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一から学ぶ ほつまつたえ講座 第137回 [2024.3.24]
第二五巻 ヒコ尊 ちを得るの文 (3)
著者:おあずけ2号 (駒形一登)
著者HP:ホツマツタエ解読ガイド https://gejirin.com
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ひこみことちおゑるのあや (その3)
ヒコ尊 ちを得るの文 https://gejirin.com/hotuma25.html
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―――――――――――――――――――――――――――――
ゑとのみや きたつにありて こころみに
うみさちひこか さちかえん やまさちひこも うなつきて
ゑはゆみやとり やまにかる とはうみにいり つりおなす
―――――――――――――――――――――――――――――
兄弟の宮 北都にありて 試みに
海サチヒコが 「鉤換えん」 山サチヒコも 頷きて
兄は弓矢取り 山に狩る 弟は海に入り 釣りをなす
―――――――――――――――――――――――――――――
■兄弟の宮 (ゑとのみや)
「スセリ宮とシノ宮の兄弟」
をいいます。 ▶ゑと
スセリ宮の愛称が “サチヒコ・海サチヒコ”、シノ宮の愛称が
”山サチヒコ” です。
■北都 (きたつ)
■鉤 (さち・ち @)
サツ(▽擦つ)の名詞形で、「往き来・やりとり・返り/返し」
などが原義です。
この場合は 釣針の抜け防止のための 「かえし」
をいい、
転じて 「獲物を捕る道具」 の総称となります。サジ(匙)も
サチ(▽鉤)の変態です。
海サチヒコのサチは 「釣針」、山サチヒコのサチは
「弓矢」 です。
【概意】
兄弟の宮は北の都にあって、試みに海サチヒコが
「狩猟具を交換しよう」 と言えば、
山サチヒコも頷いて、兄は弓矢を取って山に狩る。弟は海に入って釣りをなす。
―――――――――――――――――――――――――――――
ともにむなしく さちあらす ゑはゆみやかえ ちおもとむ
とはちおとられ よしなくて にいちもとめは ゑはうけす
もとちはたれは たちおちに ひとみにもれと
なおいかり さわなきもとの ちおはたる
―――――――――――――――――――――――――――――
共にむなしく 幸あらず 兄は弓矢返え 鉤を求む
弟は鉤を取られ 由無くて 新鉤求めば 兄は受けず
元鉤 徴れば 太刀を鉤に 一箕に盛れど
なお怒り 多なき元の 鉤を徴る
―――――――――――――――――――――――――――――
■むなし (空し・虚し)
ム(身)+ナシ(無し) が原義です。 ▶ム(身)
■幸 (さち・ち A)
やはり 「往き来・やりとり・返り/返し」 が原義ですが、
この “サチ” は 「返り・見返り・報酬・対価」
などを意味します。
つまりこの場合は、狩りや釣りによって得られる 「獲物」
です。
シチ(質)は
このサチの変態です。
■鉤 (ち)
サチ(▽鉤)の略形で、これは 「釣針」
をいいます。
■由 (よし @)
“よし” も
このアヤのキーワードで、複数の意味があります。
ヨシ(由)は ヨス(寄す)の名詞形で、「寄り/寄せ」
が原義です。
この場合は 「よりどころ・頼るもの・手立て・仕方」
などを意味します。
ですから 由無くて は
「しかたなくて・しようがないので」
という意となります。
■新鉤求む (にいちもとむ)
ニイチ(新鉤)は 「新たな釣針・別の釣針」 という意です。
このモトム(求む)は モトオル(回る・廻る)と同義で、「探す」の意です。 ▶もとむ
■徴る
(はたる)
ハダレ(斑)・ハダラ(斑)
の母動詞で、「合わす・寄す・込む・交じる」
などが原義です。
この場合は
「召し寄せる・呼び込む・招き入れる・請求する」
などの意です。
■太刀を鉤に (たちおちに)
「太刀(=剣)を潰して鉤に変造する」 ということです。
■一箕に盛る (ひとみにもる)
ミ(▽見・箕)は 「合わせ・収め」
が原義で、「入れ物・容器」 をいいます。 ▶画像
ですから 「一つ器に満たす・一杯に盛る」
というような意です。
■多なし (さわなし)
「数の多くない・数少ない・一つしかない」
などの意です。
【概意】
共に成果無く獲物は得られず、兄は弓矢を返して鉤を求める。
弟は鉤を取られ、しかたなく別の鉤を探すも、兄はそれを受けず
あくまでも元の鉤を請うため、太刀を鉤に造り変えて一箕に盛るが、
なお怒り、たった一つしかない元の鉤を請う。
―――――――――――――――――――――――――――――
はまにうなたれ うれふとき かりわなにおつ これおとく
しほつつのをち ゆえおとふ ままにことふる
をちいわく きみなうれひそ はからんと
―――――――――――――――――――――――――――――
浜にうなだれ 憂ふ時 雁 罠に陥つ これを解く
シホツツの翁 故を問ふ ままに答ふる
翁曰く 「君な憂ひそ 計らん」 と
―――――――――――――――――――――――――――――
■うなだる
(項垂る)
ウナ+タル(垂る) で、「こうべを垂れる」 という意です。
★うな (項・海・▽鰻)
ウネ(畝)
の変態で、「うねるさま・うねうねと波打つさま」
が原義です。
また 「うねり/波の 高まる所」 をいい、そこから
「上部・頭部」 の意ともなります。
■憂ふ (うれふ)
ウル+ヱフ(酔ふ)
の同義語短縮で、ウル は ウム(倦む)・アル(離る・粗る)
などの変態。
「離れる・曲る・逸れる・外れる」、またその結果
「落ちる・劣る・衰える」 などが原義です。
■雁 (かり)
ケリ(鳧)・カモ(鴨)・カヒ(櫂)
などの変態で、「往き来・掻き・漕ぎ」 を原義とし、
「足を前後に掻いて泳ぐ鳥」 の総称です。
■罠 (わな)
ワ(輪)+ナワ(縄) の短縮、あるいは アナ(穴)
の変態かと思案中です。
■シホツツ・シホツチ・シホツツヲ
シホ は シモ(下) の変態で、ツツ/ツチ
は 「統べ・まとめ・治め」 を意味します。
よって シホツツ は 底ツツヲ
の別称で、「九州の下を治める者」 を意味すると
考えられますが、その “下”
がどこをいうのかは不明です。
記紀には 鹽椎~、鹽土老翁、鹽筒老翁
などと記されます。
今日この人は シホカマ(鹽竈)
と同一視されていますが、おそらく別人です。
■君 (きみ)
ヒコホオデミ (=シノ宮・山サチ彦・斎名ウツキネ)
を指します。
【概意】
浜にうなだれて落胆していると、雁が罠に陥る。
<自分の境遇を写し見て> これを解く。
シホツツの翁が故を問うので、ありのままに答えれば、
翁の曰く 「君よ憂いめさるな。一計を案じましょう」 と。
突如としてシホツツが現れますが、なぜこの人が北の都に居るのかに
ついての説明はなく、どうもホツマらしくありません。
またシホツツは
後に神武天皇に東征を勧める人物でもあり、革命的な
事件の背後では
いつもこの人が糸を引いているという印象があります。
それでいながら
その出自・役職・知行地・ファミリーなどについては、
ほとんど触れられていない謎の裏ボスです。
―――――――――――――――――――――――――――――
めなしかたあみ かもにいれ うたふたつけて きみものせ
ほあけともつな ときはなつ つくしうましの はまにつく
かもあみすてて ゆきいたる そをはてかみの みつかきや
―――――――――――――――――――――――――――――
目無し交編み カモに入れ 歌札付けて 君も乗せ
帆上げ艫綱 解き放つ ツクシウマシの 浜に着く
カモ・網すてて 行き到る 曽於ハテ守の 瑞垣や
―――――――――――――――――――――――――――――
■目無し交編み (めなしかたあみ)
メナシ(目無し)は 「目が詰んでいる・間隔が狭い」
という意です。
カタ(交)は “大阪府交野市” のカタで、カタアミ(交編み)は
「交えて編んだ物=網」 です。
これは 「漁猟用の目の細かい網」 をいいます。
■カモ (鴨)
■歌札 (うたふだ)
「歌を書き付ける札」 のことです。
染札(そめふだ)、歌見(うたみ)、歌得(うたゑ)
とも呼ばれます。
■艫綱 (ともづな)
トモは トメ(留め)の変態で、「留め・結び・係留」
などを意味します。
■ツクシウマシの浜 (つくしうましのはま)
“ツクシウマシのウト”
の換言です。 ▶浜
■曽於 ■ハテ守
(はてかみ)
■瑞垣・御つ垣 (みづかき・みつかき)
この場合は 曽於国の都である “カゴシマ宮”
の瑞垣です。
鹿児島神宮
(かごしまじんぐう)
鹿児島県霧島市隼人町内2496。
現在の祭神:天津日高彦穗穗出見尊、豊玉比賣命
【概意】
目の詰んだ魚網をカモ船に入れ、それに歌札を付けて、君も乗せ、
帆を上げて艫綱を解き放てば、九州の果ての浜に着く。
カモ船と網を捨てて行き到る 曽於ハテ守の瑞垣であった。
―――――――――――――――――――――――――――――
うてなかかやく ひもくれて はゑはゆつりは しきもして
いねもせてまつ あまのとも あけてむれてる わかひめか
まりにわかみつ くまんとす つるへはぬれは かけうつる
おとろきいりて たらにつく そらつかみかは まれひとと
―――――――――――――――――――――――――――――
ウテナ輝く 日も暮れて ハヱ葉・譲葉 繁茂して
寝ねもせで待つ 海女の朋 明けて群れ出る 若姫が
椀に若水 汲まんとす つるべ撥ぬれば 影映る
驚き入りて 親に告ぐ 「空つ尊かは 稀人」 と
―――――――――――――――――――――――――――――
■ウテナ (台)
■ハヱ葉 (はゑば:▽栄え葉・▽歯朶)
シダ(歯朶)の古名で、ウラジロ(裏白)・ホナガ(穂長)
とも呼ばれます。 ▶画像
■繁茂 (しきも)
シキ(頻・▽繁)+モ(茂)
の連結で、「さかんに茂るさま」 をいいます。
モ(茂)は モル(盛る)の名詞形です。
■寝ねもせで待つ (いねもせでまつ)
イネ(寝)は イヌ(寝ぬ)の名詞形で、「寝ることもなく待つ」
という意です。
何を待つのか? この場合は 若日=初日の出 です。 ▶日待ち
■海女の朋 (あまのとも)
「海女ども・海女の連中」 という意です。 ▶アマ(海女)
アマ(海女)は アマ(海)+メ(女)
の略、アマ(海)は ウミ(海)の変態と考えます。
■若姫 (わかひめ)
ここでは 「ハテ守の年若な娘たち」 をいいます。
■椀 (まり)
モリ(盛り)、モイ(盌)
の変態で、「入れ物・容器」 を意味します。
■若水
(わかみづ)
「年が明けた朝に初めて汲む水」
で、一年の邪気を除くといいます。
■つるべ跳ぬる (つるべはぬる)
ツルベ(釣瓶)は
「井戸の水を汲み上げるために縄をつないである桶」
です。 ▶画像
ハヌル(撥ぬる)は
ここでは 「上げる」 の意で、「手で引き上げる」
ということです。
■驚き入る
(おどろきいる)
「驚きが入る」 の意で、“驚く” を強調した言い方です。
■空つ尊 (そらつかみ)
ソラ(空)+ツ(=の)+カミ(上・尊) で、「空の上/雲の上の尊者・世間離れした高位者」
を意味します。
■かは
“かや・かも・かな”
などと同じで、疑問と反語の意を表します。
■稀人 (まれびと)
「まれな人・めったに見ない人」 の意で、
「貴人・尊き人」 をいいます。
【概意】
高殿を輝かせる日も暮れて、ハヱ葉や譲葉が繁茂して、
寝ることもなく初日の出を待つ海女の連中。
年が明けて群れ出る若姫が、椀に若水を汲もうとして
つるべを引き上げると、水面に人影が映り、
びっくりして親に告げる。「雲の上の尊者かや!?
稀人あり」 と。
―――――――――――――――――――――――――――――
ちちはみはもお のそみみて やゑのたたみお しきもうけ
ひきいれまして ゆえおとふ きみあるかたち のたまえは
はてかみしはし おもふとき うともりきたり
―――――――――――――――――――――――――――――
父は御衣裳を 望み見て 八重の畳を 敷き設け
引き入れ申して 故を問ふ 君 ある形 宣給えば
ハテ守しばし 思ふ時 ウト守来たり
―――――――――――――――――――――――――――――
■父 (ちち)
「ハテ守」
です。
■御衣裳 (みはも)
ハモ(衣裳)の尊敬語で、「ウツキネが着ている衣裳」
をいいます。
アマテルが定めた “機の織り法”
により、衣裳を見れば身分が判明します。
それによりハテ守は、その身分に相応する “八重の畳”
を敷いて ウツキネを
迎える準備をするわけです。
■八重の畳 (やゑのたたみ)
「8枚重ねの敷物」 をいいます。
皇君・国君は 九重(ここのゑ) の敷物を敷きますが、
その御子は 八重(やゑ) という慣わしがあるのでしょう。
★畳 (たたみ) ★畳む (たたむ)
タツ+タム(溜む) の短縮で、タツは トヅ(綴づ)の変態。
「綴じ合わす・束ねる・重ねる」 などが原義です。
タタミ(畳)はその名詞形で、「重ねる物」 をいいます。
■ウト守 (うともり:疎守)
ウト(疎) は 「際・果て・境界」
などを意味する普通名詞です。 ▶ウト(疎)
ですから 「海岸や国境を警備する者」
をいうものと思います。
ソシモリ(疎守)、サキモリ(防人)、ヒナモリ(夷守)
などとも呼ばれます。
【概意】
父は君の御衣裳を遠望すると、八重の畳を敷き設けて、
殿中に引き入れ申して故を問う。君がその経緯をお話しになり、
ハテ守がしばし思案している時、海岸の守人がやって来て、
―――――――――――――――――――――――――――――
かたあみの たかかもかある
としのあさ うたえそむるお とりみれは わかのうたあり
しほつつか めなしかたあみ はるへらや
みちひのたまは はてのかんかせ
―――――――――――――――――――――――――――――
「交編みの 誰がカモがある
年の朝 歌得染むるを 取り見れば ワカの歌あり」
『シホツツが 目無し交編み 張るべらや
満干の珠は ハテの神かせ』
―――――――――――――――――――――――――――――
■年の朝
(としのあさ・としのあした)
「年の改まり・年の明け」 という意で、「元日」 または
「元日の朝」 をいいます。 ▶年
★朝
(あさ) ★朝・明日
(あした)
アサ(朝)は アス(▽明す)の名詞形で、「明け・改め・更新」
が原義です。
アシタは アス(▽明す)+タ(手・▽方) で、「改まる処/時・更新する処/時」
の意です。
ゆえに “あさ” も “あした” も、「明け方」 の意と
「明日・翌日」 の意の両方があります。
■歌得染むるを (うたゑそむるお)
「歌札に何か書いてあるのを」 という意です。
★歌得 (うたゑ)
「歌を書き付ける札」 で、歌見(うたみ)、歌札(うたふだ)、染札(そめふだ)
の換言です。
■張るべらや (はるべらや)
今風には 「張るべえよ」 です。 ▶べら
■満干の珠 (みちひのたま)
「潮の満ち引きを起こす珠」 をいいます。 ▶潮
記紀では 潮盈珠(しほみつたま)・潮乾珠(しほふるたま)
と記されます。
若狭彦神社 (わかさひこじんじゃ)
若狭彦神社(上社):福井県小浜市龍前28-7。若狭姫神社(下社):福井県小浜市遠敷65-41。
現在の祭神:[上社] 若狭彦大神 (彦火火出見尊) [下社]
遠敷大名神 (豊玉姫命)
・社紋は 「宝珠に波」(別名:水玉)で、▶画像
これは山幸彦が龍宮で手に入れた潮を自在に操る
潮盈珠・潮乾珠 に因むという。
■ハテの神かせ (はてのかんかせ)
ハテ(果て)は この場合は 「日本の南の果て・九州」、
またそこを根拠地とする 「九州の海洋民族・ワタツミ(海統み)族」
を意味すると考えます。
カンカセ(▽神和・▽神交・▽神形)は
この場合は 「本質の現れ・神髄」 の意と考えます。
▶月の潮汐力
(潮の満ち干と潮流) より抜粋
干満差は地形によって大きな影響を受け、日本最大の干満差を持つ有明海では約4.5mにもなる。
特に春分・秋分ころ、干満差はさらに大きくなり、有明海では6mを超えるほどになる。
【概意】
「漁網を積んだ誰かのカモ船がある。
年明けの朝、歌札に何か書いてあるのを取り見れば
ワカの歌あり。」
『シホツツの 目無し交編み 張るべしぞ 満干の珠は ハテの神髄』
―――――――――――――――――――――――――――――
ときにはて もろあまめして これおとふ
ひきめはひかん あらこあみ くちめかつりも よしなしや
あかめひとりは めなしあみ
―――――――――――――――――――――――――――――
時にハテ 諸海女 召して これを問ふ
ヒキ女は 「引かん 粗籠網」 クチ女が 「釣り」
も 由なしや
アカ女一人は 「目無し網」
―――――――――――――――――――――――――――――
■ヒキ女 (ひきめ) ■クチ女 (くちめ) ■アカ女 (あかめ)
諸海女に当てられた仮の名です。
ヒキ女は 「粗籠網を引くことを提言する海女」
という意です。
クチ女は 「朽ちた海女・劣った海女」 を意味し、
これは後に出てくる クチ(劣る魚) に対応します。
アカ女は 「明るい海女・聡明な海女」 を意味し、
これは後に出てくる タイ(優れた魚・赤い魚)
に対応します。
■粗籠網 (あらこあみ)
「目の粗い網」 をいいます。
アラコ(▽粗籠)は アラク(粗く)の名詞形で、「間が開くさま」
が原義です。 ▶粗籠
■由 (よしA)
ヨシ(由)は ヨス(寄す)の名詞形で、「寄り・寄せ」
と同じですが、
ここでは ある物事を引き寄せる 「経緯・関係・理由」
などを表します。
この場合の 由無し は、この歌の内容に
「関わりがない」 という意になります。
■目無し網 (めなしあみ)
“目無し交編み”
と同じです。「目の詰んだ網」 をいいます。
【概意】
時にハテ守は諸海女を召して この歌について問えば、
ヒキ女は 「粗籠網を引こう」 と。クチ女の 「釣り」
も関わり無しや。
アカ女ただ一人は 「目無し網」 と。
―――――――――――――――――――――――――――――
ここにはてかみ もろあまお あかめにそえて めなしあみ
よもひれとれは おおたいか くちおかみさき まえによる
―――――――――――――――――――――――――――――
ここにハテ守 諸海女を アカ女に添えて 目無し網
四方ひれどれば 大鯛が クチを噛み裂き 前に寄る
―――――――――――――――――――――――――――――
■ひれどる (▽翻れ躍る)
ヒル+ドル の連結で、ヒルは ヒレ(領巾・鰭)の、ドルは
オドル(躍る・踊る)の母動詞。
両語とも
「往き来させる・揺らす・ひらひらと振る・回す」
などが原義です。
ゆえにヒレドルは、ヒルガエス(▽翻る返す・翻す)
と同義です。
■クチ・グチ
「朽ち」 が原義で、「朽ちた魚・劣る魚・忌む魚」
等を意味すると考えます。
これが何の魚を指すかについては、辞書は “グチ”
として、「イシモチの俗称」 とし、
日本書記は クチを “クチメ(口女)” に変え、『口女は即ち
鯔魚(なよし)
なり』と記します。
【概意】
ここにハテ守は諸海女をアカ女に付けて、
目無し網を四方にひるがえせば、大鯛がクチを噛み裂いて前に寄る。
―――――――――――――――――――――――――――――
あかめはくちに もとちゑて たいおいけすに まつへしと
つくれははては さきにしる ゆめにたいきて
われうおの よしなきために くちささく われはみけにと
―――――――――――――――――――――――――――――
アカ女はクチに 元鉤得て 鯛を生簀に 「待つべし」
と
告ぐれば ハテは 先に知る 夢に鯛来て
「我 魚の 由無きために クチ捧ぐ 我は御食に」 と
―――――――――――――――――――――――――――――
■生簀 (いけす)
イケ(埋け)+ス(州) で、イケは
「(水の)埋め・溜め」 が原義です。
ス(州) は 「分割・区分・区画」 などが原義です。
ですから 「水で埋めた区画」 をいい、「池」
と同じです。
■由 (よしB)
ヨシ(由)は ヨス(寄す)の名詞形で、「寄り・寄せ」
と同じですが、
この由無しは、「(心を)寄せる所が無い・好ましい所が無い・しょうもない」
などの意です。
ですからこれは 「良くない」 と同義となります。
【概意】
アカ女はクチに元鉤を得て、「待つべし」 と
鯛を生簣に放して報告すれば、
ハテ守はすでに知っていた。夢の中に鯛が出て来て、
「我は魚の良くないためにクチを捧ぐ。我は御食に」 と。
―――――――――――――――――――――――――――――
みことのり たいはうおきみ みけのもの
しるしはうろこ みつにやま うつしてかえす
みつやまの たいはこれなり くちはいむ
あかめおほめて よとひめと
―――――――――――――――――――――――――――――
御言宣 「鯛は魚君 厳のもの
印は鱗 三つに山 移して替す
三つ山の 鯛はこれなり クチは忌む」
アカ女を褒めて "淀姫" と
―――――――――――――――――――――――――――――
■御言宣 (みことのり)
ヒコホオデミ(斎名ウツキネ・山サチ彦)の御言宣です。
■鯛は魚君 (たいはうおきみ)
「鯛は魚の頂点・魚の王様」 という意味です。 ▶魚 ▶君
タイ(鯛)も
「高きもの・尊いもの」 の意です。
■厳のもの (みけのもの)
ミケ(御食)に語呂を合せての表現だと思いますが、
このミケは ミカ(厳)・イカ(厳) などの変態で、 ▶みかし(厳し) ▶いかし(厳し)
「高いさま・優れるさま・尊いさま」
を意味すると考えます。
石川県加賀市の菅生石部神社では、祭神の日子穂々出見命の故事により、
古来より鯛を神饌としないそうです。
菅生石部神社
(すごういそべじんじゃ)
石川県加賀市大聖寺敷地ル乙81。
現在の祭神:日子穂々出見命、豊玉毘賣命、波限建鵜葺草葺不合命
・御祭神日子穂々出見命の故事により古來鯛を神饌とせず。
■印・標・徴 (しるし)
ここでは 「マーク・シンボル・標章・紋所」
などをいいます。
■鱗三つに山移して替す (うろこみつにやまうつしてかえす)
「3つのウロコを 山(▲)に移し替える」 という意です。 ▶鱗
こうして生れた紋所が ミツウロコ(三鱗)
なのでしょう。 ▶画像
紋所を授けられた魚は鯛が唯一ではないでしょうか。後世 北条氏がこの紋を用います。
■忌む (いむ)
イヌ(往ぬ・去ぬ)の変態で、「離す・避ける・否む」
などの意です。
■淀姫 (よどひめ)
ヨド(淀)は ヨツ(▽寄つ)の名詞形で、「集まり・溜り・埋め」
などが原義。
「水の溜り・水埋み・海」 を意味します。したがって
「海の姫」 という意です。
與止日女神社
(よどひめじんじゃ)
佐賀県佐賀市大和町川上1。
現在の祭神:與止日女命 (淀姫命・豫等比神とも)
<筆者考>
元社は鹿児島のはずだが、海の神として各地に勧請されたと考えられる。
【概意】
時に御言宣。
「鯛は魚の君であり、尊きものである。
その印は 3つの鱗を山に置き替えた “三つ山”
の紋。鯛はこれなり。
クチは避ける。アカ女を褒めて “淀姫” と名を授く。」
―――――――――――――――――――――――――――――
きみはちおゑて よろこひに しかのかみして かえさしむ
わににのりゆき しのみやて やまくいまねき
もろともに うかわにゆけは
―――――――――――――――――――――――――――――
君は鉤を得て 喜びに シガの守して 返さしむ
ワニに乗り行き シノ宮で ヤマクイ招き
両共に ウカワに行けば
―――――――――――――――――――――――――――――
■ワニ (鰐)
ワニ船 の略です。
■シノ宮 (しのみや)
ニニキネが国家首都をミヅホ宮に移すに伴って、ウツキネは二荒山麓のウツ宮から
アワ海南岸に新築したオオツシノ宮に移ります。
その後、スセリと共に北の都を治めることを命じられ、兄と鉤を交換することになり、
兄の鉤を取られて途方に暮れるウツキネが、シホツツに導かれて九州にまで行き、
クチに取られた鉤を取り返すという、ここまでのストーリー展開です。
■ヤマクイ・ヤマクヒ (山構い・山構ひ)
ヤマクイ(山構い)は 「山を構ふ者・山を造る者」
という意味です。
これはニニキネの命により、山背の野を掘り、その土をオキツボの峰に積み増して
太陽山を模した “日似の山”
(現・比叡山) を造ったことに由来します。
オキツボの 峰より眺め 御言宣 「汝ヤマクヒ 山後 野を堀り土を ここに上げ
太陽の山を 写すべし」 一枝に足り “ヒヱの山” 〈ホ28-4〉
■ウカワ
「ウカワの宮」 です。
ニニキネが国家首都をミヅホ宮に移すに伴って、
スセリはニハリ宮からアワ海西岸に新築したウカワ宮に移っています。
その後 ウツキネと共に北の都に行くわけですが、
スセリはこの時点ではウカワの宮に戻ってきているようです。
【概意】
鉤を得た君は喜び、シガの守をして返させる。
ワニ船に乗り行き、シノ宮でヤマクイを招き、
諸共にウカワに行けば、
―――――――――――――――――――――――――――――
みやあいて とえはやまくい
これむかし きみかちおかり とられしお いまとりかえし
とみやから しかのかみして かえさしむ
しかはちおもち たてまつる
―――――――――――――――――――――――――――――
宮 会いて 問えばヤマクイ
「これ昔 君が鉤を借り 取られしを
今 取り返し 弟宮から シガの守して 返さしむ」
シガは鉤を持ち 奉る
―――――――――――――――――――――――――――――
■宮 (みや)
ウカワ宮の主である スセリ (海サチ彦・ホノススミ・斎名サクラギ)
を指します。
■弟宮 (とみや・おとみや)
スセリの弟で、シノ宮の主である ヒコホオデミ (山サチ彦・斎名ウツキネ)
を指します。
【概意】
宮は両名に会い、「何事か」 と問えば、
ヤマクイが 「これは、昔ウツキネ君が借りて取られた鉤を
いま取り返したゆえ、弟宮からシガの守をして返却せしめる。」
シガは鉤を持って奉る。
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みやうかかひて わかちそと いいつつたつお
そてひかえ まちちといえは みやいかり
みちなくわれお なせのろふ ゑにはおとから のほるはす
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宮 うかがひて 「我が鉤ぞ」 と 言いつつ立つを
袖 控え 「待ちち」 と言えば 宮 怒り
「道なく我を なぜのろふ 兄には弟から 上るはず」
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■控ふ
(ひかふ)
ヒク(引く)+カフ(交ふ・支ふ) の短縮で、
「引き寄せる・引き留める・引き留まる」
などが原義です。
■待ちち (まちち)
これは 「待っち」 の古い形で、今に言う
「待って・待った」 と同じと考えます。
■なぜ (何故)
ナンデ(何で)の変形です。
■のろふ (詛ふ・呪ふ)
ノル(乗る)+オフ(覆ふ)
の短縮で、「上に乗って覆う・覆いかぶさる」
などが原義と考えます。
この場合は
「相手を下に敷く・相手の行動を縛る・蔑む・見下す」
などの意となります。
これは 弟宮の使者が兄宮に対して 「“待った” と袖を引いて留めた非礼」 をいうと思われます。
■上るはず (のぼるはず)
“上る” は ここでは 「上げる・立てる・敬う・尊ぶ」
などの意です。
“はず” は ハス(▽合す)
の名詞形で、そうすることがその状況に
「合うさま・ふさわしいさま・当然であるさま」
を意味し、「べき・べら」
の換言です。
【概意】
宮はその鉤をうかがって、「我が鉤である」
と言いつつ立つを
袖を引き寄せて 「待った」 と言えば、宮は怒り、
「なぜに道理なく我を蔑む。兄に対しては弟から敬うが当然。」
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こたえていなや くちいとお かえてかすはす しれはさち
しらねはおとえ こまはひに わひことあれと いえはなお
いかりてふねお こきいたす
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応えて
「否や 朽ち糸を 換えて貸すはず 知ればサチ
知らねば弟へ 駒這ひに 詫び言あれ」 と 言えばなお
怒りて船を 漕ぎ出す
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■否や (いなや)
イナ(否・辞)は
イヤ(否・嫌・厭)
の変態で、“いなや=いやや” です。
今風には “いいや・いいえ” となります。
■サチ (さち・ち B)
やはり 「往き来・やりとり・返り」 を原意としますが、
このサチは 「やりとり・授受・ギブ&テイク」
などを意味します。
つまり 「差し引きゼロ・貸し借り無し・おあいこ・相殺」
を表します。
■駒這ひ (こまばひ)
「駒(=馬)のように両手両足を地に付けて這うこと」
をいいます。 ▶駒
“四つん這い” と同じです。
【概意】
それに応えて、
「いいえ。<兄なら> 朽ちた糸を換えて貸すが当然。
それを認めるなら、貸し借り無しのおあいこ。
認めぬなら、駒這いで弟に詫びの言葉を申されよ」
と言えば、なお怒って船を <アワ海に> 漕ぎ出す。
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たまおなくれは うみかわく しかおひゆきて ふねにのる
みやとひにくる やまくいも はせゆきみやの ておひけは
しかまたなくる たまのみつ あふれてすてに しつむとき
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珠を投ぐれば 海か乾く シガ追ひ行きて 船に乗る
宮 飛び逃ぐる ヤマクイも 馳せ行き宮の 手を引けば
シガまた投ぐる 珠の水 溢れてすでに 沈む時
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■珠 (たま)
潮の干満を引き起こす 「満干の珠」
です。
■海 (うみ)
ウカワの宮での出来事ですので、アワ海(=琵琶湖)
です。
ウカワ宮の跡が白鬚神社ですが、その鳥居の1つは湖中に立ちます。 ▶画像
これは “満干の珠”
によって湖水の干満が起きたことを記念しているのかな。
【概意】
“満干の珠”
を投げて海が干上がると、シガは追って行って宮の船に乗る。
すると宮は船を飛び降りて逃げたため、ヤマクイも走って行き、
追いついて宮の手を引いたところで、シガはふたたび珠を投げる。
水が満ち溢れて 今にも沈まんとする時、
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なんちたすけよ われなかく おとのこまして かてうけん
ここにゆるして むかひふね みやにかえりて むつみてそさる
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「汝 助けよ 我 永く 弟の駒して 糧 受けん」
ここに許して 迎ひ船 宮に帰りて 睦みてぞ更る
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■駒する (こまする)
「駒として働く・こま使いとなる」 ということです。
■更る (さる)
「帰る」 の換言です。
【概意】
「汝 助けよ。我は永く弟の駒となって糧を受けよう。」
ここに許して迎いの船を出し、宮に戻って和睦して帰るのであった。
本日は以上です。それではまた!