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一から学ぶ ほつまつたえ講座 第190回 [2024.10.22]

第三五巻 ヒボコ来たる スマイの文 (2)

著者:おあずけ2号 (駒形一登)
著者HP:ホツマツタエ解読ガイド https://gejirin.com

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 垂仁天皇-1-2

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 ひぼこきたるすまいのあや (その2)
 ヒボコ来たる スマイの文 https://gejirin.com/hotuma35.html
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 よほなつき つうゑはをなゑ さほひこか きさきにとふは
 あにとをと いつれあつきそ 
 きさきつひ あにとこたふに あつらうる

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 四年九月 ツウヱはヲナヱ サホヒコが 后に問ふは
 「兄と夫 いづれ厚きぞ」
 后つひ 「兄」 と答ふに 誂うる

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■九月ツウヱはヲナヱ (なつきつうゑはをなゑ)
「ツウヱに始まる9月のヲナヱの日」 という意で、この場合は 「9月23日」 になります。 ▶干支


■サホヒコ
垂仁天皇の内宮 サホ姫 の兄で、記紀には 沙本毘古王 / 狭穂彦王 と記されます。
ホツマには説明がありませんが、古事記によれば開化天皇の子の ヒコヰマス の子で、
アフミ(近江国造)タニハチヌシ(丹波道主) たちの兄弟です。

   開化天皇
     ├─────────ヒコヰマス
   オケツ姫[典侍]       ├────┬水穂真若王(アフミ)──ヤサカフリイロネ
                 │    ├丹波道主王(タニハチヌシ)
 ホノススミ─??─アメミカゲ─息長水依比売 ├沙本毘古王(サホヒコ)
                      ├沙本毘売命(サホ姫)
                      ├神大根王
                      └小俣王


■后 (きさき)
垂仁天皇の内宮(=正妃)の サホ姫 を指します。


■いづれ厚きぞ (いづれあつきぞ)
「どちらに対する親愛が厚いか?」 という意です。


■つひ・つい (▽対・▽追)
ツキ(付き) / ツギ(継ぎ・次・注ぎ) の音便で、“ついうっかり” の ツイです。
「考えなしに反射的に行動してしまうさま」 をいいます。


■誂うる (あつらうる)
アツラフ(誂ふ)+ル(受身) で、ル(受身) は ウル/ヱル(得る) の短縮です。
今日の国文法に則れば、“誂ふ” は下二段活用なので、“アツラエラル” となります。
この場合は 「(兄に) 乗せられる・(兄の) 思い通りに利用される」 という意です。

 ★誂ふ (あつらふ)
 アツル(‘当つ’ の連体形)+アフ(合ふ) の短縮で、「当て合わす」 を原義とし、
 ナズラフ(準ふ)ヘツラフ(諂ふ) などの変態です。

 

【概意】
垂仁4年9月23日、サホヒコが后に問うは、
「兄と夫、どちらが大事ぞ?」
后がうっかり 「兄」 と答えれば、乗せられてしまう。



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 なんちいろもて つかゆれと いろおとろいて めくみさる
 あになかからん ねかはくは われとなんちと みよふまは
 やすきまくらや たもたんそ きみおしいせよ わかためと

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 「汝 色もて 仕ゆれど 色 衰いて 恵み去る
 あに永からん 願わくは 我と汝と 世 踏まば
 安き枕や 保たんぞ 君を弑せよ 我がため」 と

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■あに永からん (あにながからん)
「どうして永かろう」 という意です。 ▶あに


■世踏む (みよふむ)
ミヨ(▽世) は 「まとまり・結びつき・社会・国家」 などを意味します。
フム(踏む) は フル(振る) の変態で、「回す・転がす・運ぶ・捌く・営む」 などの意です。


■安き枕 (やすきまくら)
「安心して眠れる状況・安泰な状態」 を意味します。


弑す (しいす)
シフ(▽締ふ)+イス(▽結す) の短縮で、
両語とも 「締める・結ぶ・おしまいにする・終らす」 などが原義です。

 

【概意】
「汝はその容色をもって君に仕えているが、
その容色もやがては衰えて、君の恵みも去る。けして長くは続かぬ。
願わくは 我と汝で世を回せば、安き枕を保てようぞ。君を弑せよ、我がため」 と、



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 ひほかたなもて さつくとき あにかこころね いさめおも
 きかぬおしれは さほひめの なかこわななき ひもかたな
 せんかたなくも そてうちに かくしいさめの せみなつき

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 秘刀もて 授く時 兄が心根 諌めおも
 効かぬを知れば サホ姫の 中子わななき 秘刀
 せん方無くも 袖内に 隠し “諌めの せみな月”

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■秘刀 (ひぼがたな・ひもがたな)
ヒボ は ヒモ の変態で、ヒモ は ヒム(秘む) の名詞形です。
ゆえに ヒボ は 「秘め」 と同じで、ヒボガタナは 「秘める刀・隠し持つ刀」 をいいます。 ▶刀
しかし “紐刀” と当て字されたため、現在は意味が変わっています。 ▶ひぼ(紐)


■諌めおも (いさめおも)
今風に言えば 「諫めようも・諫めようにも」 となります。


中子 (なかご) ■わななく

せん方無し (せんかたなし)
セ(‘する’ の未然形)+ン(意志・推量)+カタ(方)+なし(無し) で、
「する方法がない・仕方がない」 の意です。


■諌めのせみな月 (いさめのせみなつき)
「みそぎの六月」 の意で、「大祓の月」 をいいます。 ▶諫め ▶みそぎ ▶大祓
ここでは 「サホヒコの悪だくみを正す六月」、また 「サホ姫の心のつかえを祓う六月」 の意を掛けます。
 
 ★せみな (▽清穢) ★せみな月 (せみなつき:▽清穢月)
 セム+ミナ(▽穢) の短縮で、セム は スム(澄む・清む) の変態。
 「汚穢のきよめ」 を意味します。“せみな月” は 大祓の月=六月 の別名です。

 

【概意】
秘刀を持ちて授ける時、
兄の心根を諌めようにも 効かぬことを知れば、
サホ姫の中子は震え、どうにもできずに袖内に秘刀を隠し、
そしてついに “諌めのせみな月” が訪れる。



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 はつひすへらき みゆきして くめたかみやに ひさまくら
 きさきおもえは このときと なんたなかるる きみのかほ
 きみゆめさめて のたまふは
 いまわかゆめに いろおろち くひにまとえて さほのあめ
 おもてぬらすは なにのさか

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 初日 皇 御幸して クメ高宮に 膝枕
 后 「思えば この時」 と 涙流るる 君の顔
 君 夢覚めて 宣給ふは 
 「今 我が夢に 色蛇 首にまとえて さほの雨」
 「面 濡らすは 何の清汚」

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■初日 (はつひ)
「翌年(垂仁5年)の6月1日」 です。


■クメ高宮 (くめたかみや)
クメ は この場合は 神武天皇がミチヲミに賜った “クメの所” を指すように思います。
奈良県橿原市久米町 に名が残ります。 ▶クメ
  
 ★高宮 (たかみや)・高屋(たかや) ★丈宮 (たけみや)
 「高貴な宮/屋」 の意で、「きわめて高貴な人や神の宮/屋」 を意味します。
 この場合は 「天皇が御幸先で滞在する仮宮」 をいいます。 ▶仮宮
 また、アマテルの滞在する宮、アマテルの神霊を纏る宮 をいうこともあり、
 その場合には特に タケミヤ(丈宮・竹宮・多気宮・長宮 ・・・ ) と言い表すことが多いです。


■色蛇 (いろおろち)
ニシキオロチ(錦蛇) の換言です。


■さほの雨 (さほのあめ)
サホ は サフ(▽騒ふ) の名詞形で、「さわがしいさま・騒々しいさま」 をいいます。
これは “ざあざあ降る雨” の ザア の変態です。ですから 「激しい雨」 という意です。
そしてこれに 「サホ姫の涙」 の意が重なります。


■面濡らす (おもてぬらす)
「顔を涙で濡らす」 ということです。


清汚 (さが)
「清と汚・是と非・善と悪・功と罪・喜びと悲しみ」 などを意味します。

 

【概意】
垂仁5年6月初日、皇は御幸してクメの高宮に膝枕。
后は 「思えば今この時」 と思う時、涙が流れて落ちる君の顔。
君が夢から覚めて宣給うは、 
「いま我が夢に、色蛇が首に巻きついて激しい雨が ・・・」
「そしてサホ姫が面を濡らすのは何の喜悲?」



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 きさきこたえて かくしゑす ふしまろひつつ あからさま
 きみのめくみも そむきゑす つくれはあにお ほろほせり
 つけさるときは かたむけん おそれかなしみ ちのなんた

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 后 応えて 隠し得ず 臥し転びつつ あからさま
 「君の恵みも 背き得ず 告ぐれば兄を 滅ぼせり
 告げざる時は 傾けん 恐れ悲しみ 血の涙」

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■応えて (こたえて)
この場合は 「問いに答えて」 ではなく、「胸に応えて」 の意に解しています。


臥し転ぶ (ふしまろぶ)

あからさま

悲しむ (かなしむ)

血の涙 (ちのなんだ)

 

【概意】
后は胸に応えて隠し得ず、床に転げ回りながらあからさまに言う。
「君の恵みに背くことはできず、かといって事実を告げれば兄を滅ぼすことになる。
しかし告げなければ治世を傾けよう。恐れながらどうすることもできない血の涙。」



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 あにかあつらえ ここなりと きみかひるねの ひさまくら
 もしやくるえる ものあらは たまさかにえる いさおしと
 おもえはなんた ふくそてに あふれてみかお うるほせり
 ゆめはかならす このこたえ おろちはこれと

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 「兄が誂え ここなりと 君が昼寝の 膝枕
 もしや狂える 者あらば たまさかに得る 功と
 思えば涙 拭く袖に あふれて御顔 潤せり
 夢は必ず この応え 蛇はこれ」 と

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■たまさか (偶・適)
タム(回む)+サク(▽探く) の名詞形で、サク は サグル(探る) の母動詞。両語とも
「往き来・めぐり・揺れ・ぶれ」 などが原義で、“たまゆら”  “たまたま” と同義です。 ▶たまゆら
「めぐってくるさま・久しぶりなさま・思いと現実にぶれがあるさま・偶然」 などを意味します。

 

【概意】
「“兄の願いを叶えるはこの時” とばかりの、君の昼寝の膝枕。
もし狂った者がいたなら、千載一遇の成功と言うに違いないと、
思えば涙が落ちこぼれ、ぬぐう袖からあふれて御顔を潤すなり。
夢は間違いなくこれの反映。蛇はこれ」 と、



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 ひもかたな たせはすへらき みことのり
 ちかかたにある やつなたお めしてさほひこ うたしむる

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 秘刀 出せば皇 御言宣
 近方にある ヤツナタを 召してサホヒコ 打たしむる

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■ヤツナタ
ホツマには説明がありませんが、新撰姓氏録によると、
垂仁天皇の兄で、ホツマ司となった トヨキイリヒコ の子です。 ▶ホツマ司
日本書紀は 八綱田 と記します。

 ヰソサチ立てて 代嗣御子 トヨキイリヒコ ホツマ司ぞ 〈ホ34-2〉


 開化天皇
   ├──────崇神天皇(ミマキイリヒコ・斎名ヰソニヱ)
 イカシコメ      ┃
            ┃             ┌(6)トヨキイリヒコ(斎名シキヒト)─ヤツナタ
            ┃             │
 オオヒコ───┬ミマキ姫[内宮]──────────┴(7)イクメイリヒコ(斎名ヰソサチ:垂仁天皇)
        │   ┃
        └クニカタ姫[内侍]─────────┬(8)チチツクワ姫
            ┃             │
            ┃             └(9)イカツル(斎名チヨキネ)
            ┃
 紀アラカトベ──トオツアヒメクハシ姫[内侍]────┬(1)トヨスキ姫
            ┃             │
            ┃             └(3)ヤマトヒコ(斎名ヰソキネ)
            ┃
 近江国造────ヤサカフリイロネ姫[大典侍]────┬(4)ヤサカイリヒコ(斎名オオキネ)
            ┃             │
            ┃             └(5)トチニイリ姫
            ┃
 尾張国造────オオアマ姫[中橋]──────────(2)ヌナギ姫

 

【概意】
秘刀を出せば、皇の御言宣。
近方にあるヤツナタを召してサホヒコを打たしめる。



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 ときにさほひこ いなきなし かたくふせきて くたりゑす
 きさきかなしみ われたとひ よにあるとても
 しむかれて なにおもしろと みこいたき いなきにいれは
 みことのり きさきとみこお たすへしと あれといたさす

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 時にサホヒコ イナキなし 堅く防ぎて 降り得ず
 后 悲しみ 「我たとひ 世にあるとても
 シム枯れて 何おもしろ」 と 御子抱き イナキに入れば
 御言宣 「后と御子を 出すべし」 と あれど出さず

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■イナキ・イナギ (▽辞城・稲城)
イナ(▽去・辞)キ(城・▽限) の同義語連結で、「離し・分け・限り・境界」 などが原義。
この場合は 「垣・柵・隔壁」 をいい、シロ(城) の換言です。
これも “稲城” と当て字され、現在は意味が変わっています。 ▶稲城


シム (▽親)

おもしろ (面白)

■御子 (みこ)
ホンツワケ を指します。

 

【概意】
時にサホヒコは防壁を造り、堅く防いで降伏を得ず。
后は悲しみ、「たとい我一人が世にあっても、親族の枯れて何がおもしろ」 と、
御子を抱いて防壁内に入れば、「后と御子を出すべし」 と御言宣を発せど、出さず。



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 やつなたか ひせめになせは
 きさきまつ みこいたかせて しろおこえ きみにもふさく
 あにかつみ のかれんために われいれと ともにつみある
 ことおしる たとひまかれと みめくみお わすらてのちの
 さためには たにはちうしの めおもかな

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 ヤツナタが 火攻めになせば
 后まず 御子抱かせて 城を越え 君に申さく
 「兄が罪 逃れんために 我 入れど 共に罪ある
 ことを知る たとひ罷れど 御恵みを 忘らで 後の
 定めには タニハチウシの 姫をもがな」

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城 (しろ)

タニハチウシ (丹波道大人)
サホ姫の兄弟です。
崇神天皇の時代に “丹波治人” に任ぜられて山陰道へ遣わされたのが、名の由来です。

   開化天皇
     ├─────────ヒコヰマス
   オケツ姫[典侍]       ├────┬水穂真若王(アフミ)──ヤサカフリイロネ
                 │    ├丹波道主王(タニハチヌシ)
 ホノススミ─??─アメミカゲ─息長水依比売 ├沙本毘古王(サホヒコ)
                      ├沙本毘売命(サホ姫)
                      ├神大根王
                      └小俣王

 

【概意】
ヤツナタが火攻めになせば、后は まず御子を抱かせて防壁を越えさせ、
君に申さく、「兄の罪を逃れんために我は城に入りましたが、我も共に罪あることを知っています。
たとえ死んでも御恵みは忘れません。後の后には、どうかタニハチウシの姫を定められますよう。」



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 きみかゆるしの あるときに ほのほおこりて しろくつる
 もろひとされは さほひこと きさきもまかる
 やつなたか いさおしほめて たまふなは たけひむけひこ

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 君が許しの ある時に 炎 おこりて 城 崩る
 諸人更れば サホヒコと 后も罷る
 ヤツナタが 功 褒めて 賜ふ名は “タケヒムケヒコ”

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■君が許し (きみがゆるし)
“タニハチウシの姫を後の后にして欲しい” というサホ姫の希望の 「許容承諾」 です。


■おこる (怒る・熾る)
「勢いが盛んになる」 ことをいいます。


■崩る (くづる・くつる)
もとは クツ(朽つ) の連体形で、クチル(朽ちる) の変態です。


更る (さる) ■罷る (まかる)
どちらも 「一周してもとの所へ返る」 が原義で、この場合は 「あの世に還る」 という意です。


■タケヒムケヒコ
垂仁天皇が ヤツナタ の功に対して授けた称え名です。
タケ(長)+ヒムケ(火向け)+ヒコ(彦)で、「火攻めに長けた臣」 の意と考えます。
日本書紀には 倭日向武日向彦八綱田(やまとひむかたけひむかひこやつなた) と記されます。

 

【概意】
君の許しのある時に、炎の勢いが増して城は崩れる。
諸人は天に還り、サホヒコと后も罷る。
ヤツナタの功を褒めて賜ふ名は “タケヒムケヒコ”。

 

本日は以上です。それではまた!

 

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