やまとことばのみちのく
語源探求のこころみ

   

T. 理論概念

U. 実践理論

  

U.実践理論

■ 始めに動詞ありき

ほとんど全てのやまとことばは、2音から成る動詞を起源としています。
廃れて使われなくなり、今は失われた2音動詞も数多くあると思いますが、非常に古い時代には「う」の母音で終る
*く、*す、*つ、*ぬ、*ふ、*む、*ゆ、*る、のすべての2音動詞が存在したと、当理論では仮定しています。

1.「3音動詞」のほとんどは、同意の2音動詞が合成(連結して短縮)されて出来たものです。

  例  「なやむ(悩む)」←「なゆ(萎ゆ)」+「やむ(病む)」
     「ささぐ(捧ぐ)」←「さす(差す)」+「あぐ(上ぐ)」

  「4音動詞」の大方は、同意の2音動詞の連結(短縮なし)です。

  例  「さしあぐ(差し上ぐ)」←「さす(差す)」+「あぐ(上ぐ)」

  「5音の動詞」は2音動詞と3音動詞の連結が多いです。

  例  「たてまつる(奉る)」←「たつ(立つ)」+「まつる(奉る)」

   後に述べますが2音動詞は非常に広範な意味を持つため、同義語を連ねて意味を明確にするべく、
   3〜5音の動詞が自然発生的に生まれたように思います。

2.「1音の動詞」は「2音の動詞」の省略形と見ます。

  例  「す(為)」←「する(為る)」
     「ふ(経)」←「ふる(経る)」

4.名詞は動詞の活用形を起源としています。

  例  「せき(関・堰)」←「せく(塞く)」
     「おゑ(汚穢)」←「おゆ(瘁ゆ)」
     「あふぎ(扇)」←「あふぐ(扇ぐ)」
     「すべら(皇)」←「すべる(統べる)」

5.形容詞は動詞の活用形あるいは名詞に「し」を付加したものです。
  「し」は「しく(如く)」という動詞の略で、「似る・匹敵する」などの意を持ちます。

  例  「やさし(優し)」←「やす(安)」+「しく(如く)」
     「うまし(美し)」←「うむ(熟む)」+「しく(如く)」
     「うるはし(麗し)」←「うるふ(潤ふ)」+「しく(如く)」
     「いぶかし(訝し)」←「いぶく(息吹く)」+「しく(如く)」

6.その他、助動詞や助詞なども皆、動詞の変形・略形です。

   
  
   

■ すべての動詞はすべての意味を持つ

前節で述べた通り、すべての動詞は「あふ(合う)」のバリエーションでしかありません。
よってすべての動詞(少なくとも2音の動詞)は顕在的にまた潜在的にすべての意味を持ちます。
(潜在的と言うのは、その語単独には無い意味も派生語や複合語や名詞を作る場合に現れ得るということです。)
俄かには信じがたいことですが事実です。
従っていかなる動詞もその語単独では表す意を決定することはできず、常に主語・目的語・補語との関わり具合から判断せざるを得ません。
ただしすべての意味と言っても、次の5種に収束するのです。

 A.合う/合わす。
 B.離れる/離す。
 C.行き来する/させる。
 D.正の方向に離れる/離す。
 E.負の方向に離れる/離す。

例えば「たつ」という動詞は、辞書によりますと【立つ】【建つ】【起つ・発つ】【経つ】【絶つ・截つ・断つ】【裁つ】【奉つ・献つ】などの漢字が当てられ、膨大な量の意味が載っていますが、どの意味もこの5種類に収まる筈です。

 

A.  合う / 合わす

原義は「陽(あ) と 陰(わ) が近づき結合する」ということです。
先にほとんどすべての言葉は2音の動詞を起源とすると述べましたが、その例外の一つがこの「あふ(合う)」です。
「あふ(合う)」は互いに引き寄せられて結合しようとする「あ(陽)」と「わ(陰)」のふるまいを動詞化したものだと思われます。

そして両者の結合は何かを「生む・現す・形にする」のであります。
例えば、ホツマは陽のエネルギーの別名を「たま(魂)」、陰のエネルギーの別名を「しゐ(魄)」とも呼びますが、
両者が結ばれることで人は世に生を受けます。
また男女が交合すれば子が生まれます。

「合う/合わす」から派生する意味は非常に多いのですが、主なものを挙げると次のようになります。

合う 寄る・付く・集まる・収まる・まとまる・調う・直る・平る・連なる・続く・似る・匹敵する・保つ・備わる・対応する・現る・在る・生れる・狭まる・閉じる
合わす 寄せる・付ける・集める・収める・まとめる・調える・直す・平らす・連ねる・続ける・似せる・匹敵させる・備える・対応させる・現す・在らす・生む・起す・狭める・閉じる

 
かく」という動詞を例にとると、
「書く」・・・・・・・・・文字や絵を何かに合わせる。写す。
「掛く/懸く/架く」・・・離れているものを合わせる。結ぶ。つなぐ。
「嗅ぐ」・・・・・・・・・匂いを鼻に合わせる。

 

 

B.  離れる / 離す

これは「隔たりが大きくなる」ということです。

これは便宜上「合う/合わす」と別にしていますが、実は「合う/合わす」と同じです。 
視点を変えているに過ぎません。
「離れる」という動作は、必ず同時に他所に「合う」という動作を伴います。
つまり「一所から離れる」というのは視点を変えれば「他所に近づく」ということと等価です。
また「在る」というのは、他の物から「離して(別個に)」認識されることに他なりません。

「離れる/離す」から派生する意味の主なものは次のようになります。

離れる 分れる・湧く・発する・出る・空く・開く・異なる・変わる・反る・それる・外れる・曲がる
離す 放つ・掃う・退く・除く・分ける・発する・出す・空ける・開ける・変える・反らす・そらす・外す・曲げる

 
かく」という動詞を例にとると、
「欠く」・・・・・・・・・何かが離れる。なくなる。何かを除く。

 

 

C.  行き来する / させる (まわる / まわす)

これは「回転する・循環する」ということです。また回転運動は同時に往復運動だとも言えます。
人間を、輪廻転生を繰り返す神霊という観点で捉えているヲシテ三書を読み解く場合、これは非常に重要な意味です。
しかしながら、この意味を表す漢字が少ないため、現代の日本人にとっては理解しづらいものとなっています。

往き来する
回る
揺れる・震える・動く・替わる・巡る・還る・戻る・回帰する・反復する
往き来させる
回す
揺らす・震わす・動かす・替える・巡らす・還す・戻す・回帰させる・反復させる

 
かく」という動詞を例にとると、
掻く」・・・・・・・・・行き来させる。循環運動させる。

 

 

D.  正の方向に離れる / 離す

これは「合う(離れる)/合わす(離す)」に方向性が加わったものです。
正の方向とは「上・大・多・高・先・中・熟・明・美・早・過去」などへの方向を意味します。

正の方向に
離れる
上がる・中心にある・勢い付く・栄る・速まる・先行する・熟れる・優れる・勝る・至る・終る・越える
正の方向に
離す
上げる・中心に置く・敬う・勢い付ける・栄す・速める・先行させる・熟れさす・優れさす・勝らす・至らす・終らす・越す

 
かく」という動詞を例にとると、
「駆く」・・・・・・・・・活性化する。勢いづける。動かす。進める。

  

 

E.  負の方向に離れる / 離す

これも「合う(離れる)/合わす(離す)」に方向性が加わったものです。
負の方向とは「下・小・少・低・後・端・粗・暗・汚・遅・未来」などへの方向を意味します

負の方向に
離れる
下がる・隅にある・勢いを失う・劣る・遅れる・粗れる・縮まる・沈む・果てる・終る
負の方向に
離す
下げる・隅に置く・勢いを奪う・劣らす・遅らする・粗す・縮める・沈める・果てさす・終らす

 
かく」という動詞を例にとると、
「欠く」・・・・・・・・・こわす。損じる。洩らす。

 
正の方向/負の方向というのも、実は相対的なものでして、視点によっては正と負が逆になります。例えば正の方向に離れて「熟して満ちる・至り極まる」ことは、同時に「枯れ果てる・死ぬ」ことを意味します。

   

分類した5つの意味は、明確な境界で仕切られているものではありません。
「合う」が進展すると結果的に「正の方向」に自然に進みます。[集まる→ 増える]
「離れる」が進展すれば結果的に「負の方向」に自然に進みます。[去る→ 減る]
また「離れる」は「合う」の視点を変えたものでしかありません。

つまりすべての意味は「合う」の一つのフェイズ(相)に過ぎないわけです。
陽と陰が「合う」と「生まれ(生) → 成長し(盛) → 満ち至り(熟) → 枯れる(滅)」という循環が起ります。
万物万象はすべてこの循環の中にあり、あらゆる動詞もこの循環、あるいはその一相を表していると考えてよさそうです。

 

 

■ 実践例

例として「なつかし(懐かし)」という言葉を解析してみましょう。
「なつかし(懐かし)」は「なつく(懐く)」+「し(如)」と分解されます。
「し(如)」は「しく(如く)」という動詞の略で、「〜のごとし(〜の如し)」の意を付加します。そしてこれが日本語の形容詞の活用語尾 (しか・しく・し・しき・しけれ・○) となっています。

【如く・若く・及く】シク  (広辞苑)
 [自五]
1.(同じ位置に) 追いつく。到りつく。
2.及ぶ。肩をならべる。匹敵する。

「なつく」はどうかというと、「なづ(撫づ)」+「つく(付く)」の合成です。
両語とも5分類の内の「A:合う/合わす」の意種の、ここでは「近寄る・親しむ・慕う」などの意になります。
したがって なつかし(懐かし) は「(心に)近寄る如し・親しむ如し」等が原義となります。

 
もう一つ、「まくら(枕)」を見てみましょう。
「まくら(枕)」は「まく(設く)」の連体形の「まくる(設くる)」が名詞化したものです。
その意味は「もうく(設く)・もうける(設ける)」と同じですが、現代人はこれを「設置する」の意味に捉えがちです。
しかし辞書を引いてみますと、

【設く】マク  (広辞苑)
[他下二]
1.あらかじめ用意する。もうける。
2.心がまえしてその時期を待つ。
3.時が移ってその時期になる。

このようにあり、元来は「あらかじめ用意する」「前もって置く」等の意味であることがわかります。
これは5分類の内では「A:合う/合わす」の意種の、ここでは「備える・対応する」などの意です。
したがって名詞形の まくら(枕) は 「前もって置く物」「土台」「下敷き」などが原義となります。

 

 

■ 他国語との関わり

漢字の音読みと呼ばれるものは、「中国での発音に基づく漢字の読み方」であると教えられ、そう信じてきましたが、多くの音読みは、やまと言葉の発音のバリエーションとして考えることが十分に可能です。

例えば、「一」を表す言葉は日本語では「ひと(hito)」ですが、漢音では「いつ(itu)」、呉音では「いち(iti)」です。
筆者は発音の近似からこの3語を同根と見ます。

また宙に舞う「てふ(蝶)」は、現在「ちょう」と呼ばれていますが、これは「とふ(飛ぶ)」の変態と考えています。
一方音読みの「ちょう」には「鳥」「跳」「頂」「超」などの漢字があり、「とふ・とう」には「登」「頭」がありますが、いずれも「D:飛ぶ・上に行く・上にある」等の意味です。

また「かきる(限る)」は、当理論では、「かく(離く)」+「きる(切る)」の合成で、
「B:離す・分ける・隔てる」等の意味であり、「かく」が名詞化すると「かき(垣)」になります。
一方音読みと信じられている「隔」「画」「殻」「郭」も「かく」と読みますが、いずれの意味も「限り」なのです。

他にも例を挙げれば枚挙するに限りがありません。これらの偶然?は何を語っているのでしょう。

 

また筆者は英語にも少しだけ通じているので、かなりの数の英単語にあたってみました。その結果、英単語も和単語と同様に「はじめに動詞あり」「動詞の表す意は5種に収束する」ということがわかりました。これは日本語と同じ語源理論が英語にも適用できるということを意味します。ですがこれはある程度予測できたことでした。大きな収穫は英単語と和単語の発音の共通性です。

例えば日本語には「する(擦る)」という動詞があります。この連体形が「すれる」とか「ずれる」で、
「それる(逸れる)」や「すべる(滑る)」も同意です。
一方、これらの意味に該当する英単語は「スライド(slide)」「スリップ(slip)」「スリザー(slither)」等です。
また日本語の「ずるい」は英語では「スライ(sly)」と言います。雪上を滑る「そり」は英語で「スレイ(sleigh)」「スレッド(sled)」「スレッヂ(sledge)」などと言うんです。

(※ 英語の場合、動詞の意味を表すのは先頭の 「sl*」 の部分のみで、
後の de, ip, ther, y, gh, d, dge の部分は名詞や形容詞を造るための接尾語です)

日本語の「する」と英語の「sl」は、根が一つなのでしょうか? それともただの偶然なのでしょうか?
もし偶然でないとすれば「全ての地は、同じ言葉と同じ言語を用いていた」とする、旧約創世記のバベルの塔の話が少し現実味を帯びてきます。

  

 

    記  10/09/29
訂・追 16/07/24

 

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