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一から学ぶ ほつまつたえ講座 第197回 [2024.11.7]

第三七巻 鶏合せ 橘の文 (2)

著者:おあずけ2号 (駒形一登)
著者HP:ホツマツタエ解読ガイド https://gejirin.com

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 垂仁天皇-3-2

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 とりあわせたちばなのあや (その2)
 鶏合せ 橘の文 https://gejirin.com/hotuma37.html
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 みそみとし みわのたたねこ やましろか たちにいたれは
 さらすとふ むすめひとりお みやにこふ
 たれにやりても ふはうらむ こめさしたまへ 
 こたえいふ あすかもかみの みまえにて こめさためんと

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 三十三年 ミワのタタネコ 山背が 館に到れば
 サラス問ふ 「娘一人を 三家に乞ふ
 誰に遣りても 二は恨む 極め指し給へ」
 応え言ふ 「明日 カモ神の 御前にて 極め定めん」 と

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■ミワのタタネコ
”オオミワのタタネコ” の略で、オオタタネコ とも略します。
「オオミワ神を立ててねぎらう者・オオミワ神の斎主」 を意味します。 ▶オオミワ神

 ★タタネコ
 タツ(立つ・▽奉つ)+ネク(祈ぐ・労ぐ・▽和ぐ)  の連結 “タタネク” 名詞形です。
 「立ててねぎらう者・敬い慰める者」 という意で、“斎主” の換言です。 ▶斎主


■山背が館 (やましろがたち)
「山背国の政庁」 をいいます。 ▶山背 ▶館

 
■サラス
ここは非常に紛らわしいところで、誰もが “山背が館” の主、つまり
「山背の国造」 の名が “サラス” だと思ってしまうのですが ... ... 違うのです。
サラスは、山背国の中にある 「大国県の主」 で、この時はタタネコ同様、
たまたま山背国の政庁を訪れているだけなのです。

“大国県” は 後の 宇治郡大国郷 で、おおよそ現在の 宇治市 と考えていいかと思います。
サラス は シラス(領す) の変態と考えます。

 少し後に、山背国造の名は “フチ” であることが判明するのですが、
 日本書紀も この部分の紛らわしさに翻弄されているらしく、
   “サラス” と “フチ” を1人の人物にして、山背大国不遅 と記しています。


■極む (こむ)
キム(決む・極む) の変態で、「きわめる・決める」 という意です。


■カモ神 (かもがみ:上下神)
この場合は 「夫婦の神」 を意味し、河合の宮 に夫婦で纏られる 御祖神 を指します。
(このアヤは “カモ” が鍵語になっています。)

 ★カモ (▽上下)
 カミシモ(上下) の短縮です。
 ここでは 天地創造の過程 で、昇した 「陽」 と、降した 「陰」 を意味します。
 ですから カモ(上下)=陽陰=天地=男女=夫婦 です。

 後にタマヨリ 神となる 河合に合わせ “御祖神” 陰陽の神とて 著きかな 〈ホ27-8〉

 

【概意】
垂仁33年、ミワのタタネコが山背の政庁に到ると、
<そこにいた大国県主の> サラスが問う。
「娘1人を3家から乞われている。誰に遣りても残りの2家は恨む。
<誰に遣るべきか> 決めて指名してくだされ」。
タタネコは応えて言ふ、「明日、カモ神 (夫婦の神) の御前にて決定せん」 と、



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 ともにゆく みをやのかみに にきてなし たてまつるわか
 あめつちの みよのさかえお いわはるる
 めをのみをやの かみそたふとき

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 共に行く 御祖の神に 和幣なし 奉るワカ
  『天地の 和の栄えを 祝わるる
 夫婦の御祖の 神ぞ尊き』

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御祖の神 (みをやのかみ・みをやかみ)
1つの社に夫婦で纏られていますので、古くは 「縁結びの神」 として尊ばれたと推測されます。


■和幣なす (にぎてなす)
ナス(為す・▽和す) は 「合わす」 が原義で、ここでは 「添える・供える」 の意です。 ▶和幣


■ワカ (和歌)
ワカの歌 の略です。


■天地の和 (あめつちのみよ)
アメツチ(天地) は カモ(▽上下) の換言で、「陽陰・男女・夫婦」 を表し、
ミヨ(▽和) は ミユ(見ゆ) の名詞形で、「合い/合わせ」 が原義です。
したがってこれも 「陽陰和合・男女の和合・夫婦の和合」 を意味します。
ミヨノサカエ(和の栄え) は ミヨノサクラ(▽和の桜) の換言です。

 左は谷の サクラウチ 和の桜の 鳴らし歌 〈ホ14-1〉


■祝わるる (いわはるる)
イワフ(祝ふ・斎ふ)+ルル(尊敬の ‘ル’ の連体形) です。


■夫婦 (めを)
「陰陽・女男」 が原義で、メヲト(夫婦)ヲメ(男女) ともいいます。

 

【概意】
 共に行く御祖の神に、和幣を供えて奉る和歌。
『男女の和の 栄えを祝福される 夫婦の御祖の 神ぞ尊き』



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 ときにかみ つけのみうたに
 よのなかに ものおもふひとの ありといふは
 われおたのまぬ ひとにそありける 
 かみうたお ききてたたねこ いわくこれ まよふゆえなり
 いまよりそ ももかもふてて きたりませ われはからんと

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 時に神 告げの御歌に
  『世の中に 物思ふ人の ありといふは
 我を頼まぬ 人にぞありける』
 神歌を 聞きてタタネコ 曰く 「これ 迷ふ謂なり
 今よりぞ 百日詣でて 来たりませ 我 計らん」 と

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■謂 (ゆえ)
ユフ(言う) の名詞形で、イイ(言い・謂)・イワレ(言われ・謂れ) と同じです。


■百日詣づ (ももかもふづ)
後世に言う 百日詣で(ひゃくにちもうで) のことでしょう。

 

【概意】
 時に神は告げの御歌に、
『世の中に 物事を考える人が いるとすれば それは我を頼らぬ人である』
 この神歌を聞きてタタネコ曰く、
 「これは解釈に迷う物言いなり。今より “百日詣で” においでなされ。
 その間に我が取り計らいましょう」 と、



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 ゆくきふね たたねこかうた
 あわうみの あつみのかみと すみのゑも
 ともにきふねの まもりかみかな

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 行くキフネ タタネコが歌
  『アワ海の アヅミの神と スミノヱも
 共にキフネの 守り神かな』

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キフネ (生船・貴船・貴布禰)
貴船神社 を指します。

 貴船神社・貴布禰神社 (きふねじんじゃ)
 山城国愛宕郡。京都市左京区鞍馬貴船町180。
 現在の祭神:高龗神 (たかおかみのかみ)
 <筆者考> ・もとは ミヅハメ を纏る社、後に 高龗神 を合わせ祀る。
      ・高龗神の “高” は 「猛」 と同じ、“龗” は 「三揃の竜」 を表す文字。
       オカミ(御上) は 「后」 を意味。よって 高龗神=トヨタマ姫の神霊。


アワ海 (あわうみ:▽和海)

■アヅミの神 (あづみのかみ)
船を発明した シマツヒコオキツヒコシガ の3船霊を指すと思われます。 ▶船霊
初代のシマツヒコは、アヅミ川(安曇川) を流れる朽木に乗って羽を乾かしている
鵜の鳥を見てイカダを開発しますが、これが船の起源です。 ▶安曇

 田水を守り 船を生む キフネの神は 船霊か
 船はいにしえ 
シマツヒコ 朽木に乗れる 鵜の鳥の アヅミ川行く
 イカダ乗り 棹さし覚え 船となす
 子の
オキツヒコ 鴨を見て 櫂を造れば 孫のシガ 帆ワニ成す
 七代
カナサキは オカメを造る 
〈ホ27ー3〉


スミノヱ
カナサキ の別名です。
船を発明したシマツヒコの7代の孫で、“オカメ” を開発しています。 ▶オカメ


■キフネの守り神 (きふねのまもりがみ)
「水と船の守り神」 という意です。 ▶キフネ(生船)

 

【概意】
 行くキフネ。タタネコの歌。
『アワ海のアヅミの神と スミノヱも 共にキフネ(=水と船)の 守り神かな』



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 かもにゆき わけいかつちの かみもまた にきてとわかと
 ひとくさお わけいかつちの まもるゆえ
 みよはおさまる かものかんかせ

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 カモに行き ワケイカツチの 神もまた 和幣とワカと
  『人草を 別雷の 守るゆえ
 世は治まる カモのカンカセ』

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カモ (賀茂)
この カモ は地名で、「上賀茂の県」 をいいます。 ▶上賀茂
具体的には ワケイカツチの神を纏る ワケツチ山 です。
なお、下賀茂の県は カアヒ(河合) と呼ばれます。


■ワケイカツチの神 (別雷の神/▽分活土の神)
「ニニキネの神霊」 に贈られた神名の一つです。 ▶ワケイカツチ


人草 (ひとくさ)

世・▽和 (みよ)

■カモのカンカセ (▽上下の神形)
この カモ は再び 「上下・陽陰」 を表し、この場合は 「火と水」 を意味します。
アマテルは、“雷を別けて火と水の神を生んだ” とニニキネを称え、ワケイカツチ の名を
授けたわけですが、陽属性の “火” を (上)、陰属性の “水” を (下) と言い表しています。
ですから この カモ(上下・火水) は、ワケイカツチ(別雷) の換言です。

 国の名もこれ ‘カ’ は上の あまねく照らす ‘モ’ は下の 青人草を 恵まんと
 
鳴神の雨 良き程に 分けて
・・・ 民 賑わせる 功は カモワケツチの 神心 〈ホ38-5〉

カンカセ は ここでは 「本質の現れ・本質の具象」 を意味します。
ゆえに “カモのカンカセ” は 「上下(陽陰・火水) の本質の現れ」 という意です。

 

【概意】
 賀茂に行き、ワケイカツチの神にもまた和幣と和歌とを捧ぐ。
『人草を 別雷(火と水)が 守るゆえ 世は治まる <火と水は> 陽陰の本質の現れ』


 3種類の カモ/カモの神 の違いを整理しておきます。

カモ カモの神
 1. 上下の意より、陽陰。夫婦  1. 御祖神 (ウガヤ夫婦の神霊)
 2.   〃    陽陰。火と水  2. 別雷神 (ニニキネの神霊)
 3. (川に)分けられる地。上/下の賀茂  3. 上/下の賀茂に纏られる神 (別雷神+御祖神)



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 たたねこは かえりもふさく/しるしささけて
 かものみや あるるおふして おもみれは
 かもといせとは みをやなり すてにやふれて いつほそし
 まもりほそきは おとろひか

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 タタネコは 帰り申さく/記し捧げて
 「カモの宮 粗るるを付して 思みれば
 カモとイセとは 御祖なり すでに破れて 稜威細し
 守り細きは 衰ひか」

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■帰り申さく (かえりもふさく) / 記し捧げて (しるしささげて)
この部分は写本によって、2つの異なる文言が記されています。
1つは 「(都に)帰りて申さく」、もう1つは 「記し(=書状)を奉って」 の意です。


■カモの宮 (かものみや:賀茂の宮)
この カモ は  上/下の賀茂に纏られる神 (別雷神+御祖神) をいいます。
ですから 「御祖神の宮」 と 「別雷神の宮」 の両方です。


粗るる (あるる)
「荒れ果てたさま・老朽化したさま」 をいいます。


■付して思みる (ふしておもみる)
フシテ(付して) は ツイテ(付いて) と同じです。
ですから 「〜について思う・〜について考える」 という意となります。 ▶思みる


■カモとイセ (賀茂と妹背)
カモ は “カモの神” の略で、この場合はやはり 上/下の賀茂に纏られる神 (別雷神+御祖神) です。
イセ(妹背) は “妹背の神” の略で、「アマテルの神霊」 をいいます。 ▶妹背の神


御祖・上祖 (みをや)
この場合は特に 幾代の御祖 / よよの御祖 をいうように思います。

・諸守たちも 確と聞け 君は幾代の 御祖なり これトコタチの 言宣と 〈ホ6-3〉
・我たとひ 新田成すとも これ知らず 君は真の 照らす尊 
よよの御祖ぞ 〈ホ24-5〉
・天地の 神も下れば 御祖尊  
よよの御祖の 嗣子無し 〈ホ27-5〉


稜威 (いつ・ゐつ)
ここでは 「神の勢い・威勢・威力・威光」 などの意です。


■守り細き (まもりほそき)
「神が人を守護する力の弱まり」 をいいます。

 タタネコは、“神を頼るでない” という御祖神の告げの歌に これを感じたのでしょう。
  『世の中に 物思ふ人の ありといふは 我を頼まぬ 人にぞありける』〈ホ37-2〉


■衰ひ (おとろひ)
この場合は、老朽化した神の宮をそのまま放置しているという、
人々の 御祖を思う心の衰え をいいます。

 

【概意】
タタネコは都に帰り、書状を捧げて君に申すには、
「カモの宮の荒れ果てたるについて思いをめぐらせば、
カモの2神とイセの神は いずれも御祖であるに、
<カモの宮の方は> すでに破れて神の威勢も細し。
神の守りが細いのは、御祖を思う心の衰えにあるかと。」



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 きみきこしめし たたねこか まこくらまろお いわひぬし
 なもおおかもと かもやしろ さらにつくらせ ねつきもち
 みをやわたまし あすそむか わけいかつちの みやうつし
 おおたたねこお さおしかの にきておさむる

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 君 聞こし召し タタネコが 孫クラマロを 斎主
 名もオオカモと カモ社 新に造らせ 十一月十五日
 御祖 渡座 明十六日 ワケイカツチの 宮移し
 オオタタネコを 差使の 和幣納むる

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■クラマロ ■オオカモ ■カモスミ (▽賀茂統み)
オオタタネコ の孫で、クラマロ は幼名です。天皇はクラマロに “オオカモ” と名を授け、
上/下の賀茂に纏られる神 (別雷神+御祖神)斎主 とします。これにより
オオタタネコの子孫は、オオミワの神の斎主 に加え、カモの神の斎主 ともなります。

 オオカモ は オオ(‘負う’ の名詞形)+カモ(賀茂) で、「賀茂を負う者」 という意です。
 ですからこの名は、同時に 「賀茂の県主」 に任命されたことを意味します。
 カモスミ(賀茂統み:旧事紀では 大鴨積命) とも換言され、この人の後裔が 賀茂氏 です。
 ▶賀茂氏 (賀茂県主氏賀茂朝臣氏)


                             ┌ツミハ─────────クシミカタマ
 ソサノヲ──オホナムチ──クシヒコ(2代)──コモリ(3代) │              ↓〈養子〉
      (初代オオモノヌシ)           ├───┴カンタチ─フキネ(4代)─クシミカタマ(5代)
                 スヱツミ─イクタマヨリ姫               │  
                                            │
  ┌─────────────────────────────────────────┘
  │
   └アタツクシネ(6代)──タケイイカツ───建甕尻命 ・・・ ・・・  ┐
              (食国臣初:以後世襲)  タケミカジリ       │
                                  │
    ┌──────────────────────────────┘
   │
   └ミケヌシ─オミケヌシ─オオタタネコ─ミケモチ┬オオトモヌシ〈三輪氏祖〉
        <失脚・下野>            │
                         └オオカモ(カモスミ)〈賀茂氏祖〉



■カモ社 (かもやしろ:賀茂社)
カモの宮 と同じです。この時に新造した カモの社 が、
現在の 賀茂別雷神社 と 賀茂御祖神社 の起源と考えられます。

 賀茂別雷神社 (かもわけいかづちじんじゃ)
 山城国愛宕郡。京都府京都市北区上賀茂本山339。 
 現在の祭神:賀茂別雷大神

 賀茂御祖神社 (かもみおやじんじゃ)
 山城国愛宕郡。京都府京都市左京区下鴨泉川町59。
 現在の祭神:玉依姫命、賀茂建角身命


差使 (さおしか)

和幣 (にぎて)

 

【概意】
君はお聞き入れになり、タタネコの孫クラマロを斎主に、
名も “オオカモ” として、カモの社を新たに造らせ、
垂仁33年11月15日に御祖神の渡座。翌16日にワケイカツチ神の宮移し。
オオタタネコを勅使として和幣を奉納する。

 

本日は以上です。それではまた!

 

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