サイ (小百・狭井)・ユリ (百合)
サユ+ユル の短縮 “サユル” の名詞形で、サユは ソフ(添ふ・沿ふ)の変態、
ユルは ヨル(寄る)の変態です。「沿ってそれないさま・ぶれないさま」
を原義とし、
「直ぐなさま・清らかさ・調和・一筋・マメ(忠)・ミサホ(操)」
などを意味します。
略して “サユ” “サイ” “ユリ”
とも呼ばれます。
現在は ササユリ、あるいは
ヤマユリ
とも呼ばれます。
ササユリの花言葉は、今も 「純潔・清浄」 だそうです。
■サユ郷 (さゆがわ)
サユは サユリと同じ。カワ/ガワ(側・▽郷)は
「区分・区画」 を意味します。
ですから 「サユリの郷」
という意です。サユリの名所だったのでしょう。
これは 「クメの所」 つまり 「ミチヲミの所有地」
の別名と考えます。 ▶クメの所 ▶ミチヲミ
■クメが家 (くめがや)
クメは、大和平定の褒賞として “クメの所”
を賜ったミチヲミの換言です。
ですから 「ミチヲミの家」 ということです。 ▶家(や)
■御食 (みけ)
ミ(御・▽上・▽尊)+ケ(食)
で、この場合は 「食」 の尊敬語です。
【概意】
さきにサユリの花見とて、君はサユ郷に御幸。
一泊されるクメの家の、イスキヨリ姫を膳出として御食を進めれば、
皇はこれを召そうと 告げの御歌に、
―――――――――――――――――――――――――――――
あしはらの しけこきおやに
すかたたみ いやさやしきて わかふたりねん
―――――――――――――――――――――――――――――
『あし原の しけこき小屋に
清畳 いやさや敷きて 我が二人寝ん』
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■あし原 (あしはら:▽朝原)
この場合は 「朝廷」 を意味し、特にその中枢である
「皇居・賢所」 をいいます。 ▶賢所
■しけこき小屋 (しけこきおや)
「仕切られた小部屋」 の意で、ツボネ(局)
の換言です。
★しけこし
シケコ+シ(▽如・▽然)
で、シケコは “シケク” の名詞形。
シケクは シキル(仕切る)の母動詞
“シク” + コク(放く)の変態
“ケク” の短縮で、
どちらも 「離れる/離す・分れる/分ける・仕切る/仕切られる」
などが原義です。
シケコは “しけこむ”
のシケコと同源と思います。
■清畳 (すがだたみ)
「清らかな重ね物」 が原義で、この場合は
「きれいな敷布団」 をいうのでしょう。 ▶清 ▶畳
■いやさや
イヤ(弥)+サヤ
の連結で、サヤは サワ(多)の変態。
イヤサカ(弥栄)、わんさか、わんさ などの同義語と考えていいと思います。
■ねん (寝ん)
現代語では “ねよう” です。
男女が一緒に “ねる” 場合は、“寝る”
と当てられてはいますが、
“練る・▽和る”
の意が本来で、「交じり合う・交合する」
ことを意味します。
【概意】
『皇居の仕切られた小部屋に きれいな布団をたくさん敷いて 我ら2人交じらん』
―――――――――――――――――――――――――――――
これにめし つほねにあるお たきしみこ ふかくこかれて
ちちにこふ うなつきうはふ ちちかよふ
あやしきとめお さとるひめ みさほつすうた
あめつつち とりますきみと なとさけるとめ
―――――――――――――――――――――――――――――
これに召し 局にあるを タギシ御子 深くこがれて
父に乞ふ 頷き諾ふ 父が呼ぶ
怪しき留めを 悟る姫 “操つず歌”
『天つ地 娶ります君と など裂ける 止』
―――――――――――――――――――――――――――――
■タギシ御子 (たぎしみこ)
タケヒトの長男の タギシミミ
をいいます。
母は アヒラツ姫
で、タケヒトが九州滞在時に娶った最初の妻です。
アヒラツ姫 ├───────1.タギシミミ カンヤマトイハワレヒコ (斎名:タケヒト) ├───────2.カンヤヰミミ (斎名:イホヒト) ├───────3.カヌカワミミ (斎名:ヤスキネ) タタラヰソスズ姫
■こがる (焦る)
コグ(焦ぐ)+カル(上る)
の短縮で、カルは アガル(上がる)の母動詞。
どちらも 「高まる・勢いづく・熱くなる」
などが原義です。
■諾ふ (うはふ)
ウベナフ(諾ふ)と同義で、「納得する・承諾する・受け入れる」
などの意です。
ウフ+アフ(合ふ) の短縮で、ウフは 宜(ウベ)の母動詞です。
両語とも 「合う/合わす・入れる・受ける」
などが原義です。
■怪しき留め (あやしきとめ)
「怪しい含み」 という意です。 ▶怪し
「はっきりわからないが、何か別のものが裏にある感じ」
をいいます。
★留 (とめ)
この場合は
「留まるもの・付くもの・付帯するもの・含み」
などを意味します。
■操つず歌 (みさほつずうた)
「操を徹す意志を綴る十九歌」 というような意です。 ▶みさほ
★十九歌 (つずうた・つづうた) ★連歌 (つずうた・つづうた)
基本的に、(1) 一句を19音 (5-7-7) で綴る歌 をいいますが、
(2) 19音の一句を歌い連ねること、これもやはり ツズウタ/ツヅウタ(連歌)
といいます。
さらに、多くの場合は ツズ/ツヅ に
「続・連・十九・綴・伝つ・徹す … 」 などの意を
かけ合わせるため、意味はかなり複雑になります。
つず【十・十九】ツヅ 〈広辞苑〉
・とお。一○。誤って一九に用いる。
■天つ地 (あめつつち)
アメ(天)は 「上・陽・夫」
を意味し、これはタケヒト皇を指します。
ツチ(地)は 「下・陰・妻」
を意味し、これは乙下侍のイスキヨリ姫を指します。
アメ(天)+ツ+ツチ(地) の ‘ツ’
は 「所有・所属の関係」 を表し、
この場合は
「天に所属する地・君があっての乙下侍・夫あっての妻」
という意です。
これは 「天の光を受けてこその地」
という古くからの思想を表すものと思います。
・夫は日なり 嫁は月 月は元より 光無し 日影を受けて 月の影 〈ホ13ー2〉
・天より慈 地に編みて 連なり育つ 子の例 父の恵みは 頂く天 母の慈し 載する埴 〈ホ16-7〉
■など
■裂ける・割ける・離ける (さける)
サク(離く・放く・裂く・裂く・避く)の連体形で、
「離れる/離す・別れる/別ける・離れ離れになる/する」
などの意です。
■止・留 (とめ)
「終り・締め・以上・完」
などの意を表すものと思います。
つず歌は継ぎ句を連ねて連歌として楽しみますが、
継ぎ句・返歌を望まない場合には その句を “とめ”
で終えるという、
連歌のルールがあったのではないかと推測しています。
連歌については39アヤに詳しい説明があります。
しかし後代の連歌とはかなり異なるところもあり、非常に難解です。
【概意】
この歌に召して、姫が局にある時、
タギシ御子は深くこがれて、父に <とつぎを> 乞う。
頷き承諾した父が <姫を>
呼ぶ時、怪しき含みを悟った姫の “操つず歌”。
『君あっての乙下侍 娶ります君と なぜに離れる (止め)』
―――――――――――――――――――――――――――――
たきしみこ すすみこたえて
にやおとめ たたにあはんと わかさけるとめ
―――――――――――――――――――――――――――――
タギシ御子 すすみ応えて
『にや女 直に会わんと 我が離ける 止』
―――――――――――――――――――――――――――――
■にや女 (にやおとめ)
愛女(ゑおとめ)、うまし女
の換言です。
ニヤは “わなにやし” の
ニヤで、「心に合うさま・好むさま」を表します。 ▶わなにやし
■直に (ただに)
「じかに・直接」 の意です。 ▶直
【概意】
タギシ御子はすすみ応えて、
『愛しき女よ じかに会わんと 我が離した (止め)』
―――――――――――――――――――――――――――――
やわなきお おつてといえは みこもさる
ことめかつくる くしみかた きみにもふさく しむのはち
きみうなつきて ひそかにし
このたひたまふ をしもめは このゆりひめそ
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和なきを 「追って」 と言えば 御子も去る
異侍が告ぐる クシミカタ 君に申さく 「シムの恥」
君 うなづきて 密かにし
このたび賜ふ 乙下侍は このユリ姫ぞ
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■和なし (やわなし)
ヤワ(和)は
「和合・調和・和らぎ・結び」 などの意で、ナシは
「無し」 です。
ミヤナシ(和なし)の換言で、この場合は
「御子と姫に なごむようすのないこと」 をいいます。
■クシミカタ
クシミカタマの略です。5代オオモノヌシで、タケヒトの右の臣です。
■密か (ひそか)
ヒス(秘す)+カ(▽如・▽然)
で、ヒスは フス(伏す)の変態です。
「伏せるさま・隠すさま・目に触れないさま」
を意味します。
【概意】
御子と姫に なごむようすがないため、「追々に」
と言えば、御子も去る。
別の侍女がクシミカタマに告げると、君に申して
「身内の恥」 と。
君も頷き、内密にする。このたびヤヒコに賜う乙下侍は、このユリ姫ぞ。
本日は以上です。それではまた!