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一から学ぶ ほつまつたえ講座 第66回 [2023.10.23]

第十三巻 ワカヒコ 妹背すずかの文 (6)

著者:おあずけ2号 (駒形一登)
著者HP:ホツマツタエ解読ガイド https://gejirin.com

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 わかひこいせすずかのあや (その6)
 ワカヒコ 妹背すずかの文 https://gejirin.com/hotuma13.html
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 ワカヒコの言葉が続きます。

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 こおもてよ もしつまうます たねたえは
 めかけめおきて たねなせよ めかけとなれる めのつとめ
 つまおうやまえ めかけめは ほしになそらふ
 ほしひかり つきにおよはす うつくしも みやにないれそ

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 子を持てよ もし妻生まず 胤 絶えば
 妾女置きて 胤なせよ 妾となれる 女のつとめ
 “妻を敬え” 妾女は 星になぞらふ
 星光 月に及ばず 美しも 宮にな入れそ

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■胤 (たね)
「あとに続くもの・後継・系統・血統・末裔」 などを意味します。 ▶胤


■妾 (めかけ) ■妾女 (めかけめ)
メカケは 「替え・代り」 を意味し、メカケメ(妾女)は 「代りの女・代理妻」 をいいます。

 メカケは メカクという動詞の名詞形で、メカクは メク(▽巡く)+カク(掻く) の短縮です。
 メクは メグル(巡る) の母動詞、カクは “掻き回す” のそれです。
 両語とも 「回る/回す・行き来する/させる・替わる/替える」 などの意を表します。


■妾女は星になぞらふ (めかけめはほしになぞらふ)
その一方、妻は月になぞらえます (“夫は日なり嫁は月”)。


■宮にな入れそ (みやにないれそ)
「宮に入れるなよ」 という意です。
ナ+動詞の連用形+ソ の形は、ゆるやかに禁止する意を表します。
ミヤ(宮)は ここでは オモヤ(主家・母屋) をいうものと思います。
つまり妾は主人宅に同居させなかったのでしょう。

 

【概意】
子を持てよ。もし妻が生まず、代継ぎが絶えるなら、
妾女を置いて代嗣をつくれよ。妾となる女の務めは “妻を敬え”。
妾女は星になぞらえるが、星の光は月に及ばぬ。
どんなに美しくとも主家には入れるなよ。



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 あまのはら つきならふれは くにみたる
 つまとめかけと やにいれは いゑおみたるそ
 つきはよる つまなうとみそ うちをさむ

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 天の原 月並ぶれば 地乱る
 妻と妾と 屋に入れば 家を乱るぞ
 月は夜霊 妻な疎みそ 内治む

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■天の原 (あまのはら)
「天の領域・天界」 という意です。“高天(たかま)の原” とも呼ばれます。 ▶原
今風には 「天空・宇宙空間」 ですが、それは当時の認識では 「天界・神界」 とイコールです。


乱る (みだる)

家 (いゑ・ゐゑ)

■夜(よる・よ)・夜霊 (よる)
ヨル(夜)は ヨル(▽弱る)の名詞形で、ヨルは オル(下る)の変態です。
天地創造の過程で 下っていった 「陰」、また陰の極 (太陰) となった 「月」 を表します。
ヨル(夜霊) は 「陰・月の神霊・エネルギー」 を意味します。 ▶霊(る)


疎む (うとむ)
ウツ(棄つ)+トム(▽遠む・▽外む) の同義語短縮で、「離す・別ける・放つ」 などを原義とし、
この場合は 「避ける・遠ざける・嫌う」 などの意です。


■内治む (うちをさむ)
夫は日なり嫁は月” なので、中節の内側を巡ると同じく、 ▶中節
「妻は内のことを治める」 ということです。内とはこの場合は 「家の内・家庭」 です。

 日の道は 中節の外 月は内 男は表業 務むべし 女は内治め 衣綴り〈ホ13-2〉

 

【概意】
天に月がいくつも並べば、地球環境を乱すように、
妻と妾とを同じ屋に入れれば、家を乱すぞ。
月は夜霊、<中節の内を回る>。だから妻を疎むなよ。内を治めてくれる。



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 めかけのことは なまつりそ
 こおうむもりは うまぬとき すつるむらほし のりみたる
 いんしあまかみ ほしとなる これはのりなす

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 妾の言葉 な纏りそ
 子を生む守は 生まぬ時 棄つる群星 範乱る
 往んし和尊 星となる これは範成す

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纏る (まつる)
ここでは 「取り合う・処置する・ケアする」 という意です。

■子を生む守 (こおうむもり)
「子を生む備え・予備」 の意で、妾(めかけ)を指します。


群星 (むらぼし)

範 (のり)

■往んし和尊 (いんしあまかみ)
インシは イニシ(往にし)の音便で、「過ぎ去りし・過去の」 などの意です。
アマカミは この場合は アマツキミ(和つ君) と同じで、「国君・君主」 をいいます。
ですから 「むかしの国君」 という意で、これは クニトコタチ を指します。

 ★往にし (いにし)往んし (いんし・いんじ)
 イヌ(往ぬ・去ぬ)シ(▽如) で、「過ぎ去りし・過去の」 という意です。
 “シ” は シク(如く)という動詞を起源とし、「ごとくの」 の意を表します。
 今の文法的に言えば 助動詞キの連体形です。


■星となる (ほしとなる)
クニトコタチは地上社会の基礎を整えた後に天に還りますが、
アメミヲヤはその神霊を星となして夜空に輝かせました。

・天に還れば ミナカヌシ およびヱ・ヒ・タ・メ ト・ホ・カ・ミも
 天に配りて 星となす アメトコタチの 神はこれ 〈ミ6-4〉
・後 十一の君 キ・ツ・ヲ・サ・ネ ア・ミ・ヤ・シ・ナ・ウも 天に還り
 サコクシロにて 御言宣 みな星となす 〈ミ6-4〉
・クニトコタチの 七代の尊 みなサコクシロ よりの星 〈ミ6-4〉

 

【概意】
妾の言葉は取り合うなよ。
子を生む備えは、生まぬ場合は群星の如く棄てることになる。
<その時に 一度でも情をかけられたと思う妾は> 規範を乱すだろう。
いにしえのクニトコタチも星となったが、彼らは地上社会の規範を成した。



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 めのすかた よくてあるるも みにくきに よきみやひあり
 よそおひに なふみまよひそ 
 いせのみち あまのうきはし よくわたす 
 かみのをしゑの いもをせの みちのおおむね とほるこれなり

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 女の姿 良くて荒るるも 醜きに 良きミヤビあり
 装ひに な踏み迷ひそ
 妹背の道 陽陰のうきはし よく渡す
 神の教えの 妹背の 道の概ね 徹るこれなり

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■荒るる (あるる)
アル(荒る)の連体形で、今風には “荒れる” といい、「上がる・勢い付く」 などが原義です。
この場合は 「男のやる気がアップする・さかりが付く」 という意味です。

 今に言う “あれる” には、実は “荒れる” と “粗れる” の2つがあり、正反対の意味です。
 “粗れる” は 「下がる・衰える・廃れる」 などを原義とするのですが、現在は混同されて、
 どちらにも “荒” の漢字が当てられています。「荒れた結果として粗れる」 からでしょう。
 本講座では両者の意味を区別するため、“荒” と “粗” の漢字を使い分けています。


ミヤビ
ここでは「情け」 の換言です。ミヤビは情けが行き交う通信網です。
(これがほんとの情報ネットワーク?)

 我見るに 人のミヤビは 情け枝 〈ホ17〉


■踏み迷ふ (ふみまよふ)
フム+マヨフ(迷ふ) の連結で、このフムは フル(振る)の変態ですから、
両語とも 「往き来する・揺れる・ぶれる・回る」 などの意を表します。
この場合は 「揺れ迷う・振り回される」 などの意です

 フムは多様な意味を持つ動詞ですが、今はそのすべてに “踏む” と当てられています。


妹背の道 (いせのみち)
「陰陽(女男)と その和合の道」 という意です。
ここでは特に 「女男和合の道」 の意に使われているようです。


■陽陰のうきはし (あまのうきはし)
アマ(陽陰)はイセ(妹背)やメヲ(陰陽・女男)と同じです。
ウキハシは 「結び合わせ」という意です。
ですから 「男女の結び合わせ・仲介/仲人」 を意味します。


■神の教え (かみのをしゑ)
このカミ(神)は、アヤ冒頭の ❝神は妹背の道開く 我はカスガに これ受けん❞
に対応しています。ですから アメノミヲヤ または アマテル を指します。


■妹背の道 (いもをせのみち)
イセノミチ・イモセノミチと同じです。 ▶イモヲセ

 

【概意】
女の姿が良いと男は盛りが付くが、醜き女にこそ良き情けあり。
うわべの装飾に振り回されるなよ。
女男和合の道は、“陽陰のうきはし” をよく渡すことである。
これにて 神の教えの “妹背の道” の概略が徹るなり。



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 つくはうし ほしおさるには みなすてて たのしみまつや
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 ツクバ大人 「欲を去るには みな捨てて 楽しみ全つや」
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ツクバ大人 (つくばうし)

■全つ (まつ)
「まっとうする・最後まで行く・完遂する」 などの意です。

 

【概意】
ツクバ大人が問う。
「欲を離れるには、財をすべて捨てて、
なおも楽しんで人生をまっとうせよと?」



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 かすかまろ
 しからすとめて たらさらは うえはほとこし うけんかや 
 いわくきたなし ほとこしお うけはほゐとそ きかさるや

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 カスガマロ 
 「然らずとめて 足らざらば 飢えば施し 受けんかや
 曰く “きたなし 施しを 受けば蝕人ぞ” 聞かざるや」

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カスガマロ

■然らず (しからず)
シク(如く)+あらず の短縮で、「さにあらず・そうではない」 の意です。


■とむ (▽外む・▽遠む)
適当な当て字がありませんが、ウトム(疎む)の母動詞で、
「離す・放つ・遠ざける」 などの意です。つまり ステル(捨てる) の同義語です。


きたなし

施し (ほどこし)
ホドコス(施す)の名詞形で、ホドコスは 「回す・めぐらす・配る」 が原義で、
「恵む」 の同義語です。


■蝕人 (ほゐと)
ホヰ(蝕)+ヒト(人) の短縮です。
ホヰは ハユ(蝕ゆ)の変態 ホユの名詞形で、「曲り・蝕み」 が原義です。
ですから 「曲った人・曲者(くせもの)・蝕まれた人」 などの意となります。

 辞書には ホイト(陪堂・乞児・乞食)、あるいは ホイトウ(陪堂) で載っています。

 

【概意】
カスガマロは応えて、
「そうではない。捨てて足りなくて飢えたなら、施しを受けぬだろうか。」
「❝見境のない施しを受けたら蝕人ぞ❞ と言うのを、聞かないか。」



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 なおからされは ひとならす よにありなから そのわさに
 うめるたからお たたこひて くらふいぬこそ あのつみよ
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 直からざれば 人ならず 世にありながら その業に
 産める財を ただ乞ひて 競ぶ狗こそ 大の潰よ
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■直からざれば (なおからざれば)
ナオカラ(‘直し’ の未然形)+ザレ(打消の ‘ズ’ の已然形)+ば(助詞)

 ★直し (なおし)
 ナオ(直)+シ(形容詞語尾:▽如・▽然)。ナオ は ナフ(▽和ふ) の名詞形で、
 「調和する如し」 を原義とし、「曲り/偏り/傾き/歪み のないさま」 を表す形容詞です。
 ここでは 「財に傾く心がないさま」 をいいます。


■狗・戌・犬 (いぬ・ゐぬ)
イヌ(去ぬ・往ぬ)の名詞形で、「離れ・逸れ・外れ・けがれ」 などが原義です。
「人に非ざるもの・外道のもの」 を意味し、ヱノ の変態です。
また オノコ、ケモノ(獣)、シシ(獣) の換言です。


■産める (うめる)
ウム(産む)の連体形です。


■大の潰 (あのつみ)
ア(▽上)は 「上にあるさま・大いなるさま」 を意味します。
ツミは ツエ(費・潰) の変態で、「費え・損失・消耗」 などを表します。
ですから 「大いなる損失」 という意です。

 

【概意】
直くなければ人にあらず。
世にありながら、その業に産める財をただひたすら欲し、
他人と競べて喜憂する獣と化す。これこそ大いなる損失よ。



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 またとふたから さることは
 かすかまたとく ほしさるは すてすあつめす わさおしれ
 たからあつめて くらにみつ ちりやあくたの ことくなり

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 また問ふ 「財 去る如は?」
 カスガまた説く 「欲去るは 棄てず集めず 技を知れ
 財 集めて 蔵に満つ 塵や芥の 如くなり」

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■財去る如は (たからさることは)
「財を離れるは如何に?」 という意味です。


■棄てず集めず (すてずあつめず)
重要なのは心であって、金品自体には何の価値もないことを知り、
それに対する一切の執着(心の傾斜)を断て、ということです。
つまり、蓄財と散財、どちらにも意識が留まらない心境をいいます。
本来それが 「素直」 ということであり、それが 「人」 なのであって、
そうでないのは 「人間以下・犬・畜生」 だというわけです。
人が繰り返し輪廻転生していることを思えば、これは当然の真実です。

 

【概意】
またツクバ大人は問う。
「では財から離れるにはどのように?」
カスガまた説く。
「欲を離れるには “棄てず集めず” の技を知れ。
財を集めて蔵に満たすなど、塵や芥を貯め込むに同じ。」



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 こころすなおの ひとあらは わかこのことく とりたてて
 みなたすときは ほしもなし

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 心 素直の 人あらば 我が子の如く 取り立てて
 充な足す時は 欲も無し

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素直 (すなお)

取り立つ (とりたつ)
「ピックアップして立てる・拾い上げて育成する」 という意です。


■充な足す (みなたす)
ミタタス(充た足す)の変態です。


■欲も無し (ほしもなし)
「心の素直さえあれば、必要な物はそれに引き寄せられてやって来る」 という
経験的な信念が当人に育ち、「欲から離脱する」 ということだと思います。

 

【概意】
心の素直な人がいれば、君は我が子の如く取り立てて用い、
充ち足りる時には、もはや当人には欲も無し。



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 ちりとあつめて よにせまり うらやむものか かむゆえに
 たまのをみたれ みやなくて すゑまもらぬお たまかえし
 なせはをとけて みやにいる なさねはなかく くるしむそ

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 塵と集めて 余に迫り 羨むモノが 咬む故に
 霊の結 乱れ みやなくて 末 守らぬを 霊還し
 なせば結解けて 宮に入る なさねば永く 苦しむぞ

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■余に迫る (よにせまる)
ヨは 「余人・他の人」 を表します。
セマルは 「狭まる/狭める」 を原義とし、ここでは 「圧迫する」 の意です。


■羨むモノが咬む (うらやむものがかむ)
前講座の “羨む人が咬む” と全く同じです。 ▶モノ


霊の緒 乱る (たまのをみだる)


みやなし (▽和なし)

霊還し (たまかえし)


■宮 (みや)
15アヤでは 「陽陰の宮居」(あめのみやゐ)と呼ばれています。
魂と魄が還るべき 「陽元と陰元」 をいいます。

 陽元は 「ムナモト・ムネ」、陰元は 「ミナモト」 などと呼ばれますが、
 これは陽と陰の本源である 「太陽」 と 「月」 の別名です。
 太陽の座所は “赤宮”、月の座所は “白宮” と呼ばれますので、ここに言う
 “宮” すなわち “陽陰の宮居” は、「赤宮と白宮」 を指すものと思われます。


苦しむ (くるしむ)

 

【概意】
財を塵のように集めて余人を圧迫すれば、
羨む人の念がイソラに転じて咬むため、
霊の緒が乱れてどうにもならず、来世を守らぬを、
“霊還し” をなせば緒が解けて、魂と魄は陽陰の宮に入る。
なさねば永く苦しむぞ。

 

本日は以上です。それではまた!

 

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