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一から学ぶ ほつまつたえ講座 第86回 [2023.12.4]
第十六巻 孕み謹む帯の文 (7)
著者:おあずけ2号 (駒形一登)
著者HP:ホツマツタエ解読ガイド https://gejirin.com
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はらみつつしむおびのあや (その7)
孕み謹む帯の文 https://gejirin.com/hotuma16.html
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はらみこお とひうるための たひやとり
あるひひめかみ またのとひ おしえのおひは わさありや
こもりこたえて
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孕み子を 訪ひ得るための 旅宿り
ある日ヒメ尊 またの問ひ 「押えの帯は 技ありや」
コモリ答えて
―――――――――――――――――――――――――――――
■訪ひ得る (とひうる)
トフ(訪ふ)は
タム(回む)の変態で、「回る・巡る・往く」
などが原義です。
ウル(得る)は ここでは 「知る・見る」 などの意です。
ですから 「往診する」 という意となります。
■旅宿り (たびやどり)
タビ(旅)は タフの名詞形で、タフは トフ(訪ふ)や
タム(回む)の変態です。
ですから 「往き来・回転・巡回」 が タビ(旅・度)の原義です。
ヤドル(宿り)は ヤドル(宿る)の名詞形で、
「留まること・滞ること・滞在」 が原義です。
★宿る (やどる)
ヰユ(居ゆ)+トル(▽留る) の同義語短縮で、ヰユは ヰル(居る)の変態、
トルは トム(留む・止む・停む)の変態です。
■ヒメ尊 (ひめがみ)
タケミカツチの一人娘
“ヒメ” に対する敬称で、ヒメギミ(姫君)とも呼ばれています。
■押締の帯 (おしえのおび)
「(腹を) 締める帯」 という意です。
オシエは オス(押す)+シフ(▽締ふ)
の短縮の名詞形で、どちらも 「おさえ・締め・固定」
などの意です。シフは シム(締む)の変態なので、“押締”
と当て字しています。
★帯 (おび・をび)
オフ(負ふ・帯ぶ)の名詞形で、ユヒ(結ひ)の変態です。「結び・締め・束ね」
などが原義で、
「物を結んだり締めたり束ねたりする紐状のもの」
をいいます。
■技 (わざ)
「する事・仕事」 などが原義で、ここでは
「はたらき・効能」 をいいます。
【概意】
<コモリはヒメの>
孕み子を往診するためカシマに滞在すると、
ある日
ヒメ尊はまたの問い、「押締の帯は効能がありますのか?」
コモリは答えて、
―――――――――――――――――――――――――――――
たまきねの をしゑのおひは
みみのはに しなわきまえて くにをさむ
おひはゐわみの かためなり をはしたあわせ めはうえそ
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タマキネの 教えの帯は
身々の埴に 品わきまえて 地 治む
帯は五腑の 固めなり 男は下合せ 女は上ぞ
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■タマキネの教えの帯 (たまきねのをしゑのおび)
タマキネはタカミムスビ5代トヨケの斎名で、「タマキネの教え種の帯」
という意です。
前段の “押締(オシエ)の帯”
と同じものを指すのですが、帯の効能と、
その由来とを区別するため、意識的に表記を違えているものと考えます。
ホツマは “教え” の意の場合は、必ず “ヲシヱ”
と表記します。
■身々の埴 (みみのは)
ミミ(身々)は 「各人それぞれ」 という意です。
ハは 埴(はに)の短縮、あるいは 地(ハ・ワ) で、いずれも
「凝り固まったもの」 を
意味しますが、この場合は 五色の埴(ゐついろのはに・ゐいろはに)
をいいます。
ですから 「各人それぞれの臓腑」 という意です。
・霊汁煮られて 五色の 埴もて付くる 守の神 〈ホ14-4〉
・七月 血を煮て 五色埴 これ臓腑と 腎
成す 〈ホ16-3〉
■品弁ふ (しなわきまふ)
シナ(品・科)は
「違い・区分・種類・分類」 などが原義です。
ワキマフは
「計る・比較考慮する・分別する」 などの意です。
ですから 「違いを計り考慮する」 という意です。
■地 (くに)
これもやはり 「凝り固まったもの」
が原義です。この場合は 「人の身体」 をいいます。
■五腑 (ゐわみ)
ヰワタ(五腑)と同じですが、ここで “五腑” を ヰワタ
ではなく ヰワミ と呼ぶのには
理由があります。後に “ヰハタ帯”
という名の帯が出てくるのですが、そのヰハタと
ヰワタ(五腑)との混同を避けるためです。ヰハタにはもう1つ別の意味があるのです。
ワミは ウミ(埋み)の変態で、「(腹の中を)埋めるもの」 という意です。 ▶ウミ ▶ワタ
■男は下合せ女は上ぞ (をはしたあわせめはうえぞ)
今日でも和服の帯は、男は腹の下に締め、女は上に締めます。
その理由はよくわかりませんが、天・日・陽である男は地(下)に向かい、
地・月・陰である女は天(上)に向かうという、陰陽思想を反映しているように思います。
・男は父に得て 地を抱け 女は母に得て 天と結ねよ 〈ホ7-7〉
・夫は日なり 嫁は月 月は元より 光無し 日影を受けて 月の影 〈ホ13-2〉
・男は地に向ひ とつぐ時 … … 女は天に向い 交りの 〈ホ16-2〉
・父母
天を 地に編みて 連なるミヤビ テテ・タタよ 〈ホ16-4〉
【概意】
タマキネの教えの帯は、それぞれの臓腑の違いをわきまえて身体を治める。
帯の効能は五腑の固定である。男は腹の下に合わせ、女は上に合わすぞ。
―――――――――――――――――――――――――――――
はらみのおひは かつらきの よつきやしろに みたねのる
ときにあめより にいとりの ひとはおつれは あまつのり
これはいふきの なるもみち はけてかつらき いとりやま
―――――――――――――――――――――――――――――
孕みの帯は 桂来の 代嗣社に 御胤祈る
時に天より 丹霊鳥の 一羽落つれば 天つ宣
これは気吹の 成る紅葉 化けて桂来 霊鳥山
―――――――――――――――――――――――――――――
■孕みの帯 (はらみのおび)・孕帯 (はらおび)
今に言う 「妊婦帯」
で、これは 「タマキネの教えの帯」 の1種と思います。
妊娠5月目 (サ月サの頃)
から着用するため、サツサ孕帯
とも呼ばれます。
他にも
ヒタチ帯、ヰハタ帯、ケフの帯、身丈の帯、メヲ羽二重
など多くの
別名があります。
■桂来 (かつらき)
桂来山(かつらきやま)の略で、「至高の存在(=アメノミヲヤ)が来る山」
という意です。
■御胤・神胤 (みたね)
ミ(御)は カミ(上・神)の略形、タネ(胤)は
「続き・連なり・後継・末裔」 を意味します。
ですから 「尊き子孫・神の末裔」 などの意です。
■丹霊鳥・丹斎鳥 (にいとり)
「丹色の霊鳥・赤き聖鳥」 という意です。 ▶丹(に)
★霊鳥・斎鳥 (いとり)
イ(霊)+トリ(鳥)
で、「神の鳥・聖なる鳥・尊い鳥」 を意味します。
しかしその容姿についての記述はなく、具体的には不詳です。
後世 シナ国の 「鳳凰」
と習合したようです。
■天つ宣 (あまつのり)
「天のお告げ・神からの知らせ」 という意です。
■気吹 (いぶき)
「勢い・栄え・活発・活躍」 などを意味します。
ここではトヨケ(=タマキネ)の 「御胤の誕生を願う情熱」
をいいます。
■紅葉 (もみぢ)
モミヂは モミツ(紅葉つ)の名詞形で、「成熟・成就・達成」
などが原義です。
ここでは落ちてきた丹霊鳥の羽を、紅葉した木の葉になぞらえ、
それを以て “大願成就” のサインとみなしています。
■霊鳥山・斎鳥山 (いとりやま)
「霊鳥が羽を落とした山」 という意です。ですから “桂来霊鳥山”
は
「至高の存在(=アメノミヲヤ)の来臨を告げる霊鳥が羽を落とした山」
という意となります。
これはどこの山かといいますと、出羽国の鳥海山です。
鳥海山は古くは 鳥見(とりみ)山、大物忌(おおものいみ)山、比山/日山(ひのやま)、
羽山、鳳山、などと呼ばれており、この山には大物忌神社があります。
トヨケが桂来山の代嗣社で、8千回のモノ忌みをしながら、二尊の代嗣子に貴い神霊が
降臨せんことをアメミヲヤに祈っていると、天から丹霊鳥の羽が1枚降ってきて、
祈願の成就を知らせます。そのゆえに “出羽”
の国なのでしょう。
大物忌神社
(おおものいみじんじゃ)
山形県飽海郡遊佐町。(出羽国飽海郡)
現在の祭神:大物忌大神
<筆者注> 大物忌大神は8千回の物忌を行ったトヨケを指します。
【概意】
孕みの帯は、タマキネが桂来山の代嗣社に御胤を祈る時、
天より丹霊鳥の1羽が落ちきたれば、それを天の告げと知り、
「これは我が大願の成就を知らせる紅葉」 とて、山の名も
“桂来霊鳥山” と化ける。
4アヤでは次のように記されていました。
尽き桂来の 霊鳥山 代嗣社の 色垂は アメノミヲヤに 祈らんと
トヨケ自ら 禊して 八千回契り 抜きんつる厳霊
神祈り通りてぞ アメノミヲヤの 眼より 漏るる日月と
天元神 三十二の神の 守るゆえ 子種生ること 覚えます 〈ホ4-2〉
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はねさきみれは ふそよすち かすそなわれと つねあらす
もろとりみれは そゐにさけ
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羽先見れば 二十四筋 数 備われど 常あらず
諸鳥見れば 十五に割け
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■二十四筋 (ふそよすぢ)
フソヨ(二十四)という数は アワ歌に歌われる48神の半分です。 ▶筋(すぢ)
アワ歌の 上24音を男のイサナキが、下24音を女のイサナミが歌えば、
48神が揃って 陽と陰が協和/協調します。これが “数備わる”
の意味です。
アワ歌を 上二十四声 イサナキと 下二十四声 イサナミと
歌ひ連ねて 教ゆれば 歌に音声の 道 開け 〈5アヤ-1〉
“羽先が二十四筋” とか “十五に割け” とは、どういう意味なのか今一つ不明です。
【概意】
その羽先を見れば24筋に分かれている。
陽陰の数を完備すれど、常に入手できるものではない。
他の諸鳥を見れば 15筋に割けている。
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ひたかみにつる たてまつる はねさきみれは ふそよなり
かれもろはねお よりたたし をつるおたてに めおよこに
けふのほそぬの おりもつて よそやそなわる みはらおひ
―――――――――――――――――――――――――――――
ヒタカミに鶴 奉る 羽先見れば 二十四なり
故 諸羽を より正し 雄鶴を経に 雌を緯に
経緯の細布 織り 以て 四十八備わる 御孕帯
―――――――――――――――――――――――――――――
■ヒタカミ
■より正す (よりただす)
ヨル(寄る)+タダス(▽直す・正す)の同義語連結で、
「合わせ直す・均してまっすぐにする・調整する」
などの意です。
今日、ヨルは “縒る・撚る”
と当て字され、「ねじる」 の意になっていますが、
原義は 「合わす・直す・調える」 で、“ねじる” は
その方法の一つです。
■雄鶴を経に雌を緯に (をつるおたてにめおよこに)
「雄鶴の羽を紡いだ糸を経糸に、雌鶴の羽を紡いだ糸を緯糸にして」
という意です。
★鶴 (つる)
ツル(吊る)の名詞形と考えられます。英語では
クレーン(crane)
だからです。
■経緯の臍布・交の臍布 (けふのほそぬの)
「(雄の経糸と雌の緯糸を) 交えた帯」、つまり
「陽陰交合の帯」 という意です。
陽陰の48神が織り込まれたこの帯を、イサナミの “孕みの帯”
とします。
ホソ(臍)は
「合わせ・結び・つなぎ」 などが原義で、オビ(帯)の換言です。
辞書には “狭布の細布”
という言葉があります。
★経緯・交・契・係 (けふ)
カフ(交ふ)の変態
“ケフ” の名詞形で、「交わり・関わり・係り・契り」
などを意味します。
ケフの変態が ケヰ(契・系・係)です。
この場合は 「雄の経糸と雌の緯糸の交え・陽陰の交合」
の意であるため、
“経緯” と当てました。“雄雌” “経緯”
は、どちらも 「陽陰」
を意味します。
おそらく “経緯”
の ケイヰ という読みも、ケフ・ケヰ からの転です。
■四十八備わる (よそやそなわる)
アワ歌に詠まれる 「48神が完備する」 という意です。
この48神が備われば万能となります。なぜなら森羅万象はことごとく、
48神の組合せである “言葉”
によって表されるためであり、この48神が
すべて備われば、森羅万象を完全に我が物とできるからです。
人は万象を言葉に変換して理解を得て、言葉によって思考し、また言葉によって
意思を伝達するわけですから、言葉の元である48音(=48神)は
「森羅万象の源」
ということになります。48音の別名が フトマニ
です。
■御孕帯 (みはらおび)
ハラオビ(孕帯)は ハラミノオビ(孕みの帯)と同じく
「妊婦帯」 のことです。
ミ(御)は
この孕帯を着用するイサナミ、その結果生まれたアマテルへの尊敬を表します。
【概意】
<その後> ヒタカミに鶴が献上され、その羽先を見れば24筋であった。
しかれば諸羽を調え直し、雄鶴の羽を経糸に、雌鶴の羽を緯糸として、
“経緯の臍布” を織り、それを以て48神が完備する御孕帯となす。
―――――――――――――――――――――――――――――
ははのいさなみ なかはらみ こそむつきへて うみたまふ
あまてるかみそ はたれまの さはれとおひに ととのひて
よそやそなわる そのためし
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母のイサナミ 長孕み 九十六月経て 生み給ふ
アマテル神ぞ ハタレマの 障れど帯に 調ひて
四十八備わる その例
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■ハタレマ
「ハタレのモノ」
と同じです。 ▶ハタレ ▶モノ
イソラ(▽逸霊)、オロチ(▽折霊)、ハハ(▽蝕霊)
などとも呼ばれます。
ハタレマは 「ハタレのモノノベ」
を意味する場合と、「ハタレのモノノケ」 を意味する
場合とがあるのですが、この場合は後者で、「曲った霊・邪霊」
をいいます。
■調ふ・整ふ
(ととのふ・ととなふ)
トヅ(綴づ)+ノフ/ナフ(▽和ふ・綯ふ)
の同義語連結で、
「和合する・融和する・調和する・まとまる・揃う」
などの意を表します。
【概意】
母のイサナミは長孕みで、96月を経て生み給うアマテル神ぞ。
その間に邪霊が干渉してくるも、この孕帯により無事に調えば、
これぞ48神が完備する威力の例である。
―――――――――――――――――――――――――――――
てれはひめきみ さはらねと いきすひたちと なすおひそ
ときにみかつち いふかしく いきすひたちと なるおひの
わさにいきすは いつこえか ときにこもりの こたえには
―――――――――――――――――――――――――――――
てれば姫君 障らねど イキス “ヒタチ”と なす帯ぞ
時にミカツチ いぶかしく 「イキス “ヒタチ”と なる帯の
技にイキスは 何処へか」 時にコモリの 答えには
―――――――――――――――――――――――――――――
■姫君 (ひめぎみ)
タケミカツチの一人娘で、アマノコヤネの妻となった
“ヒメ” に対する敬称です。
ヒメガミ(姫尊)とも呼ばれます。
■イキス (息子・息素・息数)
成人男性の1日あたりの呼吸数は 13,680回、成人女性は
13,186回、
また妊娠中の女性は2倍くらいに呼吸数が増えるとホツマはいいます。
■ヒタチ (▽直ち・▽一致)
“ひとし”
の音便 “ぴったし”
の名詞形で、今風には 「ぴたり・ぴったり」
です。
この場合は 「呼吸数が過不足なくドンピシャ」
という意味です。 ▶直(ひた)
形容詞を名詞化する場合、形容詞の語尾の ‘シ’ を ‘チ’ に換えることが多いです。
■いぶかし (訝し)
■何処へか (いづこえか)
「どこへか?・どこへ行くか?」 という意です。 ▶何処
【概意】
それに照らせば姫君の場合、邪霊の障りはなくとも、イキスを
“ヒタチ” となす帯ぞ。
時に父のタケミカツチは訝しく、
「イキスが “ヒタチ”
となる帯の技に、イキスはいったいどうなると?」
時にコモリの答えには、
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むかしとよけの のたまふは
あめよりさつく けふのおひ あめにのとりて ちちのたけ
くらふるおひに ははのいき ひたちとなるは いたくなり
―――――――――――――――――――――――――――――
昔 トヨケの 宣給ふは
アメより授く 経緯の帯 陽陰に則りて 父の丈
比ぶる帯に 母の息 “ヒタチ” となるは 慈なり
―――――――――――――――――――――――――――――
■アメより授く (あめよりさづく)
アメ(陽陰)は ここでは 「アメノミヲヤ」
をいいます。
■経緯の帯 (けふのおび)
“経緯の臍布” と同じです。
■慈・愛 (いたく・いたき・いとう)
イツク(傅く・斎く)の変態の
イタク(▽慈く)
が、そのままの形で名詞化したもので、
「いつくしみ・いとおしみ・愛・思いやり・恵み・慈愛・慈恵」
などを意味します。
イタキ(▽慈)、イトウ(▽愛) ともいいます。
【概意】
昔 トヨケの宣給うは、アメノミヲヤより授かる経緯の帯。
陽と陰の関係に則って、父の身丈に合せた帯を身に着けた母の息が
ヒタチ(=ぴったり)となるのは、<陽と陰の 相方に対する>
愛による。
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あめよりいたき はにあみて つらなりそたつ このためし
ちちのめくみは いたたくあ ははのいつくし のするはに
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天より慈 地に編みて 連なり育つ 子の例
父の恵みは 頂く天 母の慈し 載する埴
―――――――――――――――――――――――――――――
■天 (あめ・あ) ■地 (は) ■埴 (はに)
ここでは 天=「上・陽・日・父」
地/埴=「下・陰・月・母」 です。
■慈 (いたき) ■慈し (いつくし)
イタク(▽慈)と同じです。
■例 (ためし)
ここでは タトエ(譬え・喩え・例え)
と同義です。
【概意】
経緯の帯は、天(陽)よりの恵みを地(陰)に編み込み、
陽陰が連なって子を育むことを例えた物。
父の恵みは 上に頂く天(日)であり、
母の慈しみは その恵みを載せる埴(地)となること。
(陰の慈しみとは、陽の恵みを受け入れてそれに応え報いること)
▶和ぐ
同様のことは少し前にも語られています。
・春の空廻を 地に編みて 慈くに足れば “タタ”
と言ふ 〈ホ16-4〉
・父母 天を 地に編みて 連なるミヤビ テテ・タタよ 契り親しむ 〈ホ16-4〉
・日は天に 月は地守る 嫁の実は 夫一人に 向ふ土ぞ 〈ホ13-2〉
―――――――――――――――――――――――――――――
あまてるかみも わすれしと いとふそよすち よりあはせ
めをはふたえの みはとなす このみはめして
あさことに あめつちまつり たらちねに つかふみこころ
そのきみも これともふせは
―――――――――――――――――――――――――――――
アマテル神も 忘れじと 糸二十四筋 より合わせ
陰陽羽二重の 御衣となす この御衣召して
朝ごとに 天地まつり 父母に 継がふ実心
その君も これと申せば
―――――――――――――――――――――――――――――
■より合わす (よりあわす)
“より正す” と同じです。
■陰陽羽二重 (めをはぶたゑ) ■羽二重 (はぶたゑ)
「雌鶴と雄鶴の羽を織ったもの」 という意で、ケフノホソヌノ(▽経緯の臍布)の別称です。
メヲハ(陰陽羽)は 「雌鶴と雄鶴の羽」 をいいます。
フタヱ(二重)は フツ(▽付つ・打つ)+アフ(合ふ) の短縮
“フタフ” の名詞形で、
「合わせ・交え・結び・編み・織り」
などの意を表します。
羽二重は 「雌鶴と雄鶴の羽を織ったもの」
をその起源としますが、
鶴の羽もそれほどたやすく入手できるものではないため、経糸と緯糸に
別種の糸を用いて織った布を “羽二重”
と総称するようになったようです。
■天地まつる (あめつちまつる)
アメツチ(天地)は 「陽陰」
を表し、ここでは アワ歌に詠まれるアワの神48柱を指します。
マツル(纏る・祀る)は
「それに心をまとわす・意識を向ける」 という意ですが、
この場合 “天地祀る” とは 「心を添えてアワ歌を詠む」
ことをいいます。
■父母に継がふ (たらちねにつがふ)
「父母のイサナキ&イサナミに続く」 という意です。 ▶タラチネ ▶ツガフ
この部分の記だけでは何を言ってるのか不明ですが、ミカサフミの
“アワ歌の文”
を読むとわかります。朝ごとにアワ歌を詠むという行いは、
イザナギ&イザナミの二尊が毎日やり続けていたことなのです。
昔二尊 アワ歌を 日ごとに歌ひ 八百万日 行ひ至る この末に
我
受け継ぎて 結ぶ手に 朝ごと歌ふ 幾年か いまだ欠かさず 〈ミ10-6〉
アマテルもそれを引き継ぎ、麻子と菅の糸で織った羽二重を着て、民の安寧を願い、
日ごとアワの神に心を合せていたといいます。
麻子と菅の 羽二重は 民の気安く 永らえと 日に祈る衣ぞ 〈ホ23〉
■その君 (そのきみ)
“ソノ” は ここでは 「そちらの」
という意で、この場合はタケミカツチです。
ミカツチが仕える君は この時点ではタカノコフを都とするオシホミミです。
一方、コモリ・コヤネ・カツテは イサワ宮のアマテルに仕えています。
【概意】
アマテル神も陽陰(天地・父母)の恵みを忘れまいと、
24筋の糸を調整して陰陽羽二重の御衣となす。
この御衣を召して朝ごとにアワの神を祭り、父母に続く真心。
そちらの君(オシホミミ)も同じなり。と申せば、
―――――――――――――――――――――――――――――
みかつちも よろこひけふの ぬのおらん
いわくはふたゑ あらさるか こたえてひらく たからとの
うちよりいつる はふたゑは きみのたまもの ふたはあり
―――――――――――――――――――――――――――――
ミカツチも 喜び 「経緯の 布 織らん」
曰く 「羽二重 あらざるか」 応えて開く 宝殿
内より出づる 羽二重は 君の賜物 二機あり
―――――――――――――――――――――――――――――
■経緯の布 (けふのぬの)
「経緯の臍布・経緯の帯」
と同じです。
妊娠した “ヒメ” の 「孕みの帯を織ろう」
ということです。
■君の賜物 (きみのたまもの)
「君より下された物」 という意ですが、次に続く文脈から
この “君” はアマテルを指すものと考えられます。
■機 (は)
ハタ(機)の略形です。ハ(▽衣)と同源で、ともに
「合わせ」 が原義です。
【概意】
ミカツチも喜び、「経緯の布を織ろう」
と、「羽二重はないか?」
それに応えて宝物殿を開けば、内より君の賜物が2機出る。
―――――――――――――――――――――――――――――
なすゆえしらす あめのはお きるもおそれて くちんとす
いまさいわいの をしゑうる ひめはこやねの たけしるや
しれりひとたけ ふたゐきそ
―――――――――――――――――――――――――――――
「生す故知らず 陽陰の機を 着るも畏れて 朽ちんとす
今 幸いの 教え得る ヒメはコヤネの 丈知るや」
「知れり 一丈 二尺五寸ぞ」
―――――――――――――――――――――――――――――
■生す故 (なすゆえ)
「陰陽羽二重を製作した 由来・由緒・由縁」 です。 ▶ゆえ(故・由縁)
■陽陰の機 (あめのは)
2つの意味が重なります。
1つは 「陽陰を織った機」 の意で、これは 「陰陽羽二重」
の言い換えです。
それに 「陽陰(=アマテル神)より賜る機」
の意をかけます。
■幸い (さいわい・さいわひ)
■知れり (しれり)
“り” は “なり” の簡略形です。ですから 「知るなり」
という意です。
■一丈二尺五寸 (ひとたけふたゐき)
この時代の1尺は約22.5cmで、これを長さの基準単位としています。
1丈(タケ)=10尺(タ)=225cm、1寸(キ)=0.1尺=2.25cm です。(17アヤにて詳解)
ですから “1丈2尺5寸” は 「約2m81cm」 となり、巨人です。
【概意】
「羽二重を成す由来を知らずに、アマテル神より賜る陽陰の機を
着ることも畏れて 朽ちさせてしまうところであったが、
今
幸いの教えを得る。「ヒメはコヤネの身の丈を知るや?」
「知るなり。1丈2尺5寸ぞ。」
―――――――――――――――――――――――――――――
かねきくうえの をんたけと うまれあひたる みめくみと
もろのたまえは いめかみに いとありかたと ゑみすとき
ちちよろこひて はふたゑお みたけのおひと なしたまふ
―――――――――――――――――――――――――――――
「兼ね聞く上の 御丈と 生れ合ひたる 御恵み」 と
諸 宣給えば 「妹が身に いとありがた」 と 笑みす時
父 喜びて 羽二重を 身丈の帯と 成し賜ふ
―――――――――――――――――――――――――――――
■兼ね聞く (かねきく)
カネは カネテ(兼ねて)の略で、「重ね重ね・何度か」
などが原義です。
そこから カネテ(予て)
の意味が派生します。
■上 (うえ・うゑ)
「上皇・太上皇」 を意味し、アマテルを指します。
■妹 (いめ・ゐめ)
イモ(妹)、ヒメ(姫)
などの変態ですが、女が自分のことを言う時、
“イメ” と言う場合が多いです。これは今に言う
「わたし・あたし」 などと同じです。
■ありがた (有り難)
「ありがたい・畏れ多い・もったいない」 などの意です。
何がありがたいのかというと、孕みの帯は父の身長と同じ長さに作るため、
コヤネとアマテルは同じ身長ですから、“ヒメ”
はアマテル神の身長の帯を
身に着けることになるからです。
■身丈の帯 (みたけのおび)
経緯の臍布・経緯の帯・孕みの帯・孕帯
の別名です。
父の身丈と同じ長さとするためこの名があります。
この場合はアマテルの身丈と同じ長さの帯ですから、
ミタケは 「御丈」 の意をかけているかもしれません。
【概意】
「かねがね聞く太上皇の御丈と同じに生れつく御恵み」
と諸が宣給えば、
「我が身にたいそうもったいないこと」 と
ヒメが笑みを浮かべる時、父は喜んで
その羽二重を身丈(御丈)の帯に仕立ててヒメに賜うのであった。
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はらおひなせは みのいきす ひたちとなりて ひめのとひ
うむときいかん こもりまた これはかつてか よくしれり
われかえるのち くたすへし
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孕帯なせば 身のイキス ヒタチとなりて ヒメの問ひ
「生む時
如何ん」 コモリまた 「これはカツテが 良く知れり
我 帰る後 下すべし」
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■カツテ
ヤスヒコがアマテルより賜った尊名で、自身が詠んだ歌の
“勝手にかけて” に由来します。
後にヤスヒコはその歌の通り、助産夫の草分け的存在となります。
安々と 桜の母の 充り子を 勝手にかけて いでや生ません 〈ホ14-6〉
■下す (くだす)
クダス(下す)は ここでは 「中央(都)から地方へ移動させる」
という意です。
コヤネ・コモリ・カツテは
この時点ではアマテルが都とするイサワの宮に
侍っていますので、「イサワからカシマによこす」
ということです。
「地方から中央に移動させる」 場合は ノボス(上す)
といいます。
【概意】
孕帯を着けて身のイキスがぴったりとなって、ヒメの問い。
「生む時はいかように?」 コモリはまた、
「それはカツテが良く知るなり。我が帰った後、こちらに下すべし。」
本日は以上です。それではまた!