1962年 (昭和37年) 9月4日 火曜 前の記事 目次 次の記事
 録音:How Do You Do It / Love Me Do

場所

EMIアビーロード第2・3スタジオ (Studio2・3/EMI Studios, Abbey Road)

プロデューサー

ジョージ・マーティン (George Martin)

エンジニア ノーマン・スミス (Norman Smith) 
録音楽曲 How Do You Do It,  Love Me Do

  
EMI傘下のパーロフォン・レコード (Parlophone Record) のヘッドであるジョージ・マーティン (George Martin)は、1962年5月9日にブライアン・エプスタイン (Brian Epstein) と会談した際、ビートルズとレコーディング契約を結ぶことを承諾しているが、実際にサインするのは彼らを見聞してからだとエプスタインに告げる。

それを受けて1962年6月6日、ビートルズはEMIのためのレコーディング・セッションを初めて行っている。よってこの時のレコーディングは実質マーティンによる彼らのオーディションであり、レコード制作のためのレコーディングではなかった。

そしてこの日、ビートルズは彼らのデビューシングルのレコーディングのため、EMIアビーロード・スタジオに戻って来る。6月6日と一つ大きく異なるのは、リンゴ・スター (Ringo Starr) がピート・ベスト (Pete Best) に替わってドラマーとなっていることである。

出発前のリヴァプールのスピーク空港にて

彼らはこの朝、リヴァプール空港からロンドンに飛び、チェルシー・ホテル (Chelsea) にチェックインした後、正午過ぎにアビーロードに到着した。

レコーディング・セッション本番に先立ち、彼らはマーティンのアシスタント、ロン・リチャード (Ron Richard) の監督下でリハーサルを行う。2:00pm~5:00pmの間、彼らは6曲をくり返し演奏した。その内『Love Me Do』と『How Do You Do It』の2曲を彼らは選択する。

またこのリハーサルの中で、彼らはよりスローでブルージーな『Please Please Me』も演奏していた。このバージョンではジョージ・ハリスンがメインの役割を演じていた。
  

あの段階での『Please Please Me』はとても退屈な歌だった。それはロイ・オービソン (Roy Orbison) の曲みたいで、とてもスローでブルージーなヴォーカルだった。私は思い切って活発なものにする必要があると考えて、彼らに言った「それは次回に持ってこいよ。その時にまた挑戦してみよう。」

 

ジョージ・マーティン
「The Complete Beatles Recording Sessions」マーク・ルイソン

  
リハーサルが終わった5:00pm~7:00pmに、ジョージ・マーティンは彼らとニール・アスピノール (Neil Aspinall) をメリルボーン・ハイ通り (Merylebone High Street) にあるアルピノ (Alpino) というレストランにスパゲッティを食べに連れて行った。そこでマーティンはピーター・セラーズ (Peter Sellers) やスパイク・ミリガン (Spike Milligan) とのレコーディングの時の話をし、彼らは感銘を受ける。

『How Do You Do It』はマーティンがビートルズのデビューシングルとして選んだ曲であった。これはソングライターのミッチ・マレー (Mitch Murray) が書いた曲で、彼らはこの曲のデモ用アセテート盤を送られていた。そのデモ盤はバリー・メイスン (Barry Mason) とデイヴ・クラーク・ファイヴ (Dave Clark Five) が、1962年の初めにロンドンのリージェント・サウンド・スタジオ (London's Regent Sound Studio) で録音したものだった。

マレー自身はこの曲がアダム・フェイス (Adam Faith) によって録音・リリースされることを望んでいた。ところがビートルズはオリジナル曲の持つ天真爛漫な躍動感を殺し、彼らの嗜好に合わせたR&B色の強いものにアレンジし直した。最終的にジェリー&ザ・ペースメーカーズ (Gerry & The Pacemakers) がこの曲を録音・リリースして、1963年にNo.1ヒットとなっているが、そのアレンジはビートルズのものをベースとしている。
  

ジョージ・マーティンはその曲がNo.1ヒットになることを知っていたんだ。だから僕らにデモ録音を渡した。白い小さなアセテート盤だった。僕らはそれをリヴァプールに持って帰って言った「これどうする? これは彼が僕らに望んでる曲だ。彼は僕らのプロデューサーだ。やらなきゃならない。覚えなきゃいけない。」だから僕らはやった。ただ好きじゃなかったのでマーティンの所に戻って言った「うーん、確かにNo.1の曲かもしれないけど、僕らはこの手の曲はどうも好きじゃない。こういう曲をやる歌手のイメージを持たれたくないんだ。これは僕らが求めるものとは違う。僕らは何か新しいものが欲しい。」味方陣営の人に対する態度としては、僕らはかなり強硬の姿勢だったように思うよ。でも彼はわかってくれた。後にマーティンは僕らが録音したデモをジェリー&ザ・ペースメーカーズに聞かせて言った「彼らはこれ要らないそうだ。これは大ヒットだぞ。君らがやれよ。」それでジェリーはそのチャンスに飛びついた。彼は僕らのバージョンとほぼ同じテンポを踏襲した。オリジナルのデモとはかなり違ってて、あれは基本的には僕らのアレンジなんだ。

 

ポール・マッカートニー
「The Complete Beatles Recording Sessions」マーク・ルイソン

  
レコーディングは7:00pmから始まった。彼らは義務感から『How Do You Do It』の多くのテイクを録ったが (テイクの数は不明)、ビートルズは非オリジナルソングを自分たちのデビューシングルにはしたくなかった。その気持はマーティンに伝わり、彼もオリジナル作品にチャンスを与えることに同意する。

その録音は1994年に「アンソロジー1」に収録されるまで未リリースのままだった。ちなみに音楽出版のディック・ジェイムス (Dick James) は、ビートルズのバージョンはオリジナルのデモに劣ると評価している。

そして彼らは『Love Me Do』にとりかかる。まずバッキング・トラックのテイクを15ほど録り、その後にヴォーカルが重ねられた。ジョージ・マーティンが、ハーモニカと歌を同時にジョンがやるのは無理だと言ったため、ポール・マッカートニーは予期せずして急遽ボーカルのハイライトを与えられた。
    

マーティンは突然に僕らがずっとやってきたアレンジを変えた。そしてジョンはあの1行の歌詞を逃すことになった。彼は「Pleeeeease」と歌った後ハーモニカを口に当て、僕が「Love Me Do」と歌い、そして彼のハーモニカが「Waahhh wahhhh wahhhhhh」と入る。僕らはライブでもこうやってた。実際レコーディングでもオーバー・ダブじゃなかったんだ。そんなわけで僕は突然この重大な部分を与えられた。僕らの最初のレコードで、すべてのバッキングが止まる時、スポットライトをあてられた僕が『Love me doooo』と行く。今でもあのレコードを聞くと僕の声が震えてるのが聞き取れるよ。僕は怯えてたんだ。僕らがリヴァプールに帰って、ザ・ビッグ・スリー (The Big Three) のジョニー・グスタフスン (Johnny Gustafson) と話した時、彼が「あのラインはジョンに歌わすべきだったよ」と言ったのを思い出すよ。ジョンは僕よりうまく歌ってたんだ。彼はより低い声を持ってたから、彼が歌うあのラインはもう少しブルージーだった。

 

ポール・マッカートニー
「The Complete Beatles Recording Sessions」マーク・ルイソン

  
このレコーディング・セッションは10:00pmに終わる予定だったが、11:15pmまで延びてしまった。ビートルズが帰った後、ジョージ・マーティンとブライアン・エプスタインが次の日に聞けるように、2つの曲はミキシングされてアセテート盤にプレスされた。
  

  

  

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