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 ジュリア・レノン (Julia Lennon) 

  
ジョン・レノンの母ジュリア・レノン [旧姓:スタンリー (Stanley)] は1914年にリヴァプール南部のトクステス (Toxteth) ヘッド通り (Head Street) 8番地で生まれる。女ばかりの5人姉妹の4番目で、家族からはジュディ (Judy) と愛称されていた。

彼女の母のアニー・ジェーン (Annie Jane) は1男1女をを産むが、どちらも生後まもなく死亡している。その後に彼女はミミ (Mimi) として知られるメアリー (Mary)、エリザベス (Elizabeth)、アン (Anne)、ジュリア (Julia)、ハリエット (Harriet) を産む。ジョン・レノンは後に、スタンリー姉妹は5人で素敵で・強く・美しく・知的な女性たちだったとコメントしている。

彼女らの父のジョージ・アーネスト・スタンリー (George Ernest Stanley) は船員を辞めた後、リヴァプール&グラスゴー・海難救助会 (Liverpool & Glasgow Salvage Association) の保険調査員の仕事を見つける。一家はウールトン (Woolton) の郊外、ペニー・レーン (Penny Lane) が近いニューキャッスル通り (Newcastle Road) の小さなテラスハウスに移り住む。

1945年に母のアニーが亡くなると、ジュリアはミミの助けも借りながら父の世話もしなければならなくなる。
  

アルフ・レノンとの結婚

アルフレッド・"フレディ"・レノン (Alfred 'Freddie' Lennon) は -家族からはアルフ (Alf) と呼ばれた- いつもジョークを飛ばしているが、仕事は余り長続きせず、リヴァプールのボードビル劇場や映画館に行くのが好きで、案内嬢の名前をみんな知っていた。カムデン通り (Camden Street) にあるトロカデロ (Trocadero) という映画館で、アルフは初めてジュリアを見る。その後、セフトン公園 (Sefton Park) でも会った。その時アルフは山高帽をかぶり、手にはタバコ入れを持っていた。当時14歳のジュリアはその格好を見て「バカみたい」と言い、それに答えて15歳のアルフは「君はかわいい」と言って彼女の隣りに座った。彼女が「帽子をとってみてよ」と言うと、すぐさま公園の池に投げた。

ジュリアはハイヒールを履いても5フィート2インチ (157.5cm) しかなかったが、成熟した魅力があり男たちの視線を集めた。いつもおしゃれして、朝起きた時もきれいに見えるように化粧したまま寝たという。彼女はどんな男よりユーモアがあり、後に姪の一人は「何もない所からジョークを作り出し、火事の家の中から笑顔とジョークで出てくることができた」と語っている。よくダンスホールやクラブに出かけ、しばしば兵隊や船員からダンスの相手を申し込まれた。彼女はウクレレ、アコーディオン、バンジョーを弾き、またヴェラ・リン (Vera Lynn) に似た声で流行のポップ・ソングを歌っていたという。

ジュリアとアルフは将来の夢を語りながらリヴァプールの街を一緒に歩いた。そして最初の出会いから11年後の1938年12月3日、彼女の方からプロポーズして、アルフ・レノンと結婚する。リヴァプール・マウントプレザント64番地にある登記事務所 (Mount Pleasant Register Office) に結婚届を提出するが、ジュリアは結婚のことを告げてなかったため、彼女の家族は誰も立ち会っていない。彼女は自分の職業欄には「映画館の案内嬢」と書いたが、これは嘘であった。彼らはハネムーンをクレイトン・スクウェア (Clayton Square) の近くのリーセス (Reece's) というレストランでの食事で済ませ (24年後、ジョンとシンシアもここで結婚を祝っている)、その後映画を見に行った。この新婚初夜にはそれぞれの家に別れて過ごした。ジュリアは家に帰ると、婚姻証明書を家族の前に投げ出して「ほら、彼と結婚したわ。」と叫ぶ。これは男と同棲したら勘当すると脅していた父親に対する彼女の反抗行動であった。

当初スタンリー家は完全にアルフを無視していた。ジュリアの父は娘を経済的に養って行ける安定的な仕事に就くことを要求する。しかしアルフは地中海行きの船の乗組員の仕事にサインした。数カ月後に海から戻ってスタンリー家に入り、芸人として地元の劇場支配人の面接を受けるが、うまく行かなかった。

1940年の1月にジュリアは妊娠したことを知る。しかし第二次大戦が始まって、アルフは船員を続けなければならなくなった。彼は定期的にジュリアに送金していたが、1943年に船から脱走したため、それも止まる。
  

ジョンの誕生

ジュリアは第二次大戦中の1940年10月9日、リヴァプールのオックスフォード通り産科病院 (Oxford Street Maternity Hospital) の2階病棟で、ジョン・ウィンストン・レノン (John Winston Lennon) を出産する。彼女の一番上の姉のミミは病院に電話して、ジュリアが男子を産んだことを告げられた。ミミは後年、空襲のさなかの炸裂弾の破片を避けながら急いで病院に駆けつけたと主張しているが、実際にはこの日リヴァプールが空襲を受けた記録は無い。その名は彼の父方の祖父ジョン・ジャック・レノン (John Jack Lennon) と時の英国首相ウィンストン・チャーチル (Winston Churchill) に由来する。父のアルフはジョンの誕生時には海上にあった。
  

ヴィクトリアの誕生

1942年から43年の期間、ジュリアは息子と一緒にウールトン・アラートン通り120a番地 (120a Allerton Road, Woolton) の通称「酪農小屋 (The Dairy Cottage)」と呼ばれる家に住んだ。この小屋の持ち主はジュリアのミミの夫、ジョージ・スミス (George Smith) である。姉ミミはジュリアがここに住むことを望んだ。ここはミミの家からは近く、実家のスタンリー家からは遠かったからである。

アルフは頻繁に海に出ていないものだから、ジュリアは度々ダンスホールで夜を過ごすようになる。1942年、彼女はウェールズ人兵タフィ・ウィリアムズ (Taffy Williams) と知り合う。彼はリヴァプールのモスリー・ヒル (Mossley Hill) にある兵舎に駐在していた。アルフは、長引く戦争で気が滅入るから、たまには外出して楽しみなさい、と手紙に書いた自分を後に責めている。

1944年の後半にジュリアはウィリアムズによって妊娠する (当初は見知らぬ兵隊にレイプされたと言っていた)。ウィリアムズは、ジュリアが息子を手放さない限り彼女とは一緒になれないと拒む。しかしジュリアもそれを承諾しなかった。1944年にアルフがリヴァプールにもどった時、彼はこれまで通りジュリアとジョン、そして生まれて来る赤ん坊の面倒も見ると申し出る。しかしジュリアはこの申し出を拒否する。

アルフはジュリアが出産する前の数ヶ月、ジョンをリヴァプール郊外のマグハル (Maghull) にある兄シドニー (Sydney) の家に連れて行った。1945年6月19日、ジュリアはノース・モスリー・ヒル通り (North Mossley Hill Road)にある 救世軍エルムズウッド病院 (Salvation Army's Elmswood Infirmary) で女児を生み、ヴィクトリア・エリザベス (Victoria Elizabeth) と名付る。

ジュリアの実家からの強い圧力により、ヴィクトリアはノルウェー救世軍の大佐ペダー・ペダーセン (Peder Pedersen) とその妻マーガレット (Margaret) のもとに養子に出される。その子はイングリッド・マリー・ペダーセン (Ingrid Marie Pedersen) と改名され、ノルウェーで育てられた。ジョンはヴィクトリアの誕生を告げられていない。ジョンが存命中にこの妹の存在を知ることがあったかどうかはわからない。
  

ジョン・"ボビー"・ディキンズ

ヴィクトリア誕生の1年後、レノンのモスピッツ (Mosspits) 小学校近くのカフェーで働いていた頃、ジュリアはディキンズに会うようになる。ディキンズはハンサムできちんとした身なりの男で、リヴァプールのアデルフィ・ホテル (Adelphi Hotel) でワインの給仕係として働いていた。そしてその後彼女はディキンズのギャティカー (Gateacre) の小さなフラットに移る。彼は酒、チョコレート、絹のストッキングなどの制限物資を手に入れることができ、贅沢を楽しんでいた。これが始めジュリアの気を惹いた。

ジュリアはアルフと離婚していなかったが、ディキンズの内縁の妻と見られていた。彼女はレノンも彼らと一緒に住んで欲しいと望んでいたが、レノンはジュリアの4人の姉妹の間を行き来し、しばしば泣きながらミミの家に逃げ込んだ。

スタンリーの実家からは、娘がディキンズの内縁の妻となっていることに批判が激しかったし、ミミからのプレッシャーもあった。ミミは幼いレノンがジュリアとディキンズと同じベットに寝かされていると、リヴァプールの社会相談窓口に2度苦情を申し立てている。こうした事情から、ジュリアはやむなくレノンの養育をミミとその夫のジョージ・スミスに託すことにした。

1946年7月、アルフはメンローヴ通り (Menlove Avenue) 251番地の通称「メンディップス (Mendips)」と呼ばれるミミの家を訪ね、レノンをブラックプール (Blackpool) での長期休暇に連れ出す。しかし彼は密かにレノンと一緒にニュージーランドに移民することを考えていた。ジュリアとディキンズはそれを知ってブラックプールまで追っていく。アルフはジュリアに一緒にニュージーランドに行ってくれと頼むが、彼女は拒否した。激しい討論の後、「息子自身に父親か母親か選ばせよう」と言った。5歳の息子はアルフを (2度) 選んだ。しかしその後ジュリアが立ち去ろうとすると、彼は泣きながらジュリアを追いかけて行ったのだった。その後アルフはビートルマニアの時代に息子に再会するまで、この家族と連絡を取ることは無かった。

ジュリアはレノンを自分の家に連れて帰り、地元の小学校に入れる。しかし数週間後にまた彼をミミのもとに帰している。いかなる理由の元の判断かは明らかでなく、さまざまな推論がなされているが、ジョンは後年自分を責めて「ママは僕を扱いきれなかったんだ」と言っている。それ以降ずっとレノンはメンディップスにミミ夫婦と暮らした。

後年ジュリアはレノンに数週間に渡ってせがまれた後、5ポンド10シリングでギターを彼に買い与えている。でも必ずミミの家ではなく私の家に配達させなさいと念を押している。彼がコードを覚えるのに苦労していると、彼女はより簡単なウクレレとバンジョーのコードを教えた。

ミミはレコード・プレーヤーを家に置くことを拒んだので、レノンはジュリアの家でレコードを鳴らした。彼女はエルビスのレコードをかけてキッチンでジョンと踊ったものだった。1957年にクオリーメン (Quarrymen) がペニー・レーン (Penny Lane) のバーナバス・ホール (Barnabas Hall) で演奏した時、ジュリアは見に来ていた。1曲が終わるたびに彼女は誰よりも大きな拍手と歓声を送り、コンサートの間じゅう舞い踊っていたという。レノンはこの時期、頻繁に彼女に家を訪れて自分の不安や心配を告白し、彼女はミミが反対しても音楽を続けなさいと励ました。
  

ジュリアとジャッキー

ジュリアはディキンズとの間に二人の娘を儲けている。ジュリア・ベアード (Julia Baird) [旧姓:ディキンズ (Dykins) 1947年生まれ] とジャクリーヌ・ディキンズ (Jacqueline Dykins) [通称:ジャッキー (Jackie) 1949年生まれ] である。ジョンは11歳の頃からディキンズの家に行くようになり、時には泊った。

ジュリアの死後、11歳と8歳の二人の少女はエジンバラのエリザベス叔母さんのもとへ送られる。母の死を告げられたのは2ヶ月の後だった。ビートルズが商業的に成功した後、レノンはベアードとジャッキーがハリエット夫婦と住むために、ギャティカーに4ベッドルームの家を買っている。このハリエット夫妻は法律上、ベアードとジャッキーの後見人であった。ディキンズはジュリアと結婚してなかったので、ディキンズの親権は法的に無効なのであった。

ベアードとジャッキーは後年、義理の姉であるヴィクトリア/イングリッドと会っている。それはレノンがかつて住んだことを記念して青い銘板 (Blue plaque) をミミの家に設置するセレモニーに出席した時であった。ベアードは青い目と金髪を持つイングリッドを初めて見て、スタンリー家の人間とまったく似てないことにショックを受けたという。
  

ジュリアの死

ジュリアはほとんど毎日ミミの家を訪れた。そしてお茶とケーキでおしゃべりを楽しんだものだった。1958年7月15日の夜、ナイジェル・ウォーリー (Nigel Walley) がそこにジョンを訪ねると、ジュリアとミミが門前でしゃべっていた。ジョンはブロムフィールド通り (Blomfield Road) のジュリアの家に行ってるのでいないという。ウォーリーはジュリアと一緒にメンローヴ通りをバス停に向かって歩いた。午後9時30分頃、ウォーリーは彼女と別れてヴェール・ロードを上り、ジュリアはメンローヴ通りを横断して中央分離帯にいた。5秒後にウォーリーは大きな音を聞き、ふり返って見るとジュリアが空中を飛んでいた。彼女は30mも飛ばされた。彼は走ってミミを呼びに行き、そして救急車を待った。ミミは半狂乱で叫んでいた。

ジュリアはエリック・クレイグ (Eric Clague) という非番の巡査が運転する車にはねられて死亡した。彼は見習い運転手 (learner-driver) だった。彼はすべての容疑を免れ、短期間の職務停止を受けただけに留まった。ミミがその判決を聞いた時、怒りのあまり「人殺し!!」とクレイグに叫んだ。

ジョンはセフトン・ゼネラル病院 (Sefton General Hospital) に連れられた時、母の遺体を見ることができなかった。また取り乱して葬儀の間じゅうミミのひざに顔を埋めていた。彼女はリヴァプールのアラートン共同墓地 (Allerton Cemetery) に埋葬された。

  

  

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